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「ナチス戦犯公開法」による最新の文書公開情報

2010年12月20日 | ARCHIVES

 日本とドイツの情報史研究に関心を持っている人にとって、
 近年、非常に大きな注目を集めている文書として、
 「ナチス戦犯公開法(Nazi War Crimes Disclosure Act)」によって機密解除を受けた文書群が挙げられる。
 この文書群は、基本的に第二次大戦が終結した後、日独の戦犯容疑者を摘発するために、
 占領統治を行なっていた米国の軍情報機関が収集した情報から構成されているのだが、
 戦犯問題だけでなく、米国や日独両国の水面下での情報活動を記録した文書も多く含まれており、
 従来、まことしやかにしか語られてこなかった旧軍人の動向について、
 きわめて示唆的な事実を提供してくれるものとなっている。

 今年初め、米国に行った際も、この文書を閲覧し、そのうちの一部をスキャンしてきたが、
 現時点において、情報史としての視座を確立し得るほど、体系的に文書が出てきているわけではなく、
 あくまで断片的な事実を確認することで精一杯というのが実情であろう。
 ただ、日本に関して言えば、そこに収められた人物ファイルの多くが旧陸軍関係者であったことから、
 おそらく米国はまだ、相当数、文書を隠しているなと感じたものである。
 なぜなら、戦後の日米関係という文脈に照らした時、
 旧海軍と外務省の動向をほとんど取り上げていないというのは、あまりにも不自然だからである。
 したがって、いつになるかは分からないけれども、
 そう遠くない将来、そうした部分に関しても踏み込んだ文書が出てくるかもしれないと、
 心ひそかに期待を寄せているのである。

 そして、その見込みが必ずしも的外れではなかったことを示すかのように、
 今月10日、非公開として残っていたナチス戦犯文書を公開する決定が下されることになった。
 ページ数にして、200万ページ以上の分量であり、
 ドイツの情報史研究者にとっては、まさしく垂涎の文書群となるであろう。

 National Archives Press Release (Dec 10, 2010)
 "National Archives Issues New Report on Nazi War Crimes"
 http://www.archives.gov/press/press-releases/2011/nr11-24.html

 Richard Breitman and Norman J. W. Goda
 Hitler's Shadow: Nazi War Criminals, U.S. Intelligence and the Cold War
 http://www.archives.gov/iwg/reports/hitlers-shadow.pdf

 個人的に興味深いのは、上記のレポート第5章で指摘されている内容である。
 米ソ冷戦時、東欧諸国において、米国は工作員を浸透させて反体制運動を扇動しており、
 その一つとして、ウクライナでの地下抵抗活動への支援が行なわれていたのだが、
 今回の文書公開によって、ウクライナの民族運動と米国の関係が、史料的にも明らかになった。
 日本関係の文書もできるだけ早く解禁してくれると嬉しい。