真実を知りたい-NO2                  林 俊嶺

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原発 高木仁三郎の鳴らした警鐘3

2013年04月17日 | 国際・政治
 「原子力神話からの解放 日本を滅ぼす9つの呪縛」高木仁三郎(光文社10-307)には、信じがたい事実がいくつか取り上げられている。たとえば、「…もともと使用済み燃料のなかのプルトニウムをリサイクルするといっても、リサイクルされるのはごくわずかです」という。そして、それが「…もとになる使用済み燃料に対して1%にも満たない量です。リサイクルしてもそのくらいの量しか、またもとの原子炉の燃料として戻すことはできません。こういうのはふつうリサイクルとは言わないでしょう」というようなことである。

 さらに、「結局のところ、いちばん問題になる高レベルの各種廃棄物は、リサイクル、つまりMOX燃料を使ったプルサーマルをやったほうが、ウランを1回だけ使ってやめてしまうのに比べて、発電される電力1キロワット時当たりに出てくる放射能の量は多くなります。リサイクルによって、かえってゴミが増えてしまうわけですから、とてもリサイクルとは言えません。さらにもう一つ、より深刻な問題は、単純にゴミが増えることよりも、工程中で環境中に放出される放射能が非常に多くなってしまうことです。」というようなこともある。
 原子力の「平和利用」は、まさに「神話」なしには進められなかったことがわかる。ここでは、同書の『「核燃料はリサイクルできる」という神話』の中の、それぞれの項目から結論部分を中心に抜粋した。

 高木仁三郎の指摘する、問題だらけの核燃料リサイクルのために建設されている青森県六ヶ所村の「核燃料再処理工場」は、トラブル続きで、完工延期が20回にもなるという。そして、その建設費用は、当初(1993年)7600億円であったものが、最近の電気事業連合会の発表では、今後の増設分を含め、なんと3兆3700億円になるとのことであり、建設費だけでも、当初の計画のほぼ4.5倍になっている。また、運転・保守費約6兆800億円、工場の解体・廃棄物処理費約2兆2000億円などを合わせると、総費用は「約11兆円」という。運転・保守費、工場の解体・廃棄物処理にも膨大な費用のかかることが、計画の段階ではなく、建設中に明らかにされたということである。その上、この試算は、「工場が40年間100%フル稼働、無事故で動く」という、ありえない前提で試算されており、実際はこれ以上の額になることは確実だといわれている。

 使用済み核燃料から、1%にも満たないプルトニウムを取り出す再処理を「リサイクル」と呼び、日本がこんな莫大な経費をかけるのは、やはり原子力の平和利用が、「原子力神話」によって進められてきた国策の証ではないか、と思う。
 おまけに再処理工場は、事故ではなくても、放射能を日常的に空中や海中に放出し続けるのだという。高さ150メートルの排気筒から、また六ヶ所村沖合3kmの海洋放出管の放出口から…。そして、放射能を放出しなければ運転できないというのである。こうした再処理工場周辺で小児白血病が増えているという調査結果が報告されているのに…。 
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 「核燃料はリサイクルできる」という神話

 絶望的なプルサーマル・MOX計画

 「核燃料はリサイクルできる」という神話は、第1の神話である「原子力は無限のエネルギー源」神話のバージョンと言うことができます。第2章で見たように、原子力で非常に多くのエネルギーを得ようとすれば、資源に限りのあるウランではだめで、高速増殖炉が必要になります。それを使ってプルトニウムをどんどん増殖し、それによって燃料を大量に作り出そうという計画から、高速増殖炉は「打ち出の小槌」のような原子炉だという神話、いわば「プルトニウム神話」が生まれという話もしました。しかし、高速増殖炉計画が世界中で破綻をきたし、日本でも「もんじゅ」がみじめな事故を起こして、その計画はほとんど破綻してしまいました。

 2000年3月に、その破綻した「もんじゅ」をかろうじて首の皮一枚でつなぐ、本当に時代の流れに取り残されたような、みじめな政治的な判決が福井地裁で出されましたけれども、そういう政治的な裁判の判決のいかんにかかわらず、この増殖炉が実用的には生き残れないことは明らかです。

 また、今すぐそれが役立つものであるとは日本政府も考えてはいないはずです。そのためにプルトニウム神話が、さらに新しいかたちをとって生き残ろうとしているわけで、それが、これからお話しする、「核燃料はリサイクルできる」という神話です。
 核燃料リサイクルを別の言葉で言えば、ちょっと聞いたことがあるかもしれませんが、「プルサーマル」というものです。原子炉の燃料の流れを核燃料サイクルと呼ぶことは、すでにお話ししましたけれども、その流れのなかで、使用済み核燃料を化学処理する、つまり再処理してプルトニウムを取り出す過程があります。そのプルトニウムをウランともう一回混ぜてやって酸化物の形にしたものを、混合酸化物燃料、英語でMOX(Mixed-Oxide)と言います。この、MOXという形の燃料にして、ふつうの商業炉、つまり軽水炉で燃やす計画を、日本でつくられた一種のジャパングリッシュですけれども、プルサーマルと呼んでいます。

