第二次世界大戦後、米国の情報活動が大きく花開いた時期として、
アイゼンハワー政権がよく挙げられる。
確かに、工作活動の面だけでなく、情報評価・収集体制の改編・拡充といった組織面での改革を進めながら、
U-2機やスパイ衛星の開発に着手して、偵察情報収集の技術向上に取り組むなど、
多方面で情報活動の役割に期待が寄せられた時期であった。
しかし、当のアイゼンハワー自身が書き残した回顧録をひもといてみても、
情報活動について触れた部分は、ほとんど皆無といっても過言ではなく、
唯一、1960年5月に撃墜されたU-2偵察機に関して、若干、言及されているのみであり、
多くの政府関係者の回顧録と同様に、
アイゼンハワーもまた、情報活動の実態については、それを明らかにしないままだったのである。
もちろん、アイゼンハワーが抱いていた情報活動への関心は、
すでに、スティーヴン・アンブローズが指摘しているように、
第二次世界大戦での経験に由来するものであり、
そこで得た情報活動への理解が、大統領時代において反映されることになった。
だが、アンブローズの著作は、1981年に出版されており、
ようやく情報史研究の萌芽が出始めてきた頃に発表されたものであった。
当然、政府文書を積極的に利用できるはずもなく、
とりわけ大統領時代に関しては、
インタビューとマスコミ報道に大きく依拠して執筆せざるを得なかったのである。
Stephen E. Ambrose
Ike's Spy: Eisenhower and the Espionage Estiblishment
Jackson: University Press of Mississippi, 1981
しかし、近年、新たに情報文書や政府報告書が公開されたこともあって、
アイゼンハワーが語らなかった情報活動、特にU-2機や偵察衛星の活動に関して、
実証的なアプローチを採用した研究が出るようになった。
そうした中で、1950年代における米国の偵察情報活動を知る場合に適した文献として、
ニューヨーク・タイムズ紙記者のフィリップ・タウブマンが発表したものがある。
Philip Taubman
Secret Empire: Eisenhower, the CIA, and the Hidden Story of America's Space Espionage
New York: Simon & Schuster, 2003
これは、基本的にU-2機から偵察衛星(コロナ)への研究開発の流れがうまく描かれており、
書き手がジャーナリストということもあって、豊富なインタビューに基づきながら、
興味深いエピソードが随所に盛り込まれている。
今回、出版された文献も、同じくアイゼンハワー政権での偵察情報活動を扱ったものであるが、
著者は、第二次世界大戦時に、欧州で偵察情報活動を経験した後、
アイゼンハワー政権からフォード政権までの間、
偵察情報を大統領に説明してきた元CIA上級分析官である。
つまり、技術開発には直接、関与していなかったにせよ、
偵察情報の利用と政策決定の現場を生で見てきた人物による著書ということで、
一見の価値はあろうかと思われる。
Dino A. Brugioni
Eyes in the Sky: Eisenhower, the CIA and Cold War Aerial Espionage
Annapolis: Naval Institute Press, 2010
ここで述べられているトピックは、タウブマンの著作と重複する部分も多いが、
実際に、U-2機がスエズ海峡やチベット、インドネシア、台湾などで偵察活動を行ない、
危機に際して、こうした偵察活動が果たした役割に言及していることは、
タウブマンの著作とは違った特色が出ており、
情報史研究と外交史を考える上で、一つの視点を提供してくれることだろう。
史料的にも、一次史料をしっかりと押さえながら執筆されているので、
気になる部分は、脚注で確認することができる。
アイゼンハワー政権がよく挙げられる。
確かに、工作活動の面だけでなく、情報評価・収集体制の改編・拡充といった組織面での改革を進めながら、
U-2機やスパイ衛星の開発に着手して、偵察情報収集の技術向上に取り組むなど、
多方面で情報活動の役割に期待が寄せられた時期であった。
しかし、当のアイゼンハワー自身が書き残した回顧録をひもといてみても、
情報活動について触れた部分は、ほとんど皆無といっても過言ではなく、
唯一、1960年5月に撃墜されたU-2偵察機に関して、若干、言及されているのみであり、
多くの政府関係者の回顧録と同様に、
アイゼンハワーもまた、情報活動の実態については、それを明らかにしないままだったのである。
もちろん、アイゼンハワーが抱いていた情報活動への関心は、
すでに、スティーヴン・アンブローズが指摘しているように、
第二次世界大戦での経験に由来するものであり、
そこで得た情報活動への理解が、大統領時代において反映されることになった。
だが、アンブローズの著作は、1981年に出版されており、
ようやく情報史研究の萌芽が出始めてきた頃に発表されたものであった。
当然、政府文書を積極的に利用できるはずもなく、
とりわけ大統領時代に関しては、
インタビューとマスコミ報道に大きく依拠して執筆せざるを得なかったのである。
Stephen E. Ambrose
Ike's Spy: Eisenhower and the Espionage Estiblishment
Jackson: University Press of Mississippi, 1981
しかし、近年、新たに情報文書や政府報告書が公開されたこともあって、
アイゼンハワーが語らなかった情報活動、特にU-2機や偵察衛星の活動に関して、
実証的なアプローチを採用した研究が出るようになった。
そうした中で、1950年代における米国の偵察情報活動を知る場合に適した文献として、
ニューヨーク・タイムズ紙記者のフィリップ・タウブマンが発表したものがある。
Philip Taubman
Secret Empire: Eisenhower, the CIA, and the Hidden Story of America's Space Espionage
New York: Simon & Schuster, 2003
これは、基本的にU-2機から偵察衛星(コロナ)への研究開発の流れがうまく描かれており、
書き手がジャーナリストということもあって、豊富なインタビューに基づきながら、
興味深いエピソードが随所に盛り込まれている。
今回、出版された文献も、同じくアイゼンハワー政権での偵察情報活動を扱ったものであるが、
著者は、第二次世界大戦時に、欧州で偵察情報活動を経験した後、
アイゼンハワー政権からフォード政権までの間、
偵察情報を大統領に説明してきた元CIA上級分析官である。
つまり、技術開発には直接、関与していなかったにせよ、
偵察情報の利用と政策決定の現場を生で見てきた人物による著書ということで、
一見の価値はあろうかと思われる。
Dino A. Brugioni
Eyes in the Sky: Eisenhower, the CIA and Cold War Aerial Espionage
Annapolis: Naval Institute Press, 2010
ここで述べられているトピックは、タウブマンの著作と重複する部分も多いが、
実際に、U-2機がスエズ海峡やチベット、インドネシア、台湾などで偵察活動を行ない、
危機に際して、こうした偵察活動が果たした役割に言及していることは、
タウブマンの著作とは違った特色が出ており、
情報史研究と外交史を考える上で、一つの視点を提供してくれることだろう。
史料的にも、一次史料をしっかりと押さえながら執筆されているので、
気になる部分は、脚注で確認することができる。