ヒマローグ

毎日の新聞記事からわが国の教育にまつわる思いを綴る。

一片の通知では済まない

2016-03-31 07:46:04 | 我が国の教育行政と学校の抱える問題

「責任転嫁」3月26日
 『進路指導の改善 文科省が求める』という見出しの記事が掲載されました。広島の中3男子が謝った万引き記録に基づいて進路指導を受けた後自殺した問題を受けて、文科省が通知を出したことを報じる記事です。
 記事によると、『1年生の時の問題行為で進路を機械的に判断した「推薦・専願基準」を適正化すべき』という趣旨だそうです。その通りだと思います。それが教育現場に相応しい考え方です。人は変わるものだと考えなければ、教育という営みは存在しないのですから。
 しかし、ことはそんなに簡単ではありません。私は小学校の教員でしたが、6年生を担任することが多く、私立中学受験をする子供の内申書を数多く書いてきました。私は教え子が希望の進路に進めるよう、丁寧に詳しく書いてきました。製図用のロットリングを使い、その子供の行動を具体的に書き、読む人がその子供の学校での行動をイメージできるようにしました。
 面接を終えた子供が、「先生、昨日の面接で、『担任の先生はあなたのことをよく見ていてくださってますね。これを読むだけであなたが素晴らしい生徒だということがよく分かります』って言われたよ」と嬉しそうに報告しにきたものでした。
 私は嘘は書きませんでしたが、全てを書いたわけでもありません。その子供にとって、不利になるようなことは書かなかったのです。なぜそうしたかというと、合格して欲しいという思いであったことは事実ですが、正直に言えば、不合格になり、その原因が内申書の記述にあるのではないかと疑った保護者から訴えられ情報開示されたときのことを懸念する気持ちもありました。
  高校への推薦は、私立中学受験とは違います。私立中受験において、各校共通の内申書作成の基準などなかったからです。「1年生のときに万引きをした」という事実を高校側に隠すのは、中学校側としてはできません。そんなことをすれば、あそこの中学校は信用できないというレッテルを貼られてしまうからです。それは、翌年度以降の生徒の進学に悪影響を与えます。であれば、「1年生のときに万引きをしたが、その後悔い改め~」という伝え方にならざるを得ません。それで推薦が通らなければ、保護者から苦情を言われるのは中学校です。訴えられることも覚悟しなければなりません。
 そうした中学校側の懸念を払拭するには、教委の方針で、というエクスキューズを中学校側が使えるようにしておく必要があります。つまり教委が悪役になるということです。教委にその覚悟がなければ、今回の通知は効力を発揮しません。
 高校側に目を移すと、今度は多くの生徒に何らかの問題行動があるという推薦書が集まることになります。適切な言い方ではないかもしれませんが、今までふるいにかけられ一定のレベルにそろえられていた受験生が、雑多なしかもより多く集まるようになるのです。そうすると、それをどのようにより分けるかという基準を作り明示するということが求められるようになります。つまり見抜く目が求められるのです。これは、大きな負担になるはずです。
 行政には、高校側を納得させる取り組みが必要になります。それも公立校だけではなく、教委の管轄下にない私立高校まで。そうした制度設計をきちんとしないで、一片の通知で済む問題ではないのです。

 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 差別か否か、は学校種で違うはず | トップ | そんなに単純なことではないのに »

コメントを投稿

我が国の教育行政と学校の抱える問題」カテゴリの最新記事