ウィトラのつぶやき

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格差について

2012-11-07 08:57:26 | 社会

雑誌「The Economist」のInequality(直訳は不平等だが日本では格差ということが多いと思う)についての記事を読んで色々考えさせられた。

日本では「格差是正」というと正しいことで、内心では反対でも反論できないような雰囲気があるが、アメリカではそうではない。オバマ大統領が格差是正を謳うのに対してロムニー候補は反対している。そのロジックは格差是正はバラマキにつながり、勤労意欲を下げて経済発展の妨げになるというものである。これに対してエコノミスト誌はロムニーに反対している。格差是正は一般論的には消費を拡大される。金持ちに富が集中するとその富はうまく使われない可能性が高いという意見である。私もこの意見に賛成である。格差是正を行う方法については注意を払う必要があるが。

アメリカでもう一つ話題になっているのは「バフェット税」と呼ばれる累進課税制度である。アメリカでは大富豪に対する税金が安すぎるとして大富豪であるウォーレン・バフェット氏自身が問題提起している。一般的には収入が大きいほど税率も高くなる累進課税制度が適用されているが、この累進度合いはどうするかも大きな問題である。オバマ大統領は「バフェット税」を導入しようとしているし、ロムニー候補は反対している。エコノミスト誌はアメリカは極端なので例外だが一般的には格差是正のために累進度を高めるのには反対だ、としている。格差是正は政府の支出のほうで考えるべき問題で累進税率は格差是正の観点ではなく、国の収入を安定させるという観点で考えるべきだ、としている。つまり税収を最大化させる累進税率を考えるべきだという考えである。私はちょっと違う考えで、格差是正のための累進税率という考え方を取っても良いと思っている。ただし、プロ野球選手のように収入が不安定な人に対する累進税率には控除の面で配慮があって良いと思っている。つまり、一時期だけ大きな収入があったが、その後収入が大きく落ち込んだような人は申請すれば還付金が受けられるような配慮があって良いと思っている。

話題は世界に移って、世界の格差をみると全体で拡大の方向に向かっている。特に中国やインドなどの発展途上国での格差拡大が著しく、先進国ではアメリカの格差拡大が著しい、ということである。発展途上国で格差が拡大するのはある意味で仕方のない面もあり、格差は拡大しても貧しい人の生活も改善して行けば受け入れられるという側面もあるのだが、エコノミスト誌は「身分固定化」が格差拡大の重要な要因となっていると指摘している。インドはカースト制度があるし中国にはHukou制度がある、と指摘している。Hukou制度というのは中国の戸籍制度でエコノミスト誌では何度か中国社会の大きな課題として取り扱われているのだが日本ではあまり聞いたことが無い。そこで中国人に聞いてみるとHukouは感じでは「戸口」と書く中国の戸籍制度で、例えば田舎の人が北京で家や車を買おうとすると北京に戸籍を移さないといけないそうである。日本では本籍地に相当するのだが、中国では本籍をその都市に持っていないとできないことがたくさんあるらしい。日本では公立学校に通うためには住民票をその都市に持っていないといけないが、それに近い状況のようである。そして就職、不動産の購入などは都市の制約を受ける。しかし、各都市は田舎の人が本籍地を自分の都市に持ち込むことを厳しく制約している。Hukouはまるで中国国内が複数の国に分かれていてその中でのパスポートのような役割をしているらしい。

身分が固定化されていると格差が拡大しやすいというエコノミスト誌の指摘は理解できる。だが私は若干の違和感を持っている。それは日本の江戸時代で、江戸時代は身分は固定化されていたが格差はあまり拡大せず、明治に入って格差が拡大したような印象を持っている。日本の江戸時代が特殊だった気がするが誰かこの点を説明してくれないかな、と思っている。

最後に格差の少ない北欧の制度について述べられている。北欧は格差を縮小しつつ、経済発展を遂げたモデルである、というエコノミスト誌の指摘には私は賛成だが、その秘訣がどこにあるのか、については印象に残る説明は無かった。このブログにも何度か書いたが、私は北欧のモデルが日本が目指すべきモデルであり、勤労意欲を高めつつ手厚い福祉を実現する仕組みを知りたいと思っている。

フィンランドの教育が優れていると紹介されたことがあるが、私には公立学校の教師の仕事に対する意識が日本とフィンランドでかなり違っているように感じられている。この辺りに秘訣が隠されているのではないかと思う。