河村亮は上機嫌で青田家を出た。
鼻歌をハミングしながら、静かな秋の道を歩く。
すると突然、後方から声を掛けられた。
「亮」「ぅおっ!」
振り返ると、通用門の前に淳が立っている。
何の気配も無く現れた彼に向かって、亮は大声を上げた。
「あー!ビビったぁ!」
まるでお化けのように、いつの間にかそこに佇んでいた淳。
亮は心臓をドキドキ言わせながら、驚かされたことへの文句を口にした。
「何だよお前は!あービックリ‥」
「お前、」
しかし淳は亮のリアクションに何の反応もせず、低い声で話を続ける。
「本気で俺のこと親友だと思ってるのか?」
やにわに切り出されたその話。亮は思わず首を傾げる。
「はぁ?」
そこに佇んでいる淳の顔は、門の明かりが逆光になってよく見えなかった。
どこかで虫が鳴いている声が聞こえ、二人の間に沈黙が落ちる。
それきり何も言わない淳に向かって、亮は違和感を感じながらも口を開いた。
「‥んだよ」
それでも亮は、日々感じていたモヤモヤから一歩脱却出来たような気がしていた。
自身のことを避けていた淳が、ようやく自分から話し掛けて来たからだ。
亮はなんだか嬉しくなり、大きな口を開けて笑う。
「この~!ウケるじゃねーか!この野郎!おぉ、そーだよ!ダチだっつーの!
もう言いたいことは思い出したのか?ちょっと言ってみ‥」
「だったらそこで止まれ」
突然の拒絶。
その淳の言葉は、氷のように冷たく、何とも言えぬ威圧感があった。
亮は目を丸くして、思わずその場で立ち止まる。
「えっ?」
青田家の門の明かりが、淳と亮の間に境界線を作っていた。
亮はその場に立ち止まりながら、自身の足元を見つめてみる。
立ち尽くす亮に向かって、淳は無機質な声でこう言った。
「お前はそこまでだ」
「線を守れ」
キョトンと立ち竦む亮の顔を、淳は瞬きもせぬまま凝視していた。
自身のテリトリーの中で彼は、部外者に向かって警告を発する。
有無を言わせぬその眼差しを前にして、亮は訳もなく怯んだ。
淳の行動の意味も、今言われたその言葉の真意も何も理解は出来ていないが、
何か言葉に出来ない勘のようなものが、その先に進むことを躊躇わせる。
「‥?おお‥」
亮は首を傾げながら、帰宅の方向へ足を向け、淳にこう声を掛けた。
「こりゃまた一体どういう意味だか‥。
もーいーよ。帰って寝てくれ。な?」
そして亮は淳に背を向け、去り際にこう一言口にした。
その言葉が、二人の関係に深い溝を作ることになるとは、露ほども知らずに。
「変なヤツ」
"変"
ピクッ、と淳の手が微かに震えた。
今亮が発したその言葉は、間違いなく淳にとって地雷だった。
「明日話そーぜ!」
亮は後ろ手に手を振りながら、いつものその親しげな調子でそう言い、帰って行く。
門の前で立ち尽くす淳と亮との距離が、境界線を挟んで徐々に離れて行った。
目には見えないその線のこちらと向こうの間に、溝が出来て行く。
もう渡ることは不可能な程、その溝は深くなっていた。
辺りはひっそりと静まり返り、秋の夜に鳴く虫の音しか聞こえない。
けれど淳の中ではけたたましい音と共に、
地面が割れ、天が鳴り、世界が崩壊しつつあった。
抑えて来た感情が、見ない振りをして来た現実が、
その全てが、淳を追い詰めその仮面を剥がして行く。
荒廃した世界に広がった闇。
その闇が、”部外者”の犯した罪へと手を伸ばす‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<亮と静香>高校時代(22)ー境界線ー でした。
今回の秀逸な一コマ!
二人の間に出来た境界線を、門の明かりで表現するとは!
スンキさん、なんと憎い演出!!本当に巧いなぁ~~!と惚れ惚れしました
そして最後の淳の表情がなんとも印象的です。感情剥き出しですね。
次回は<亮と静香>高校時代(23)ー強すぎる光ー です。
☆ご注意☆
コメント欄は、><←これを使った顔文字は化けてしまうor文章が途中で切れてしまうので、
極力使われないようお願いします!
人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ
引き続きキャラ人気投票も行っています~!
