真実を知りたい-NO2                  林 俊嶺

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自民党憲法改正草案第21条、第54条、第56条、第63条、第66条、第72条の問題点を考える NO3

2021年05月28日 | 国際・政治

 オリンピック開催に向けて、菅政権はコロナの対策で突っ走っており、様々なところから戸惑いや驚き、批判の声があがり続けています。それは、安倍政権も同じでした。安倍前首相は昨年2月末、新型コロナウイルス感染症対策として、突然、全国の小中学校と高校、特別支援学校に臨時休校を要請し、3月には、感染防止策として布マスクの全戸配布を決定しています。きちんと専門家や現場の関係者、また、一般国民の声を聞くことなく独断的に決定されたために、あちこちから戸惑いや驚き、批判の声があがりました。当然だと思います。
 現在の日本では、「学校保健安全法」に、児童生徒の生命安全の保護と学校を感染ルートとする感染拡大防止を目的として「児童生徒の出席停止」(第19条)並びに「学校の全部又は一部の臨時休業」(第20条)の定めがあります。そして、前者は校長、後者は学校の設置者である教育委員会の権限に属するのです。
 だから、文部科学省は、安倍前首相が、全国の小中学校と高校、特別支援学校に臨時休校を要請する前に、「学校の卒業式・入学式等の開催に関する考え方について」で、「政府として一律の自粛要請を行うものではない」と断った上で、感染が発生している地域では学校の設置者において、実施方法の変更や延期などを含め、対応を検討するよう、事務連絡で求めていたといいます。(事務連絡 令和2年2月25日
 一時的にせよ、児童生徒の教育を受ける権利を制限することになるわけですから、地域や学校の感染状況を考慮し、学校の設置者に対応を検討するよう求めた文部省の対応が、通常の行政の対応だと思います。
 でも、安倍前首相は、そうした手続きを無視して、「緊急事態条項」先取りをするかのように、突然、全国一斉休校を要請したのです。そこで、文部科学省は再び「新型コロナウイルス感染症対策のための小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校等における一斉臨時休業について」(元文科初第1585号 令和2年2月28日)という文書を、各都道府県・指定都市教育委員会教育長その他に宛てて出したのです。その結果、どれほどの人たちが対応に苦慮することになったかは、改めていうまでもないと思います。
 感染者が一人も確認されていない地域にまで、休校を要請をした安倍前首相の、法や権利、地域や現場を考慮しない政治を、私は見逃すことができません。

 PCR検査体制などについても、WHOの提言を取り入れることなく、官邸主導で検査が抑制されることになったので、現在も新型コロナウイルスの感染が周辺国の中では、最も深刻な状態になっているのではないかと、私は思います。日本では変異ウィルスが広がり、収束が見通せないばかりでなく、治療を受けることが出来ず亡くなる人が続出しているからです。でも、高橋洋一内閣官房参与は、そういう日本国内の感染状況についてツイッターで『さざ波』などと表現し、批判を浴びました。私は、ある意味で正直な発言ではないかと思いました。それが、かつての戦争指導層の考え方を受け継いでいる自民党政権中枢の、人命や人権に対する感覚なのではないかと思ったのです。

 また、一昨日の新聞に、「教員免許更新制」の廃止の話が進んでいるとの記事がありました。しばらく前には、「大学入試共通テスト」での「英語民間試験の活用」と「国語・数学の記述式問題導入」見送り決定の見通しも示されていました。教育現場からは、その度に、戸惑いや驚きや批判の声があがっていました。それらも、専門家や現場の関係者、当事者の声等をきちんと聞かず突っ走る、官邸主導の政治がもたらした問題なのだと、私は思います。コロナ対策に限らないのです。

 そしてそれは、戦時中の実態把握や情勢分析を軽視し、現場の意向を無視した無謀な作戦とダブって見えるのです。インパール作戦をはじめ、あちこちで大勢の戦死者や餓死者を出した作戦の過ちを、自民党政権はくり返しているのではないか、と思うのです。 

 そうしたことを踏まえつつ、自民党の憲法改正草案を見ると、様々な問題が潜んでいるように思います。
 日本国憲法第21条には

1 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
2 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
 とあります。

 でも、自民党憲法改正草案第21条
1 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、保障する。
2 前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない。
3 検閲は、してはならない。通信の秘密は、侵してはならない。
第21条の2(国政上の行為に関する説明の責務)
 国は、国政上の行為につき国民に説明する責務を負う。
 となっています。

公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない。”が付け加えられているのです。政治的対立が激しくなった時に、「公益」や「公の秩序」が、時の政権によって利用されることを考えれば、これは重大な問題をもつ付け加えではないかと思います。
 すでに見てきたように、自民党の憲法改正草案は、自然権思想に基づく個人の人権を、「公益」や「公の秩序」によって制限したり、「家族国家観」に基づく「家族」の中に埋没させようとする条文がありましたが、この付け加えも、かつての「治安警察法」や「治安維持法」と同じように、国家のために人権を制約することを可能とすることになるのではないかと思います。

 次に、日本国憲法「第四章 国会」の、第54条には、
衆議院が解散されたときは、解散の日から四十日以内に、衆議院議員の総選挙を行ひ、その選挙の日から三十日以内に、国会を召集しなければならない。
② 衆議院が解散されたときは、参議院は、同時に閉会となる。但し、内閣は、国に緊急の必要があるときは、参議院の緊急集会を求めることができる。
③ 前項但書の緊急集会において採られた措置は、臨時のものであつて、次の国会開会の後十日以内に、衆議院の同意がない場合には、その効力を失ふ。”
 とあります。

