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History, Strategy, Ideology, and Nations

共産主義の世界史的評価

2010年03月07日 | COLD WAR HISTORY
 「共産主義とは何だったのか」という関心は、単にイデオロギーだけの問題ではなく、
 冷戦史研究においても、きわめて重要な問いかけになっている。
 マルクスに始まり、レーニン、トロツキー、スターリン、
 毛沢東、金日成、ホー・チ・ミン、野坂参三、カストロ、チェ・ゲバラ、ポル・ポトなど、
 多くの政治指導者に受け入れられ、革命闘争や社会改革に走らせたことは、
 確かに、現代史の一大潮流を作ったと言えるからである。

 一部には、実を言うと、彼らは心から共産主義を信奉していたのではなく、
 自らの権力闘争に、そのイデオロギーを利用していただけだったという解釈もあるが、
 近年の研究を見ていると、彼らの世界観や国際政治観は、相当に共産主義的であったことが指摘されており、
 あながち、権力闘争だけを目的としていたわけではないことが明らかにされている。
 つまり、彼らは程度の差こそあれ、やはり共産主義を信奉していたし、
 仮に信奉していなかったとしても、その影響を強く受けていたことは間違いないのである。
 したがって、当然のことながら、そうした影響を考慮しない米ソ冷戦史の検討は、
 いまや不十分なものと評価されることは避けられないのである。

 欧米での研究状況を見ていると、共産主義研究は、一時期に比べて、かなり落ち込んだ。
 それは、ソ連崩壊によって、共産主義の存在自体が歴史的に否定されたことで、
 研究対象としての魅力を欠いてしまったことが挙げられる。
 また、共産主義研究者には、共産主義を信奉している者も少なくなかったため、
 そうした現実に直視できないこともあったのかもしれない。
 
 しかし、現在、改めて、共産主義の歴史的評価を論じる研究が出始めており、
 そのアプローチも、以前よりもずっと実証的かつ客観的な視点で検討されている点で、
 「共産主義とは何だったのか」という大きな問題に、説得的な解釈を提示することに成功している。
 特に次の文献は、冷戦史研究の観点からも見ても、
 大いに参考となるものと思われるので、以下に紹介しておきたい。
 
 David Priestland
 The Red Flag: A History of Communism
 New York: Grove Books, 2009

 著者は、オックスフォード大学現代史学部教授で、元々はソ連史研究の専門家である。
 本書の優れた点は、共産主義と政治の関係を、ロシアだけに事例を求めるのではなく、
 他の地域で、それがどのように受容され、発展し、やがて衰退したのかを論じている点にある。
 従来、こうした研究は、ロシア(ソ連)に限定されがちであったが、
 幅広い視野に立って、共産主義の世界史的評価を試みていることが特徴である。
 
 著者自身も指摘しているように、共産主義が滅んだと言っても、
 それはヨーロッパだけの話であって、アジアや南米では、今も生き残っているイデオロギーである。
 なぜこうした地域では生き残り続けているのかを考える上でも、
 本書が与える示唆は大きいように思われる。