突然目の前に躍り出たその男の顔を見ても、横山翔はそれが誰なのか咄嗟には思い出せなかった。
目を剥いている横山に向かって、亮はニッコリと微笑みかける。
その顔を見て、横山はようやくその男が誰かということに思い至った。
夏休み、路地裏で赤山雪と揉めた際、現れた外国人講師だ。横山は頬を思い切り殴られた‥。
横山は顔を青くしながら、心のままに叫んだ。
「ヤ、ヤンキー男!!」「おっ!覚えてっか?久しぶりだな?」
愛想良くそう返す亮に向かって、横山は歯噛みした。
またしてもこの男が、絶妙なタイミングで割り込んで来た‥。
そんな横山に向かって、亮はニヤリと笑いながら話し掛ける。ペチペチとその頬を軽く叩きながら。
「ど~こ行こうとしてんだぁ?笑って走ってる姿が変態みてーだったけど‥。
どこへ何しに行くつもりだ?」
横山は亮から目を逸らしながら言葉を濁そうとしたが、亮が「図書館か?」と聞くと口を噤んだ。
亮は目を見開いたまま、横山の肩に手を置きプレッシャーを掛ける。
「ひょっとしてオレの知り合い、追っかけに行くんじゃねーだろーな?」
亮の凄みに、横山は何も言えず俯いた。
亮はそれが横山の無言の肯定と受け取り、狂気の孕んだ目で彼を見据える。
「そうなんか?」
それきり俯く横山を、亮は少し強めに手で彼を押しながら言葉を続けた。
「おい、暇人かお前は。お前の親、お前が生まれた時には赤飯炊いてお祝いだっただろーに。
んなことするために生まれてきたワケじゃねーだろ?あぁ?」
人生を諭すような言葉を掛けられ、横山は逆上して亮の手を振り払った。
「くっそ‥何の関係があんだよ!お前俺に手ぇ上げんなよ?
また俺に指一本でも触れたら、すぐに留置場行きにしてやるからな!」
横山からのその脅しに、亮は両手をホールドアップして無罪の訴えだ。
そんな亮の横を、横山は文句を言いながら通り過ぎようとする。
「前に赤山がした脅迫がまだ通用すると思ってんじゃないだろうな?!どけっ!」
しかし亮は手を出さない代わりに、横山の前に踏み出し彼の行く先を塞いだ。
身長差はおよそ15センチ。亮はその場に佇んだまま、横山をじっと見下ろした。
亮はあくまで横山の前進を阻止する姿勢だ。
しかし横山は怯まず、亮の横をすり抜けようと斜め前に足を踏み出す。
が、亮はしつこく付いて来た。
横山が逆方向に踏み出そうとしても、すぐさまその先を塞ぐ。
亮は無表情のまま横山を見下ろしていた。
彼のその態度に横山は苛つき、声を荒げながら彼を押し退けようとした。
「どけったらこのヤロ‥」
すると次の瞬間、河村亮は大きな声を上げながら吹っ飛んだのだった。
「うわあぁぁっ!!」
その突然の出来事に、横山は目玉が飛び出す程驚いた。しかし亮は尚も大袈裟なアクションを起こし続ける。
「うわ~!うわ~っ!死にそうだぁぁ!」
その亮の叫びに、徐々に通行人が集まってきた。
横山はその場でただオロオロしながら、亮に声を掛け続ける。
「や、止めろよ‥!くだらねーことしやがってこのバカ‥!」
丸まりながら呻きを上げていた亮だったが、不意にその腕が横山の足を掴んだ。
強い力で、それを自分の身体へと引き付ける。
すると亮は、更なる叫びを上げた。今や横山達の周りには人だかりが出来ている。
「うわぁあ死んじまう~~!足蹴にされて死んじまう~~!」
横山は周りの人々に「違うんです!俺は何も‥!」と弁解するも、
皆横山に疑いの目を向けてヒソヒソと話し始めた。横山は堪らず、亮に向かって声を荒げる。
「おい起きろ!演技止めろ!てかしっかりしてんじゃねーか!」
すると下を向いた横山の首に亮の腕が伸び、次の瞬間横山は亮に頭突きを食らわされた。
ゴッという額と額がぶつかり合う音が響く。
横山の目の前に星がくるくると回る。しかし亮は尚も「うわ~!この人殺そうとしてくるぅ~!」と大袈裟に声を上げ続けた。
そして横山がクラクラしているのを良いことに、亮は横山の手を掴み自分の頬を叩く素振りをし始めた。
「うわっ!うわーっ!」 「おい何やってる!止めろ!」 「きゃーっ!」
するとさすがにこれを見かねた通行人達が声を上げ始めた。
そしてその人だかりの中に横山の知り合いも居たらしく、彼等は白い目をして声を掛けて来たのだった。
「横山ぁ?」
その内の一人は携帯を向けて横山と亮のことを撮っている。
横山は血相を変え、違うんだと言ってその場から逃げ出した。亮が頬を押さえながら叫ぶ。
「アイツ逃げんぞ‥!」
横山は舌打ちをしながら、全速力で構内を駆けた。何もかもが想定外である。
「くそっ‥!いきなりどうしてこんな‥」
すると突然身体の自由が奪われた。強い力でぐんと引っ張られる。
「ひいっ‥?!」
首の後ろを掴まれた横山が振り返ると、そこには狂気を孕んだ目をした男が居た。再び河村亮である。
「逃げんなって。留置場見物させてくれんじゃなかったのかぁ?」
亮はそう言うと、首を掴んだ手に一層力を込め始めた。
青筋が浮くほど強いその力に、徐々に横山の身体が前に倒れて行く。
亮はもう一方の手で横山の手首を掴み、背中につけて反撃不能にした。
亮の瞳が狂気に歪む。
「おいイタチ野郎、もう一度ダメージに手出ししたなら、
オレがお前を完全に人として暮らして行けなくさせてやんよ」
亮は横山を組み敷いた姿勢で、バカにしたようにポンポンと頭を叩いてこう続けた。
「歯ぐきでメシ噛んで、学校へは四足で這って行き来するように
させるって言ってんだよ。分かったか?あぁ?!」
そして亮は更に手に力を込めた。横山の顔が苦悶に歪み、遂に彼は降参した。
「わ、分かった分かった分かった!止めろ!止めてくれっ‥!」
そして横山は解放され、亮は彼が逃げ出すのを見届けてから、
一人意気揚々と図書館に向かったのだった‥。
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<捕らえられたイタチ>でした。
今回の亮のこの台詞。直訳だと
「ご両親はお前を産んでワカメのスープ召し上がったはずなのに、
君は生まれてすべきことも本当に汚くないですなぁ。だろ?」
???‥。わかめスープ‥。何かの慣用句なんでしょうか‥?
記事ではなんとなくの意訳にしましたが、またお詳しい方教えて頂けると幸いです。
*追記*
コメ欄にて、このわかめスープ(ミヨックク)について情報をいただきました~^^!
「お祝いごと」の象徴と言える料理なのですね。日本で言うと赤飯に意味合いが近いでしょうか。
皆様、ありがとうございました^^
次回は<突然のメール>です。
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