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 言葉だけのリサイクル計画

 なぜ「リサイクル」という言葉が出てきたのか、不思議に思う人もいるでしょう。政府や電力会社の立場にたって説明すれば、要するに、使用済み燃料、いったん原子炉で燃やした燃料から、再処理して、プルトニウムという燃える成分を取り出して、それをもう一回原子炉の中で燃やせる燃料にするからリサイクルだという理屈です。リサイクルであるから、資源の有効利用であり、未来型のエネルギー原料の作り方であり、使い方なんだよ、というわけです。さらには、そういうふうにリサイクルすることによって環境への負荷を少なくするとまで言って、非常に環境重視型のエネルギー政策なんだということが、この神話の根拠になっているわけです。

 こんな神話が本当にあるのかという気がするかもしれませんが、高速増殖炉神話であるとか、あるいはプルトニューム神話という、神話の最たるものが崩れた段階で、この新たな神話は出現しきました。前章の、クリーンエネルギ-神話と並んで「環境に優しい原子力」を打ち出す必要が出てきた原子力産業や日本政府が「リサイクル」という言葉に飛びついてこれを神話化しようとしたわけです。


 もう少し別の狙いとしては、従来のウランを使った原子力産業では、ちょっと先が見えてきたという事情があると思います。新しい仕事がほとんどなくなって、原子炉も建たなくなってきました。そういうなか、プルサ-マルをやることで、プルトニウムを中心とした新しい産業を興していこうという狙いがあって、そのためにリサイクルという神話を持ち出してきたいきさもあるのでしょう。

 しかし、考えてもらえばわかることですが、もともと使用済み燃料のなかのプルトニウムをリサイクルするといっても、リサイクルされるのはごくわずかです。100万キロワット級原発ですと、ウラン燃料は1年分で、およそ27~30トンくらいですから、使用済み燃料もそれくらい出てきます。それに対して、使用済み燃料から再処理したときに取り出されるプルトニウムの量は、全体として250キログラムから多くて300キログラムくらいになります。そのうち燃える成文、つまり核分裂性の成分は、具体的にいうと239と241というアイソトープになりますが、これは百数十キログラムからせいぜい200キログラム程度です。これは原子燃料の燃やし方によっても違ってきますが、だいたいそのくらいの量になります。ということは、もとになる使用済み燃料に対して1%にも満たない量です。リサイクルしてもそのくらいの量しか、またもとの原子炉の燃料として戻すことはできません。こういうのはふつう、リサイクルとは言わないでしょう。

 たとえば自転車のリサイクルを考えてみても、部品の一部、例えばタイヤとかペダルを取り替えたりして、場合によってはチェーンくらいは取り替えるかもしれませんが、古い自転車の60パーセントなり70パーセントくらいはそのまま残して、それに何かを加えて自転車を使えるようにすることをリサイクルと言っています。
 あるいは飲料用ペットボトルのリサイクルとか、新聞紙などのリサイクルが盛んですけれども、この場合のリサイクルは、それを全部原料の形に戻して、それからもう一回ボトルなり再生紙なりを作り直すことです。このときにもそれなりのエネルギ-の投入などが必要になりますが、基本的には原料の70パーセントから80パーセントを再生します。あまりゴミを出さないことで環境上望ましいリサイクルを行う、循環するというのが本来のリサイクルの考え方です。
 それが原子力の場合は、60パーセントから70パーセントを残すどころではなくて、1パーセントだけを残して、残りの99パーセントは捨てなくてはなりません。しかも、おおざっぱに言うと、そのうちの3~4パーセントは、非常に放射能レベルの高い放射性廃棄物です。プルトニウム以上に多量の廃棄物、いわゆる死の灰が出てきます。それからあとのものが燃え残りのウランということになりますが、これはほとんど使い途がありませんから、ある種の廃棄物として残ってしまいます。そういう類のものですから、本来的に言うと循環なんていうものではなくて、ごく一部が、仮にうまくいったとして使い物になるというだけの話で、とてもリサイクルなどというものには値しません。



 リサイクルで放射能がふえる!