 自民党憲法改正草案第54条
衆議院の解散は、内閣総理大臣が決定する。
2 衆議院が解散されたときは、解散の日から四十日以内に、衆議院議員の総選挙を行い、その選挙の日から三十日以内に、特別国会が召集されなければならない。
3 衆議院が解散されたときは、参議院は、同時に閉会となる。ただし、内閣は、国に緊急の必要があるときは、参議院の緊急集会を求めることができる。
4 前項ただし書の緊急集会において採られた措置は、臨時のものであって、次の国会開会の後十日以内に、衆議院の同意がない場合には、その効力を失う。
となっています。

 ”衆議院の解散は、内閣総理大臣が決定する。”と付け加えられています。選挙において、政権が有利な立場にあるときに、恣意的に衆議院を解散するというようなことがなされないように、逆に、法的制約が考慮されてもよいのではないかと、私は思います。そういう意味で、合議に基づくことなく、内閣総理大臣個人に衆議院の解散権を与える付け加えには問題があると思います。

 また、日本国憲法第56条には

両議院は、各々その総議員の三分の一以上の出席がなければ、議事を開き議決することができない。
 ② 両議院の議事は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、出席議員の過半数でこれを決し、可否同数のときは、議長の決するところによる。
 とあり、

自民党憲法改正草案第56条
両議院の議事は、この憲法に特別の定めのある場合を除いては、出席議員の過半数で決し、可否同数のときは、議長の決するところによる。
2 両議院の議決は、各々その総議員の三分の一以上の出席がなければすることができない。”
と変えられています。

 すでに、政権は、国会における話し合いを避ける傾向が強いように思いますが、総議員の三分の一以上の出席がなくても、議事を開くことができるようにすれば、そうした傾向に拍車がかかると思います。だから、第56条では、”議事を開き”の削除が問題だと思います。国会における話し合いが、軽視されてはならないと思います。話し合ってもしかたない、というような現状を改善するためにも、こういう条文には問題があると思います。進む方向が逆だと思うのです。

日本国憲法第63条には
内閣総理大臣その他の国務大臣は、両議院の一に議席を有すると有しないとにかかはらず、何時でも議案について発言するため議院に出席することができる。又、答弁又は説明のため出席を求められたときは、出席しなければならない。
とあります。

自民党憲法改正草案第63条
内閣総理大臣及びその他の国務大臣は、議案について発言するため両議院に出席することができる。
2 閣総理大臣及びその他の国務大臣は、答弁又は説明のため議院から出席を求められたときは、
出席しなければならない。ただし、職務の遂行上特に必要がある場合は、この限りでない。
となっています。
 ”職務の遂行上特に必要がある場合は、この限りでない。”などという例外を認めることも、話し合いの軽視であり、国会軽視ではないかと、私は思います。大臣が説明責任をきちんと果たさないことの多い現状を考えると、答弁や説明を逃れるために、恣意的にこうした例外規定を利用することも考えられるのではないかと思います。

日本国憲法第66条には
”内閣は、法律の定めるところにより、その首長たる内閣総理大臣及びその他の国務大臣でこれを組織する。
② 内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない。
③ 内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負ふ。”
とあります。

自民党憲法改正草案第66条
内閣は、法律の定めるところにより、その首長である内閣総理大臣及びその他の国務大臣で構成する。
2 内閣総理大臣及び全ての国務大臣は、現役の軍人であってはならない。
3 内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負う。
となっています。”文民でなければならない。”が”現役の軍人であってはならない。”に変えられています。
 議員内閣制の日本では、内閣総理大臣や国務大臣は、国民が選ぶわけではありません。日本国憲法第67条”内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で、これを指名する”に基づき、事実上政権政党が決め、国務大臣は、指名された内閣総理大臣が任命しているのです。そして、日本国憲法第68条に、”内閣総理大臣は、国務大臣を任命する。但し、その過半数は国会議員の中から選ばれなければならない”とあることから、自民党の改正草案では、昨日まで軍人であった人間を、大臣に任命することも可能になるのです。
 でも、軍事に関わる安全保障政策の基本的判断や決定は、選挙で選出された国民の代表である文民であるべきで、軍事組織は政治や外交に干渉せず、国民が選挙で選んだ政治家の指導に服することが求められるのではないかと思います。総理大臣の一存で、昨日まで軍人であった人間が、大臣に任命されるようでは、「文民統制」が危ういものになると思います。政治家、特に大臣は、できるだけ軍事組織と直接的なつながりのない人が望ましいのであり、”文民でなければならない。”を”現役の軍人であってはならない。”に変えることは、かつて、軍事組織と内閣が一体となり、軍国主義といわれる政治によって、国家存亡の危機を経験したことを思い起こせば、極めて不適切だと思います。現役の軍人だけではなく、かつて軍人であった人も、内閣総理大臣や国務大臣には相応しくないと思うのです。

日本国憲法第72条には
 ”内閣総理大臣は、内閣を代表して議案を国会に提出し、一般国務及び外交関係について国会に報告し、
並びに行政各部を指揮監督する。
 とあります。

自民党憲法改正草案第72条で
内閣総理大臣は、行政各部を指揮監督し、その総合調整を行う。
2 内閣総理大臣は、内閣を代表して、議案を国会に提出し、並びに一般国務及び外交関係について国会に報告する。
3 内閣総理大臣は、最高指揮官として、国防軍を統括する。

 改正草案に付け加えられた”総合調整を行う”が何を意味しているのかよく分かりませんが、独裁的な権力の行使を許すことにつながることが懸念されます。また、”内閣総理大臣は、最高指揮官として、国防軍を統括する。”という付け加えも、何の制約もない総理大臣の権限強化の一つとして、とても気になります。制約がなければならないと思いまし、実力組織の縮小廃止の方向性をはっきり示すべきだと思います。
 


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