YS_KOZY_BLOG

History, Strategy, Ideology, and Nations

11月22日

2009年11月22日 | MILITARY
 昨日、届いた文献に目を通しながら、色々と考えさせられてしまった。
 それは単純に中国の宣伝が巧妙であるとか、日本が稚拙であるとか、
 そうしたこと以上に、広く歴史を動かす要因とは何かということである。

 フレデリック・ヴィンセント・ウィリアムズ/田中秀雄訳
 『中国の戦争宣伝の内幕 日中戦争の真実』
 芙蓉書房出版、2009年

 初版は1938年、著者は米国人ジャーナリストである。
 日中戦争が深まる極東アジアを取材旅行しながら、その実態をつぶさに目撃したことを通じて、
 米国の中国観がいかに歪んだものであるか、
 そして、その裏返しとして、大きく誤った米国の対日政策に警鐘を鳴らし続けたが、
 やがて日本が真珠湾攻撃を実行すると、逮捕されるに至った。

 この中で、ひたすら強調されているのは、中国大陸をめぐってうごめく欧米列強と国民党の策謀である。
 日本は、様々な形で秩序維持を目指したが、
 結局は底なし沼に落ちていくように、中国大陸の闇に引きずり込まれていった。
 国民党が、欧米列強(特に米国)の善意と偏向した中国観を利用し、
 抗日戦線を有利に展開するために日本軍の残虐性を積極的にアピールしていたからである。

 もちろん、日本側に野心がまるでなかったとは言えないし、
 国民党の宣伝だけが欧米諸国の行動を決めたと断言できる証拠はどこにもない。
 だが、各々の時代には、各々の風が吹いている。
 宣伝や策謀といったものは、まさにその風に相当するものであり、
 そうした効果や意図は、はっきりと文書に記録したりする類いのものではない。
 おそらく当時を生きた日本人にしてみれば、
 正しく努力しているにもかかわらず、一向に改善しない中国大陸の状況について、
 あたかも見えない力によって動かされているとしか表現できない状況だったように思われる。
 
 もちろん、「見えない力によって動かされている」と信じることは、
 陰謀論的であるし、妄想的であるかもしれない。
 だが、そう思わなければ読み切れない歴史的状況が存在していたこともまた認めなければならない。
 複雑な状況を指摘することは簡単である。
 そして、その複雑さが理解できなかった無能さを蔑むことはもっと簡単である。
 だが、迷路に迷い込んだ当事者にとって、その迷路の複雑さを認識することが極めて困難なように、
 あの時の日本もまた、複雑な迷路に迷い込んでいたのである。

 思えば、従軍慰安婦問題が国連や米国議会などで取り上げられるようになった際、
 無視を決め込むのが賢明とばかりに、あえて反論を試みようとする人々を冷笑する学者や評論家が多くいた。
 だが、性奴隷(sex slave)という言葉が今や世界的に広く用いられ、
 その冠たる国として日本が槍玉に挙げられているという事実は、
 今後、日本が国際社会で窮地に立った時に、日本への同情を著しく阻害する要因になるかもしれない。
 時代の趨勢が些細な事柄から大きくうねりだすことは十分にあり得る。
 本書は、その重要な歴史的教訓を与えているのである。