 MOX燃料は私の専門分野ですから、大きな国際研究もやりましたし、いろいろなレポートも書いています。ここではくわしく述べませんが、プルサーマル計画、つまりMOX燃焼をやると、どのくらいエネルギー的に得をするのか研究したことがあります。たとえ1パーセント以下とはいえ、本来なら捨ててしまうプルトニウムをまた使うわけですから、それによる燃焼節約の効果も一定程度はあるだろうと、計算上は考えられるわけです。そこで、私たちの国際研究であるIMAプロジェクトのなかで、このメリットについて研究してみました。
 IMA研究の正式な名前は「MOX燃料の軽水炉利用の社会的影響に関する包括的評価」というものです。私たちがこの研究をやって明らかにした一つの重要な点は、プルトニウムを取り出して燃やすことは、安全性の問題は別にしても燃料資源上のメリットはまったくないということです。とくにリサイクルによって環境の負荷を少なくするといったメリットは、まったくありません。


 ウランが原発の燃料となるプロセスは、非常に長い道のりだという話はすでにしましたけれども、使用済み燃料を再処理して取り出すことは、それをさらに複雑にした流れとなります。プルトニウムをあちこちに動かし、いろいろな工程を経てプルサーマルという名の再利用を行うと、その過程でいろいろな廃棄物が出てくるうえに、そうやって燃やしたプルトニウム自体が結局、最終的には使用済みのMOX燃料というゴミとなって残ってしまいます。ゴミを減らすことになるどころか、この計画はかえってゴミを増やすことになるのです。ゴミの増大について、私たちはこの国際研究のなかで、かなりくわしく分析してデータを出しました。

 そのあとでこれをフォローするものとして、ウラン燃料で1キロワット時の電力を生産する場合と、ウラン燃料を1回使って1キロワット時の電力を生産し、そこから副産物でできたプルトニウムを取り出してウランと混ぜて、もう1回発電を行う、いわゆるリサイクルをする場合に、どちらがゴミが多いかを比較する研究も行いました。後者の場合にできる電力は、最初のときとリサイクルのときの2回ですから、合計で2キロワット時の電力となりますが、1キロワット時に換算して、低レベル、中レベル、高レベルの各種廃棄物は発生量を比較してみました。この細かい計算は省略しますが、結局のところ、いちばん問題になる高レベルの各種廃棄物は、リサイクル、つまりMOX燃料を使ったプルサーマルをやったほうが、ウランを1回だけ使ってやめてしまうのに比べて、発電される電力1キロワット時当たりに出てくる放射能の量は多くなります。
 リサイクルによって、かえってゴミが増えてしまうわけですから、とてもリサイクルとは言えません。さらにもう一つ、より深刻な問題は、単純にゴミが増えることよりも、工程中で環境中に放出される放射能が非常に多くなってしまうことです。



再処理工場の周辺で増えている小児白血病

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 こういうことからも、再処理は環境に優しいどころか、原子力施設のなかでもいちばん環境的に問題がある工程だということがほぼはっきりして、常識化してきています。
 再処理施設が原発よりもよほど環境への放射能放出が大きいことを考えると、再処理を経由することで成り立っている「燃料のリサイクル」は、とてもではないけれど環境に優しいとは言えません。それどころか、かえって環境に大きな害をもたらす施設であると断言できます。さらに、それに関わる人たちの被曝とか、残される放射性廃棄物の量からしても、環境に優しい施設ではないことがわかります。私たちの研究によっても、それははっきりしたと言えるでしょう。



プルサーマル計画の実態はプルトニウム焼却計画

 ちなみにプルサーマル計画は、あるいはMOX計画のほうが通りがいいでしょうけれども、これはもともと、ウランを燃やすために作った原子炉をほとんどそのまま使って、ウランとプルトニウムを燃やすという計画です。燃料は物理的にも化学的にも違った特性を持ったものを使うし、安全上でもいろいろな問題が起きています。さらに、プルトニウム燃料を作るためには、再処理を含めていろいろな施設を作らなければなりませんから、そういう意味でも高くつきます。
 私たちが2年間にわたって行った国際研究では、あらゆる意味でMOXのメリットはないという結論となりました。

 「プルトニウム分離とMOXの軽水炉利用という路線のデメリットは、核燃料の直接処分の選択肢に比べて圧倒的であり、それは、産業としての面、経済性、安全保障、安全性、廃棄物管理、そして社会的な影響のすべてにわたって言える。換言すれば、プルトニウム分離の継続とMOXの軽水炉利用の推進には、今や何の合理的な理由もなく、社会的な利点も見いだすことができない」(『MOX総合評価』七つ森書館)


 これが、日本、ドイツ、フランス、イギリスという4カ国の研究者、9人が行った国際研究、MOX総合評価IMA研究の結論だったわけです。この研究によって核燃料リサイクルの愚かさを言いつくしたことで、プルサーマル計画をリサイクルなどと言えないことは明らかになったわけですが、いまだに政府はこの表現を使いたがります。
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使用済み燃料をリサイクル燃料と呼ぶ愚

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 とにかくリサイクルは破綻していますから、再処理はちょっと止めて暫定貯蔵という話になってきました。けれども使用済み燃料の暫定貯蔵では、単なるゴミの貯蔵でイメージが悪いから、いずれこれはリサイクルできる燃料なんですよ、ということを言いたくって、リサイクル燃料貯蔵施設なんて言葉を使っているわけです。
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