ほろ酔い日記

 佐佐木幸綱のブログです

蛇笏賞・迢空賞の受賞式

2016年06月28日 | 日記
 蛇笏賞そして迢空賞の受賞式が、飯田橋のエドモンドホテルで行われました。
 蛇笏賞は矢島渚男『冬青集』、迢空賞は大島史洋『ふくろう』。
 うれしいことに、『冬青集』に小生の名前が詠み込まれた句が入っています。引用させてもらいます。鈴舎(すずのや)は本居宣長旧居です。題は偶然出会ったの意味です。

  偶会
鈴舎に佐佐木幸綱暮の秋

 蛇笏賞の選考委員は、宇多喜代子・片山由美子・齋藤愼爾・長谷川櫂。迢空賞の選考委員は、岡野弘彦・佐佐木幸綱・高野公彦・馬場あき子。
 以下、大島史洋歌集『ふくろう』への小生の選評を引用しておきます。

  ふかく、つらく
 大島史洋の第十二歌集『ふくろう』が今年の迢空賞に決まりました。年老いた父親を通して、「老い」という現代社会の大問題を、ふかく、するどく、つらく、かなしく歌った重い歌集です。読んでいて、読者がつらくなるような作も少なくありません。
 父は兄といっしょに故郷の岐阜県中津川に住んでいます。東京に住む作者は、折々兄と連絡をとり、時々、父を見舞いに中津川に帰ったりしているようです。
  
退院しいよいよ元気となりし父その因業を兄は伝えて
九十六過ぎて陰口言われおり存在自体がストレスになる、と
ふるさとに雪は降るとぞ死にそうで死ねない父を見舞いにゆかむ

「老い」の現実はきれい事ではすまされません。作者はきれい事ではすまない地点にあえて踏み込んで、現実を避けずにうたっています。父親のつらく、かなしい老いの現実を、ここまで歌い込むには、文学表現に対する厳しい姿勢が求められます。

認知症の母が死にたいと言いしときそううまくはゆかぬと言いたる父よ

 この歌集の奥行きは、この作のように、父に対してもまた厳しい見方をしている点でしょう。認知症になった妻にむかって、やさしい言葉をかけるのではなく、あけすけに、身も蓋もない本当のことを言ってしまった父を、残酷な視線で見つめ、表現しています。




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