昨年11月末、北朝鮮が韓国・延坪島に砲撃し、20名以上の死傷者を出したことから、
朝鮮半島情勢は一気に緊張の色合いを深めた。
しかも、民間人からも2名の犠牲者を出していたため、
韓国の国内世論は北朝鮮への強硬論で渦巻いており、
対話重視派の声はほとんど掻き消されるような状況に陥っている。
韓国・李明博大統領は、出来れば今は北朝鮮と衝突したくないというのが本音であろう。
万が一、第二次朝鮮戦争の勃発という事態となれば、
2008年秋に起きたリーマン・ショック以降も、
比較的順調な成長を見せる国内経済に決定的な打撃が加えられることは避けられないからである。
しかし、北朝鮮の挑発や横暴を座視しているようでは、
国家としての体面を保つことができないというのも偽らざる本音であり、
米国や日本と軍事演習を行なうことで、北朝鮮への牽制を図る努力は怠っていなかった。
12月に入って、ロシアは韓国に対して冷静に対処するように求めたが、
少なくとも今日までの間、韓国政府は国内世論の突き上げを受けながらも、
全体として冷静に対処してきたことは評価されるべきであろう。
だが、それは決して現状維持や事態の黙認を意味するものではなく、
武力行使も含めた北朝鮮への影響力行使を本格的に検討する契機となったことは間違いない。
実際、昨年12月末、韓国は朝鮮半島の統一に向けた計画案の作成に乗り出しており、
北朝鮮の体制崩壊とその後の統治体制に関して、具体的な動きを見せ始めているからである。
現時点において、その内容は公開されていないようだが、
韓国がこうした計画の立案に着手したということは、
再び北朝鮮が何らかの挑発的行為に及んで、犠牲者が出るような事態に陥れば、
もはや戦争も辞さないという決意を固めたと見なしてよいだろう。
年末年始にかけて、米中韓露の間で、繰り返し会合や交渉が行なわれていたが、
その目的は、おそらく韓国側の決意がどこまで本気なのかを見極めることだったと思われる。
一方、北朝鮮は5日、韓国側に対して、無条件での二国間対話を呼びかける声明を発表した。
それによると、「対話と協議だけが現在の難局を打開できる出口だ」とした上で、
南北間での事業協力の再開や体制批判の中止などを求めており、
北朝鮮側が今後の協議に向けて譲歩する可能性を示唆する内容になっている。
もし今後も北朝鮮が挑発的行為を続ければ、すでに戦争計画の立案に入った韓国は、
北朝鮮への軍事的報復を選択肢に加えるようになるだろう。
また、それが実行された場合、通常兵力の面における圧倒的格差によって、
北朝鮮が敗退することは歴然である。
したがって、この時期、無条件とはいえ、北朝鮮が唐突に対話を求めてきたのは、
韓国の対話重視派を支援するとともに、
韓国政府の姿勢に変化をもたらすためであることは容易に推測されるのである。
しかし、韓国政府は、この声明を一蹴しており、
協議再開においては、韓国側が要求する条件を満たさない限り、
北朝鮮との対話には応じないという姿勢を貫いている。
また、条件さえ満たせば、対話に応じる用意があるとも述べており、
あくまでもボールは北朝鮮の側にあるとの認識を崩していない。
こうなってくると、北朝鮮としては、第三国の仲介が欲しいところだが、
そのターゲットに日本が浮上してくることも考えられる。
何としても政治的成果を上げて、国内の支持基盤を固める必要がある菅政権にとって、
現在の朝鮮半島情勢をめぐる外交で事態収拾の役割を果たしたとなれば、
多少なりとも求心力回復に貢献するかもしれないからである。
だが、それは結果として、北朝鮮の利益に資することになるであろうから、
現状打破へと少しずつ舵を切り始めた米韓の動きを反故にする危険性を冒すことになるだろう。
日本としては、北朝鮮からの要望に独断で応じることなく、
あくまでも米韓との緊密な連携を軸にながら、
朝鮮半島の情勢に臨んでいくことが不可欠である。