「雪ちゃん」
暫し雪の肩に頭をもたげていた淳であったが、不意に彼女の名を呼び顔を上げた。
淳の心は弾んでいたのだ。今彼女が自分の隣に居ること、静かな場所で自分の理解者と共に居ることに。
「あ、はい‥」
そして雪は彼の方を向いた。
何か話があるのかと思って。
チュッ、と淳の唇が雪のそれに軽く触れた。
何が起こったのか分からない雪と、嬉しくてニコニコ笑う淳と。
何、と言いかけた彼女に、再びキスをする彼。
二回目のキスは、一回目のそれより深く触れた。
えっ?
見開いたままの瞳の先に、超至近距離で彼の顔があった。
今さっき何をされたのか、そして今何をされているのか。
雪はようやくそれに思い至る。
「@#%$?!せせせ先輩ーーー?!?!」
雪は大赤面し、思わず唇を両手で押さえた。
そんな動揺しまくりの雪に対して、淳は一つも取り乱さず彼女のことを見つめている。
「い、い、い、い、いきなりなにっ‥!」
雪の心臓は早鐘を打ち、全身に変な汗が噴き出していた。
しかし淳は尚も雪に近づくと、優しく彼女の頬に触れる。
「どうして? 誰も見てないじゃない」
淳は囁くようにそう口にした。
先ほど皆にキスを強要された時に、彼女が何度も口にしていたその言葉‥。
だから何でみんなの前で‥!
ということは、皆が見ていないところならば良いことになる。
そんな根拠を味方につけて。
未だ目を見開いている雪に、ゆっくりと彼の影が覆いかぶさる。
淳は左手で雪の頬を撫ぜながら、もう一度その柔らかな感触を味わう。
秋の夜。
夜の路地。
涼しい風が吹いていた。どこかで秋の虫が鳴く声が聞こえた。
もう、何も見えなかった。
目を閉じていたから。
ネオンが溶けたような都会の夜空はぼんやりと明るい。
その空の下で、今日も人々は行き交いすれ違い、思い思いの場所を目指す。
世界は何も変わらず、今日も地球は回っている。
けれどその世界を見つめる自分の目は、何かのきっかけで変わることがある。
見慣れた道。
石畳の敷かれた細い路地。
聞こえて来るのは遠くの喧騒、秋に鳴く虫の声。
そして、隣で眠る彼の寝息。
規則的な、けれど温かなその吐息を感じながら、
雪はポカンと口を開けていた。
先ほどまで、その唇は彼のそれと触れ合っていた。
雪は膝を抱えた体勢のまま、じっとその場に座っていた。
肩にかかる彼の重さすら、気にならないくらいだった。
ポケッとした表情で、彼女は空を見つめている。
丸い月とネオンの光で、ぼんやりと光ったその夜空を。
そして雪はその夜空に、先ほどのことを思い出してその記憶をなぞってみた。
すると自然に、彼の方に顔を向けた。よく眠っている。
雪はぎこちなく彼に手を伸ばした。
柔らかなその髪に触れると、さらさらと指の間から零れ落ちるようだ。
そして気がついたら再び、唇を押さえていた。
色々な感情が胸の中を騒がせ、変な笑いとなって溢れ出るのだ。
「は‥」
一度口から笑いが溢れると、それは止まらなくなってしまった。
「ははは‥」
はははは‥と、その後も雪はその場で笑い続けた。
静かな寝息を立てる彼の横で、変な高揚が彼女の笑いをいざなう。
紅葉し色付いた葉が、様々な光を受けて淡く煌めく。
秋の夜の澄んだ空気のせいだけじゃなく、雪の目にそれはとても美しく映った。
ぼんやりと光るネオンの空、その遥か上に、眩いばかりの満月が輝く。
世界は変わらず今日も回っている。
けれど彼とのキスが、雪が見る世界を少し変える‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<秋の夜のキス>でした。
いや~~雪と淳もここまで来ましたね!!読者としては長かった‥!
(漫画の中では付き合って二ヶ月ですが、読者にとっては一年半ですって^^;)
先輩の嬉しい気持ちが溢れてましたね‥。初キス、おめでとう~~!
