真実を知りたい-NO2                  林 俊嶺

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ハンフォード 核汚染 核軍拡競争負の遺産 アメリカ

2013年08月11日 | 国際・政治
 福島の原発事故による放射能汚染で、多くの人が職を失い、住居を追われ、今も苦しんでいる。
 もともと、原発は原爆製造の過程で開発されたのだという。だから、アメリカでも、事故のあったスリーマイル島原発周辺地域以外にも、放射能汚染で苦しんでいる人たちが大勢いるのだ。
 ここでは、米ソを中心とする核軍拡競争の過程で、恐るべき”負の遺産”を残した「マンハッタン計画」の拠点、ハンフォードを取り上げる。ここは、旧ソ連のマヤーク(チェリャビンスク)と同じように、核開発を優先し、当初は放射性廃棄物を地面に捨てたり、地中に注入したりしていたというところである。そうした核開発優先のずさんな放射性廃棄物管理が、下記の「デス・マイル」(死の1マイル四方)の話につながるのである。

 「地球核汚染」中島篤之助編(リベルタ出版)によると、「1995年4月3日、アメリカのエネルギー省(DOE)は、冷戦時代に核兵器級プルトニウムなどを生産してきた国内の核兵器関連施設の放射能汚染を除去するため、今後75年間で少なくとも2300億ドル(約23兆円)が必要であるとする報告を発表」したという。また、それは、処理技術が進歩しない場合は、その1.5倍の3500億ドル(約35兆円)になると推計されるという。

 驚くのはそればかりではない、2億4000万キュリーに達するという高レベル廃棄物がタンクに貯蔵され、8600万キュリーのストロンチウム90と、セシウム137が二重殻のカプセルに入れられ、冷却用プールに保管されているが、放射能漏出を繰り返し、下記のように、爆発の危険性があるというのである。「地球核汚染 ヒロシマからの警告」NHK『原爆』プロジェクト(NHK出版)からの抜粋である。
 事故のリスク、日常的な原発労働者の被曝、安全な保管方法のない核廃棄物などを考慮すれば、原発の再稼働はあり得ないことだと思う。
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            第3章 核超大国・アメリカの危機

  暴かれた核放出

 核開発の負の遺産にあえぐハンフォードの現在

 アメリカ北西部ワシントン州の荒野に広がる核兵器製造施設、ハンフォード。コロンビア川沿いの広さ1500平方キロの広大な大地に、プルトニウムの生産炉や再処理工場が点在している。ハンフォードはアメリカ原爆開発計画「マンハッタン計画」の拠点として、1943年に建設が始まった。そして、世界で最初の核実験トリニティと、長崎に投下された原爆に使われたプルトニウムを生産した。アメリカの核開発の原点となった施設である。


 ハンフォードは、その後もアメリカの核兵器開発の中心基地としてプルトニウムを生産しつづけた。ハンフォードに運び込まれたウランは生産炉で照射済み核燃料にされたあと、再処理工場で化学的にプルトニウムが取り出され、さらに工場で金属状のプルトニウム・メタルにされたあとハンフォードから出荷され、他の核兵器施設でピットにされて核弾頭に組み立てられていった。

 この半世紀近くの間、ハンフォードには世界初の実用原子炉のB炉をはじめ、合わせて9基の生産炉と5つの再処理工場が設けられ、核兵器に使われるプルトニウムを供給しつづけた。ハンフォードは冷戦下でのアメリカの核軍拡競争を最前線で担ってきたのである。

 しかし、プルトニウムの生産という任務は、80年代末に終わった。最後まで稼働していたプルトニウム生産と商業発電の両方に利用できる二重目的炉のN炉は、88年に炉心を抜かれコールド・スタンバイに入った。また、同じく最後まで運転されていた再処理工場のビューレックスも、90年以降は運転されていない。


