個人的な書留

日記じゃなくてチラシの裏になりました。

チラ裏

2009年07月21日 19時35分38秒 | Weblog
「師弟の話」

いつか師匠と話したことがある。

「君の才能は惜しいよ。何故もっと頑張らない?きっといいものが創れる。」
そういうけれど師匠、と僕は眉根を寄せて
「僕には何かを生み出す力はありません。」
自分の造形物を見るたびに常々感じていた事だった。
「師匠はあるものからひとつの形を作り上げることが出来ます。でも、僕にはそれが出来ません。」
蝋燭の火がゆらゆらと揺れ、師匠の影が歪む。
「何故君にはそれが出来ない?」
「その世界を自由にすることが出来ないからです。僕には捉えることしか出来ません。」
僕はそっと薄汚れた木製の机の縁をなぞる
「いいや、それすら怪しいです。捉えることすら覚束無いから、対象に新しい世界を見出せないのでしょう」
うつむく僕は手に持った筆を置いて師匠に頭を下げた。
師匠は立ち上がり僕を正面から見てこう言った。
「君は、世界をぼやけて見ているのか、それとも美しい世界が見えているのか」
僕は、どっちなのか、分からなかった。


「少女の話」

のどかな田舎町に、白い大きな建物が建った。二階建ての病院だ。大きな街の病院に比べたら小さなものだが、町の人々はこれを大いに喜んだ。
いつも閑散としている待合室に、受付も欠伸が絶えないほど。医者は暇なほど良いと言って笑ったが、町長は複雑な面持ちだったという。そんな病院の二階の一室に、大病を患って療養している少女がいた。いいところのお嬢様で、この病院を建てたのもこの娘のためだと言う。窓から見る眺めが、少女の世界だった。時折来る看護婦さんと、月に一度見舞いに来る両親以外誰とも会わず、父が持ってきてくれる本と、窓の外を眺めるのが、彼女の日課だった。
少女は空を見ていた。雲を見ていた。飛んでる鳥も見ていたし、無邪気に笑う子供たちも見ていた。通りすがりの貴婦人や、配達に来る郵便屋さんも見ていた。
春は花咲く一面に、綺麗な花畑が見えた。
夏は緑生い茂り、高い雲と広がる青が鮮明に、
秋は夕暮れ赤日が差して、沈む夕日を惜しんだり、
冬は黒の帳に灰色と白が溶け合って、
そしてまた春に戻る。
そんな世界を瑠璃色の瞳は捉えていたのだった。


「少年の風景」

快晴の中進んでいく汽車を横目に、僕はゆっくりと進む馬車の荷台で羽を伸ばしていた。画材の詰まった木製の鞄ひとつ持って、隣町のそのまた隣町に行くことにした。特に目指すところはなかったけれど、それでいいと思って目深に被った帽子を被りなおした。緩やかに流れていく風景は何処までも一緒に見えて、退屈だ。空は青、雲は白、鳥は何色だったろうか?そんなことを考えているうちにだんだんと世界が遠くなって、気がついたら隣町の隣町に着いていた。
荷台に乗せてくれたおじさんに礼を言うと、僕は知らない町並みに心をときめかせた。そのときめきもすぐに何処かへいってしまい、降りしきる太陽に焼かれそうな身体を隠すために、木陰に転がり込んだ。その日は夏が戻ってきたような暑さだった。


続く。。。

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