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History, Strategy, Ideology, and Nations

11月12日

2009年11月12日 | THEORY & APPROACH
 「ソフトパワー」という概念は、国際政治学者のジョセフ・ナイが提唱したものである。
 権力よりも権威が重要だとする指摘は、実は随分前から論じられてきたことで、
 それほど斬新な切り口というわけでは決してない。
 むしろ、そのネーミングが巧かったからこそ、
 ソフト・パワー論が広く流布されることになったのであろう。

 日本においても、ソフト・パワー論は人気が高いし、
 政府もまたそれを実践する活動の一環として、
 日本の伝統芸能や流行を発信する努力を行なっている。

 だが、いくら歌舞伎や能を海外に伝えても、
 当の日本人自身がどれだけそうした伝統芸能に通じているかと言えば、大きな疑問である。
 また、日本の最新ファッションを紹介するといっても、
 その多くはすでに西欧化されたものであり、
 一体どの部分が日本の文化を感じさせるものか一目で判断することは難しいだろう。

 以前、麻生前首相が日本のアニメを世界に広めるプランを提案したことがある。
 確かに日本のアニメは海外で非常に評価が高く、愛好者も多いと聞く。
 しかし、その愛好者は残念ながら外交の潜在的パワーになる層の人たちではなく、
 むしろ政治的なものからは距離を置きたがる傾向が強い人たちであり、
 仮にそうした意識に目覚めたとしても、積極的かつ具体的に行動することを忌避するため、
 ソフトパワーの担い手として期待できるところは案外、乏しい。

 そこで一つ、提案なのだが、もし日本が本気でソフト・パワーを強化したいのなら、
 世界に冠たる日本の食文化を積極的にアピールするのが良いと思う。
 最近、ミシュランのガイドブックが出版されて話題となったが、まさに大きなチャンスである。
 ここぞとばかりに日本の美味しい食事処を世界に紹介して、
 どんどん海外から日本料理を食べに来てもらうようにしたらいい。
 心をつかむには、まず胃袋をつかむのが一番の近道である。
 
 太平洋戦争時、米国の原爆投下の候補地には京都が含まれていたが、
 スティムソン陸軍長官の強い反対で外されることになった。
 表向きは、歴史ある京都を破壊したら、米国の威信を大きく損なわせてしまうとのことであったが、
 実はスティムソンは大学の卒業旅行で京都に訪れたことがあり、
 そこで日本料理にはまってしまい、最後は後ろ髪引かれる思いで帰国したらしい。
 世紀の決定といえども、その内実は案外、こんなものである。

 日本食の美味しさは、他国の政治指導者の心を打ち抜く強力なソフトパワーである。
 もちろん、政治家だけでなく、広く観光客を招き、日本食を楽しんでもらって、
 食文化から日本のおもてなしの心や和の精神などを伝えることは十分可能だろう。
 また、日本食ならば、歌舞伎や能といった伝統芸能よりも、
 はるかに今の日本人にとって馴染みが深いし、外国人にも説明しやすいだろう。
 外務省の方々には、ぜひ前向きに検討を願いたい。