真実を知りたい-NO2                  林 俊嶺

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原発 高木仁三郎の鳴らした警鐘2

2013年03月31日 | 国際・政治
 東京電力福島第一原子力発電所の事故が起こる前に、高木仁三郎は「巨大な事故や不正が原子力の世界を襲う危険」を指摘していた。そして、不幸にもその指摘どおり、2011年3月に巨大事故が起きた。

 全電源喪失による原子炉の爆発を防ぐため、放射性物質を含む水蒸気を放出するベントの命令が下されたが、様々な事情が重なって、なかなか実行できず、緊迫した状況が長く続いた。そして、第一原発のみならず、第二原発でも原子炉の圧力を制御できなくなり、原子力緊急事態宣言が発令された。建屋は次々に爆発した。避難指示は2キロから3キロ、10キロ、20キロと徐々に拡げられていった。これが原子炉の爆発であったら、東日本全体が人の住めないところになる可能性があった。建屋の爆発だけでおさえることができ、原子炉の爆発を免れたのは、不幸中の幸いだったといえる。

 東電に乗り込んだ菅元総理に、「ベントはやります。決死隊をつくってでもやります」と吉田昌郎東京電力福島第一原子力発電所所長が言ったという。福島第一原発および第二原発の放棄という最悪の事態を避けるために、建屋の爆発による負傷者や被爆者を出しながら、まさに死と隣り合わせの作業が続いたということであろう。

 また、4号機の使用済み核燃料貯蔵プールは、全電源喪失よって、冷却水注入が止まり、核燃料の過熱の可能性があった。こちらの使用済み核燃料は原子炉圧力容器や原子炉格納容器に入っているわけではないので、過熱があるとそのまま放射性物質が放出される。しかし、3月15日に発生した火災に伴う爆発の衝撃で、そのプールに隣接する場所から偶然水が流れ込み、大量の放射性物質放出とう最悪の事態を免れたのだという。偶然に救われたのである。

 にもかかわらず、今なお、原発を維持し稼働させようという人たちがいる。のみならず、前政権が方向を変えようとしていた国の原発に対する基本的な姿勢さえ、元に戻そうという気配である。また事故後の対応も、高木仁三郎の指摘する「隠蔽、改ざん、捏造」の継続発展のように思われる。

 スリーマイルの原発事故も、チェルノブイリの原発事故も、地震や津波が原因ではないことを忘れてはならないと思う。福島の事故によって、原発の「多重防護システム」がいかにもろいものか、思い知らされた。いや、ほんとうは「多重防護」などと言えるものではなかったのだと思う。したがって、国益のために原発を稼働させるのは、極めて危険であり、間違いであると思う。高木仁三郎の鳴らした警鐘をしっかり受け止め、原発は1日も早くすべて廃炉にしてほしい。安全確保を蔑ろにしなければ、原発は高くつく、ということも知らなければならないと思う。
 「原子力神話からの解放 日本を滅ぼす9つの呪縛」高木仁三郎(光文社10-307)から、何カ所か抜粋した。

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第5章 「原子力は安全」という神話

 「多重防護システム」で放射能は閉じ込められるのか


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 図5-1(略)は、1999年12月に出された通産省の安全問題のパンフレット「原子力発電所の安全確保の方針」に掲載されています。やや専門性を含んでいますが、まあ一般向けのパンフレットでしょう。メインタイトルは「『安全』を『より安心』にしたい」。さきほどの安全委員会とまったく符丁を合わせたような感じですが、安全確保の基本的な考え方として、放射能を閉じ込めるために5重の壁が作られていると説明されています。

 第1の壁は原子力発電の燃料ペレットです。これは二酸化ウランの素焼きの粒ですが、その中にまず核分裂で発生した灰が閉じ込められます。そのまわりに、厳密には合金ですが、ジルコニウムできた燃料被覆管という鞘管(サヤカン)があって、その鞘の中に放射能が閉じ込められます。これが第2の壁になります。

 第3の壁は、原子炉圧力容器とか、原子炉容器と言われる原子炉のお釜の部分です。原子炉はその全体が冷却水の中で冷却されているわけですが、その冷却水全体が原子炉圧力容器とか原子炉容器とか言われる、要するに原子炉のお釜に納められています。厚い鋼(ハガネ)の壁でできた厚いお釜で、もちろん高温高圧の運転に耐えられるように作られています。その外側にある第4の壁は、原子炉格納容器というコンクリートと鋼との複合的な構造でできた容器です。容器と言われていますが、お釜を覆っている部屋であって、これによって、もし原子炉容器の外側に放射能が漏れた場合でも、そこの中に閉じ込めることになっています。その外側にコンクリートの原子炉建屋とい構造物があって、その建屋によっても原子炉が守られています。それで5重だというわけです。しかし、これを一つ一つ点検してみると、決して放射能を閉じ込めて安全を確保するような防護システムなどではないことがわかります。


 たった一つの要因で、防護システムが総崩れになることもある。

 まず、第1の壁と言われる燃料ペレットだとか、第2の壁の被覆管などというのはちょっとしたことがあれば、かなり頻繁に壊れることがあって、大きな事故を考えたら、これらはほとんど何の役にも立ちません。
 いちばん肝心なのは第3の壁、原子炉容器(圧力容器)の健全性ですが、この原子炉容器が爆発し、これが吹っ飛ぶようなことがあれば、その外側の第4の壁、格納容器もまずもたないでしょう。第5の壁、原子炉の建屋に至っては、放射能という観点から見れば、かなりスカスカにできていて、役に立たないというのが実状だと思います。比較的客観的に公正に言えば、原子炉容器と格納容器の2つは、それなりに放射能を閉じ込められる容器として、かなり強固に作られています。しかし、かつてのチェルノブイリ事故のように、これが一気に吹っ飛ぶこともあるし、スリーマイル島事故でも、この健全性がかなりの程度に傷つけられました。スリーマイル島の原発事故では、たとえば圧力容器は底にひび割れまで起こしたけれども、かろうじて大破壊までは至りませんでした。きわめてきわどいところまでいったけれども、幸運にもそこで止まり、このおかげで大惨事にはならなかった事故だったという気がします。そうしたことからも、この5重の壁は考えられているほどに意味がない、つまり5重であることの意味はあまりないように思います。