鼻歌をハミングしながら、静かな秋の道を歩く。
すると突然、後方から声を掛けられた。
「亮」「ぅおっ!」
振り返ると、通用門の前に淳が立っている。
何の気配も無く現れた彼に向かって、亮は大声を上げた。
「あー!ビビったぁ!」
まるでお化けのように、いつの間にかそこに佇んでいた淳。
亮は心臓をドキドキ言わせながら、驚かされたことへの文句を口にした。
「何だよお前は!あービックリ‥」
「お前、」
しかし淳は亮のリアクションに何の反応もせず、低い声で話を続ける。
「本気で俺のこと親友だと思ってるのか?」
やにわに切り出されたその話。亮は思わず首を傾げる。
「はぁ?」
そこに佇んでいる淳の顔は、門の明かりが逆光になってよく見えなかった。
どこかで虫が鳴いている声が聞こえ、二人の間に沈黙が落ちる。
それきり何も言わない淳に向かって、亮は違和感を感じながらも口を開いた。
「‥んだよ」
それでも亮は、日々感じていたモヤモヤから一歩脱却出来たような気がしていた。
自身のことを避けていた淳が、ようやく自分から話し掛けて来たからだ。
亮はなんだか嬉しくなり、大きな口を開けて笑う。
「この~!ウケるじゃねーか!この野郎!おぉ、そーだよ!ダチだっつーの!
もう言いたいことは思い出したのか?ちょっと言ってみ‥」
「だったらそこで止まれ」
突然の拒絶。
その淳の言葉は、氷のように冷たく、何とも言えぬ威圧感があった。
亮は目を丸くして、思わずその場で立ち止まる。
「えっ?」
青田家の門の明かりが、淳と亮の間に境界線を作っていた。
亮はその場に立ち止まりながら、自身の足元を見つめてみる。
立ち尽くす亮に向かって、淳は無機質な声でこう言った。
「お前はそこまでだ」
「線を守れ」
キョトンと立ち竦む亮の顔を、淳は瞬きもせぬまま凝視していた。
自身のテリトリーの中で彼は、部外者に向かって警告を発する。
有無を言わせぬその眼差しを前にして、亮は訳もなく怯んだ。
淳の行動の意味も、今言われたその言葉の真意も何も理解は出来ていないが、
何か言葉に出来ない勘のようなものが、その先に進むことを躊躇わせる。
「‥?おお‥」
亮は首を傾げながら、帰宅の方向へ足を向け、淳にこう声を掛けた。
「こりゃまた一体どういう意味だか‥。
もーいーよ。帰って寝てくれ。な?」
そして亮は淳に背を向け、去り際にこう一言口にした。
その言葉が、二人の関係に深い溝を作ることになるとは、露ほども知らずに。
「変なヤツ」
"変"
ピクッ、と淳の手が微かに震えた。
今亮が発したその言葉は、間違いなく淳にとって地雷だった。
「明日話そーぜ!」
亮は後ろ手に手を振りながら、いつものその親しげな調子でそう言い、帰って行く。
門の前で立ち尽くす淳と亮との距離が、境界線を挟んで徐々に離れて行った。
目には見えないその線のこちらと向こうの間に、溝が出来て行く。
もう渡ることは不可能な程、その溝は深くなっていた。
辺りはひっそりと静まり返り、秋の夜に鳴く虫の音しか聞こえない。
けれど淳の中ではけたたましい音と共に、
地面が割れ、天が鳴り、世界が崩壊しつつあった。
抑えて来た感情が、見ない振りをして来た現実が、
その全てが、淳を追い詰めその仮面を剥がして行く。
荒廃した世界に広がった闇。
その闇が、”部外者”の犯した罪へと手を伸ばす‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<亮と静香>高校時代(22)ー境界線ー でした。
今回の秀逸な一コマ!
二人の間に出来た境界線を、門の明かりで表現するとは!
スンキさん、なんと憎い演出!!本当に巧いなぁ~~!と惚れ惚れしました
そして最後の淳の表情がなんとも印象的です。感情剥き出しですね。
次回は<亮と静香>高校時代(23)ー強すぎる光ー です。
☆ご注意☆
コメント欄は、><←これを使った顔文字は化けてしまうor文章が途中で切れてしまうので、
極力使われないようお願いします!
人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ
引き続きキャラ人気投票も行っています~!