 半世紀近くにわたったプルトニウムの生産が終わったいま、ハンフォードには再処理される前の照射済み燃料やプルトニウム、そして生産に伴って生まれた放射性廃棄物が大量に残された。それらはいずれも危険な状態であるうえ、これまでの生産優先のずさんな管理のため汚染が深刻になっており、西側世界で最悪の汚染地域といわれている。施設のいたるところで、これまで後回しにされてきた汚染の除去(クリーンアップ)が行われているが、膨大な時間とコストがかかり全くはかどっていない。また、ハンフォードは全米の核廃棄物のおよそ70%を抱えているが、適切な処理方法が見出せないままである。

 半世紀近くにわたって核開発製造を担ったハンフォードは、「生産の半世紀」が終わったいま、これまでの核開発がもたらした「負の遺産」の処理に苦悩しているのだ。

 ハンフォードのいま、そこにある危機 

 アメリカの核物質の生産や核兵器開発を進めてきたエネルギー省は、ハンフォードで最も深刻な問題は、照射済み核燃料を保管している貯蔵槽のK-BASINと爆発が懸念される高レベル廃棄物の貯蔵タンクだとしている。
 このうちK-BASINは原子炉で燃やした照射済み燃料を再処理する前に、一時的に貯蔵する施設として1951年に作られた。裏打ち補強処理をしていないコンクリート製のプールで、全米で最大の量の2300トンの照射済み燃料がプールの水の下に保管されている。核燃料は冷却するためと強い放射線から労働者の被爆を防ぐために水中に貯蔵されている。しかし、ここは貯蔵されている照射済み燃料のうち50%以上は、皮膜やラックの損傷と腐食が進んでおり、水中に放射性物質を放出しつづけている。そして、プールの水のフィルターの逆流事故がきっかけとなって、汚染された水が施設外の地下に洩れ出しているのである。施設のすぐ近くにはコロンビア川が流れており、放射性物質が外部に広く洩れ出す危険も指摘されている。


 さらに、この施設はもともと長期的な貯蔵を目的として設計されたものではなく、耐震構造にもなっていない。地震が起きた場合、ハンフォード周辺の人々の健康や環境にも影響が出るのではないかと懸念されている。施設の管理責任者は「ここは目茶苦茶だという人がいる。それどころか私にいわせれば、ここはまるで肥だめのようなところだ」と、苦渋に満ちた表情で話した。

 一方、放射性廃棄物は照射済み燃料を再処理して、プルトニウムを取り出す際に生まれる、プルトニウムの生産に伴って必ず生まれる厄介なものだ。ハンフォードでは、67万8000キュリーもの放射性廃棄物が地面に捨てられたり、土中に注入されたりしたほか、施設のタンクやフィルターなども放射性廃棄物で汚染されている。しかし、最も大量に、そして手に負えない状態で放射性廃棄物が溜まっているのが、高レベル放射性廃棄物の備蓄タンクである。


 全部で177基のタンクに貯蔵されている放射性廃棄物は、チェルノブイリ原発事故で放出された量の2倍以上の放射能を帯びている。ハンフォードではこの高レベル放射性廃棄物の液体を、当初、149基の一重殻のタンクに貯蔵したが、その後これらの多くで高レベル放射性廃棄物がタンクから洩れ出した。このため洩れ出しを防ごうと、今度は28基の二重殻のタンクに貯蔵した。しかし、やがてこれらのタンクでも高レベル放射性廃棄物の漏出が起きた。

 さらに、その後も核兵器の製造のためにプルトニウムを大量に生産しつづけたことから、この二重殻のタンクも容量が一杯になった。そして、タンク内の容量を減らすために蒸発処理を行ったりした。そうした結果、タンクの中では廃棄物に含まれる水や有機化合物が放射線によって分解し、水素ガスが発生するようになっている。水素は燃えやすく、一定の濃度に達すると大量の廃棄物ごと爆発することが心配されている。もし、タンクが爆発すれば大量の放射能を帯びた高レベル放射性廃棄物が、広い範囲に撒き散らされることが危惧されているのである。


 そもそも内蔵されている放射性廃棄物は何万年以上にもわたって放射能を持ち続けるものである。にもかかわらず、炭素鋼のタンクの耐久年数は20年程度にしか考えられていなかった。核兵器や核物質の生産にあたって必然的に生まれる放射性廃棄物の問題は、ほとんど考慮されていなかったのである。
 ハンフォードはいま、そうした生産優先の体制がもたらしたツケに苦しめられているのである。

