Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

<亮と静香>高校時代(23)ー強すぎる光ー

2016-02-27 01:00:00 | 河村姉弟3<向けられた背中~後日録>
ピアノコンクール当日。

「あー‥クソッ」



河村亮は鏡を眺めながら、首にぶら下がった蝶ネクタイを不満気に弄んでいた。

「フツーのネクタイ頼んだのに‥どうしてもコレかよ‥。

今日のオレってばまた一段と麗しいっつのに、まさに玉にキズだな、こりゃ」




どうしても好きになれない蝶ネクタイを眺めながら、亮は溜息を吐いてふと上を向いた。

この胸をモヤモヤとさせている原因は、首元を締める滑稽なそれだけではなさそうだ。



亮はコツコツと靴先を鳴らしながら、その原因となる青田淳に思いを馳せる。

つーか‥淳の野郎‥一体何考えてやがんだろ。

気になんじゃねーかよ。マジで何かあったとか?




先日青田家に出向いた時の彼は、明らかにどこかおかしかった。

門の前で佇む彼が放つその異様な空気に、亮は気圧されてそれ以上は追及出来なかったのだ‥。






亮は磨かれた革靴に視線を落としながら、淳への対応を改めて考える。

結局コンクールの準備のせいでまともに話せてねーし‥

終わったら一回肚据えて話した方が良いな。静香もなんだかピリピリしてっし‥




そう結論づけて、亮は前を向いた。

自分の出番まであと少しだ。

ま、それはそれだ。



とりあえず、と



亮は髪をかき上げると、ニッと不敵な笑みを浮かべた。十本の指に力が漲る。

そして亮はその晴れの舞台へと、自信満々な表情を浮かべて向かって行った。







その指が鍵盤に触れると、世界は色を変える。

洪水のような音の中へ、彼は沈み込んで行く。



その鮮やかな音の波は、聴く者全てを魅了した。

聴衆が感嘆の息を吐く、その息遣いが聞こえる。



そんな雰囲気の中で、青田会長は誇らしげに胸を張り、亮のことを見つめていた。

まるで息子の活躍を見守る、父親のような表情で。



後方の席で、青田会長の姿を見つけた女性達が、ヒソヒソと話をしている。

「あの人、まさかZ社の‥」「来るかもって噂あったけど、本当だったんだ」

「あの人がこんな所に来るなんて‥」「知り合いでも出てるのかしら」



大企業の会長が、このようなコンクールに直接顔を出すことは珍しい。

亮直々の頼みだからこそ、会長はここへ出向いたようなものだった。



そしてそれに応えるように、亮は最後まで非の打ち所の無い演奏をした。

やがて曲が終わり、割れるような拍手が届く。

亮は胸に手を当てながら、聴衆に向かってぺこりと頭を下げた。






観客はスタンディングオベーションで、亮に熱い拍手を送る。

女性達からは「かわいい」と黄色い声も飛んだ。

そしてその中で一際嬉しそうな顔をしていたのは、青田会長だった。







亮はそんな会長の顔を見て、ニコッと笑った。まるで少年のように。

さながら親子のようなそんなやり取りは、亮がステージを下りてからも続く。



沢山のカメラが、亮と青田会長の周りを取り囲んだ。

次々と焚かれるフラッシュ。

その眩すぎる光の中で、彼らは本当の家族のように喜びを分かち合い、嬉しそうに微笑む‥。









その頃、会場の裏口で河村静香は一人煙草をふかしていた。

亮の演奏が終わってから、もう軽く数時間は経っている。

「あー‥終わったら早く来いっつの‥」



待ちくたびれた静香は、ぶつくさと文句を言いながら建物の中へ入るドアへと向かった。

「どんだけクソ長い挨拶だよ‥もう先にご飯行っちゃお。会長どこかなー



そう独りごちながら歩く静香。

すると外にあるベンチに、一人の男子学生が座っているのに気がついた。



あれ?アイツも来てたの?

亮と同じピアノ科のナントカ‥




顔を覗き込もうとした静香だったが、それはかなわなかった。

なぜなら男子学生は肩を震わせ、ポスターに顔を埋めながらシクシクと泣いていたからだ。

おっつ‥



静香はそんな男子学生を眺めながら、自身の思うところを心の中で呟く。

あーあ、参加すら出来なかったんだから、

わざわざこんなトコまで来て泣かなくても‥。

「あぁボクチン悲劇の主人公!」っての?そんな自分に酔っちゃってさぁ




静香はポーチから口紅を取り出し、その形の良い唇に塗り始めた。

才能が無ければ、結局はああなるのよ



この世界に光と影があるならば、あの男子学生は間違いなく影だろう。

静香は自身の奥に沈めたその影を、唇に塗った赤いルージュで払拭した。






「マジ楽勝~」



光のステージから下りた亮の手には、沢山の花束やプレゼントで溢れていた。

その中から蝶ネクタイを見つけた亮は、廊下にあったゴミ箱にそれを捨てる。

「これはいらねー」



大荷物をガサガサいわせながら、亮は携帯を取り出し、表示される地図へと目を落とした。

「えーっと会長がメシおごってくれるっつーホテルの場所は‥と

静香のヤツ、この大荷物持ってくんねーし。一人でさっさと行っちまいやがって‥クソッ」




その不満気な口調とは裏腹に、廊下を歩く亮の足取りは軽い。

抱えた花束から、爽やかな良い香りがした。その香りを吸い込むと、なんとも晴れやかな気分になる。



「あの‥河村亮君?」



不意に名前を呼ばれ振り返ると、そこに居た男は嬉しそうに亮に近付いた。

「俺、D高の‥。受賞おめでとう」「ああ!お前か」

「ちょっと聞きたいことがあるんだけど‥」「ん?」







男はそう切り出すと、「聞きたいこと」を口にし始めた。

彼らが何を話しているのかは、まだ明かされはしないが。



そして男の質問が全て終わると、亮はそれに対する答えを口に出す。

口元に笑みを浮かべ、どこか得意げな表情で。

「それはー‥」










そこに当たる光が強ければ強いほど、周りへの視界は絶たれ、そして同時に影が強くなる。

だから彼は踏み外してしまったのだ。

輝かしい未来へと続くその一本の道から足を滑らせ、周りを囲む深い溝の奥底へとーー‥。




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<亮と静香>高校時代(23)ー強すぎる光ー でした。

順風満帆だった亮の未来が、だんだんと陰っていく感じがしますね‥。

なんとも不穏な雰囲気‥うう‥胃が痛くなりそう‥。


次回は<亮と静香>高校時代(24)ー陰への転落ー です。


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