 ・・・(以下略)
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 工学的な「壁」では防げない人為ミス

 多重防護について、別の観点から考えてみましょう。ここまでは機械的な部分に目を向けて話をしおてきましたが、じつは事故というのは、人間の操作が絡むところで起こっています。JCO事故がそうでしたし、東海再処理工場の事故もそうですけれども、かなりの部分が人間が絡むところ、いわば人為ミスが絡んで大きな事故に発展していくのです。

 私はかつての事故の分析をやって、『巨大事故の時代』(弘文堂、1989年)という本を書いたことがありますが、この本の中で分析的にある程度明らかにしたことは、人間と機械が絡んで、人為ミスのようなことが発端で事故が起こると、今度は装置の欠陥みたいなものに伝播していくということです。また装置の方のトラブルに伝播して、ことが大きくなっていくと、それを運転する側にも困難が生じてくるというように、人間と機械との相互作用のなかで、事故が将棋倒し的に巨大化していくということがあるのです。そういうような人為ミス、人間が絡むような事故に対して、いくら工学的な安全性と言ってみても、ほとんどそれが確保できないことが、今までの事故によってわかってきたことですし、JCOの事故であらためて痛感させられたことであったと思います。


 現代の原子力安全神話というのは、建物とか機械設備がいかに安全に設計されているかといった、基本的な設計を審査することだけで安全確保の基本が成り立っています。しかし、東海再処理の事故とJCO事故、この2つにかなり共通していることですけれども、人間が絡むということから考えてみると、機械システムに安全設計がしてあるかどうかという審査だけでは、実際の安全は確保できないように思います。

 実際の安全の崩れ方というか、お城の守りが崩れていく経過を見ると、そのきっかけは、ちょっと比喩が悪いかもしれませんが、例えば内部に諜報者や裏切り者がいるとか、あるいは内部の人間が昼寝をしていたといったことかもしれないわけです。お城をいかに設計するかだけではなく、お城の中で、人間がそれを守るためにどのように動くのかという動くマニュアル、具体的なマニュアルレベルがきちんとしていないと、大きな事故が起こってしまうように思われます。


 ・・・(以下略)
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「原子力事故は必ず起こる」ことを前提に

 もう一つ、大事なことがあります。原子力の安全性は、従来、だいたいにおいて原子力発電所の安全性として考えられてきたわけです。原子力発電所に限っていえば、放射能を圧力容器に閉じこめるとか、格納容器に閉じ込めるとか、それに一定のいろいろな補助的な装置、安全装置をつけることによって、かなり強化に努めることができます。先ほどのマニュアルレベルに照らして、もっとチェックができるかもしれません。しかし、じつは放射能の中心はそこにあったとしても、原子力全体はもっとものすごく広がっているのです。


 139ページの図5-2(略)は、核燃料サイクルを示したものです。原子力発電をするためには原子炉があって、そこに燃料を送り込めばいいということではありません。図に示したように、原材料となるウランや放射性物質の非常に長い旅があって、いろいろなシステムやレベルがあって、世界中のいろいろなところで、いろいろな人がそれに絡んでいます。そのどこかのプロセスでちょっと間違うと、今度の臨界事故のようなことが起こってしまいます。核自身の持っている本質的な危険性というか、牙のようなものがむき出しになった場合には、JCOという小さな片隅の施設の中で、いきなり裸の原子炉が出現してしまうような事態が起こります。

 そうした事態に対しては、先ほど述べた多重防護というシステムは、ほとんど機能しません。核燃料サイクルの全てのまわりに、いつも格納容器を作って厳重に防護するようなことには、とてもなっていないのです。だから、安全というと原発の内部だけに目が向けられ、そこにだけ集中していて、外側の安全は、それに比べたら百分の一程度にしか考慮されてこなかったのではないでしょうか。実際には原子炉の外側に、それこそ百倍くらいの、原子力発電を成り立たせるための全体的な領域が広がっているのです。その全体が守られていなかったら、とてもだめなのではないかということがJCOの事故によって非常にクリアになったわけです。


 これはJCOの事故の持っている非常に鮮明なメッセージだと思います。本当に安全な原子力があるとして、それをやろうとするならば、この原子炉の外側に膨大に広がる核燃料サイクル全体にわたって、今の原子炉と同じくらいのお金と努力を傾けて、安全規制の人間をへばりつかせて、チェックしていく必要があります。比喩的に言うならば、図5-2に示したような核燃料サイクル全体を、すっぽりとひとつ
の格納容器で覆わなければいけません。
 内部の人間をチェックする安全規制の体制づくりということで言えば、現状より人員を百倍くらい増やすような体制にしなければ、とても原子力の安全を確保することはできません。

 
 ・・・(以下略)
http://www15.ocn.ne.jp/~hide20/ に投稿記事一覧表および一覧表とリンクさせた記事全文があります。一部漢数字をアラビア数字に換えたり、読点を省略または追加したりしています。また、ところどころに空行を挿入しています。青字が書名や抜粋部分です。「・・・」は段落全体の省略を「……」は、文の一部省略を示します。 

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