 衝撃のエネルギー省報告
 ・・・略

 「デス・マイル」の恐怖

 ハンフォードで起きている深刻な核汚染は、サイト敷地内に留まらない。半世紀前、農民を強制的に移住させてサイトの建設が始まったことからもわかるように、ハンフォード周辺は人間の居住地域なのである。この半世紀、核施設は周辺の水と空気と大地を汚し、人々の健康を蝕んできた。

 ハンフォードの上空を飛ぶと、広大な大陸の光景が眼下に広がる。かなりの量の土を含んでいるのだろうか、濁ったコロンビア川がまず目につく。この川が茶色と緑、2つの景観を区切っている。西側に広がる荒野とそこに点在する施設群──ハンフォード・サイトである。東側には農業地帯が広がる。ここでは縦横碁盤の目のように走る道路と、巨大な緑の円が目につく。乾燥したこの地域ではコロンビア川を利用した灌漑が欠かせない。自走式の給水ポンプが、円を描いて水を撒き、牧草やトウモロコシ、野菜、リンゴやブドウなどの果樹を育んでいる


 この大地に暮らす住民たちが、自分たちの健康に異変が起きていることに気づいたのは、10年あまり前のことである。異変は30余年前、飼育されている羊の畸形から始まっていた。何かがおかしい……。疑問を抱きはじめた農夫の一人がトム・ベイリーさん(49歳)である。トムさんは自宅周辺を「デス・マイル」つまり「死の1マイル四方」と呼んでいる。略図を前にトムさんは、なぜ「デス・マイル」と呼ぶかを説明した。

 「デス・マイルはウィーバー家から始まります。その隣のライリー家では、甲状腺障害の人がいて、頭蓋骨のない子供が生まれました。次がベイリー家、私の家です。母方・父方双方の祖父母はガンで亡くなりました。父の兄弟はみなガンで、うち一人はガンで死に、父の妹もガンで亡くなりました。私は生まれつき病弱で、兄は死産でした。そして、この家ではご主人がガンで亡くなっています。奥さんは畸形児を産み、その子をバスタブで溺死させ、自分は手首を切って自殺しました」


 トムさんは略図に×印で記した家々を数えた。26軒あった。
 「どの家にもガン患者がいるか、先天性異常児が生まれたいます。100%です」 健康異変や出産異常の原因は、ハンフォード以外に考えられないとトムさんはいう。そして、誇りに思ってきたハンフォードに裏切られた、騙されたという怒りを訴えた。
 「『ハンフォードはアメリカの安全を守っている。いつか君たちの農場を奪いにくる共産主義者の連中から守っている。だからハンフォードを支持しなさい。日本に落とされた原爆を作って戦争を終わらせたところなんだから』。そういう話を何度も聞かされて、ハンフォードを信じていたのに……」


 目のない羊と目のない娘

 「デス・マイル」の始まり、つまりトム・ベイリーさんの2軒隣に住んでいるブレンダ・ウィーバーさん(49歳)を訪ねた。小中学校ではずっとトムさんの同級生だった。現在は実家から車で3時間ほど離れたところに住んでいる。自宅を訪問すると、すぐに数冊のアルバムと数個の義眼を見せてくれた。長女ジェニーさんには生まれつき目がなかった。成長にしたがって眼窩も大きくなり、義眼は大きなものと取り替えなくてはならない。アルバムも義眼も愛娘ジェニーさんの大切な成長の記録なのである。
 「結婚して妊娠するまでハンフォードの近くに住んでいました。娘の目がないのは絶対にハンフォードのせいです」


 ・・・以下略

http://www15.ocn.ne.jp/~hide20/"に投稿記事一覧表および一覧表とリンクさせた記事全文があります。一部漢数字をアラビア数字に変えたり、読点を省略または追加したりしています。また、ところどころに空行を挿入しています。青字が書名や抜粋部分です。「・・・」は段落全体の省略を示します。 

コメント (2)
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