次回は<心ここにあらず>です。
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暫し雪の肩に頭をもたげていた淳であったが、不意に彼女の名を呼び顔を上げた。
淳の心は弾んでいたのだ。今彼女が自分の隣に居ること、静かな場所で自分の理解者と共に居ることに。
「あ、はい‥」
そして雪は彼の方を向いた。
何か話があるのかと思って。
チュッ、と淳の唇が雪のそれに軽く触れた。
何が起こったのか分からない雪と、嬉しくてニコニコ笑う淳と。
何、と言いかけた彼女に、再びキスをする彼。
二回目のキスは、一回目のそれより深く触れた。
えっ?
見開いたままの瞳の先に、超至近距離で彼の顔があった。
今さっき何をされたのか、そして今何をされているのか。
雪はようやくそれに思い至る。
「@#%$?!せせせ先輩ーーー?!?!」
雪は大赤面し、思わず唇を両手で押さえた。
そんな動揺しまくりの雪に対して、淳は一つも取り乱さず彼女のことを見つめている。
「い、い、い、い、いきなりなにっ‥!」
雪の心臓は早鐘を打ち、全身に変な汗が噴き出していた。
しかし淳は尚も雪に近づくと、優しく彼女の頬に触れる。
「どうして? 誰も見てないじゃない」
淳は囁くようにそう口にした。
先ほど皆にキスを強要された時に、彼女が何度も口にしていたその言葉‥。
だから何でみんなの前で‥!
ということは、皆が見ていないところならば良いことになる。
そんな根拠を味方につけて。
未だ目を見開いている雪に、ゆっくりと彼の影が覆いかぶさる。
淳は左手で雪の頬を撫ぜながら、もう一度その柔らかな感触を味わう。
秋の夜。
夜の路地。
涼しい風が吹いていた。どこかで秋の虫が鳴く声が聞こえた。
もう、何も見えなかった。
目を閉じていたから。
ネオンが溶けたような都会の夜空はぼんやりと明るい。
その空の下で、今日も人々は行き交いすれ違い、思い思いの場所を目指す。
世界は何も変わらず、今日も地球は回っている。
けれどその世界を見つめる自分の目は、何かのきっかけで変わることがある。
見慣れた道。
石畳の敷かれた細い路地。
聞こえて来るのは遠くの喧騒、秋に鳴く虫の声。
そして、隣で眠る彼の寝息。
規則的な、けれど温かなその吐息を感じながら、
雪はポカンと口を開けていた。
先ほどまで、その唇は彼のそれと触れ合っていた。
雪は膝を抱えた体勢のまま、じっとその場に座っていた。
肩にかかる彼の重さすら、気にならないくらいだった。
ポケッとした表情で、彼女は空を見つめている。
丸い月とネオンの光で、ぼんやりと光ったその夜空を。
そして雪はその夜空に、先ほどのことを思い出してその記憶をなぞってみた。
すると自然に、彼の方に顔を向けた。よく眠っている。
雪はぎこちなく彼に手を伸ばした。
柔らかなその髪に触れると、さらさらと指の間から零れ落ちるようだ。
そして気がついたら再び、唇を押さえていた。
色々な感情が胸の中を騒がせ、変な笑いとなって溢れ出るのだ。
「は‥」
一度口から笑いが溢れると、それは止まらなくなってしまった。
「ははは‥」
はははは‥と、その後も雪はその場で笑い続けた。
静かな寝息を立てる彼の横で、変な高揚が彼女の笑いをいざなう。
紅葉し色付いた葉が、様々な光を受けて淡く煌めく。
秋の夜の澄んだ空気のせいだけじゃなく、雪の目にそれはとても美しく映った。
ぼんやりと光るネオンの空、その遥か上に、眩いばかりの満月が輝く。
世界は変わらず今日も回っている。
けれど彼とのキスが、雪が見る世界を少し変える‥。
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<秋の夜のキス>でした。
いや~~雪と淳もここまで来ましたね!!読者としては長かった‥!
(漫画の中では付き合って二ヶ月ですが、読者にとっては一年半ですって^^;)
先輩の嬉しい気持ちが溢れてましたね‥。初キス、おめでとう~~!
次回は<心ここにあらず>です。
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