くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

ニンジン(78)

2019-01-12 22:49:09 | 「ニンジン」
「おいおい、やめてくれ」と、オレはあきれて言った。「空想のお話は、手に負えない」
「決めつけね」と、彼女は言った。「誰もが知っていることなんて、それこそ氷山の欠片程度よ。本当の知識なんて、わたしみたいな職業にでも就いていない限り、普通の人じゃうわさ話に聞くこともないはずよ」
「そりゃ、知らない方がいい事実だって、山ほどあるだろうさ――」
 オレは言ったが、彼女は話し続けた。
「脳と、体の一部の機関のほかは、すべて機械なの。――棺みたいな鉄の箱に押しこめられて、死んだように眠っている彼を見たら、どうしても蘇らせずにはいられなかった。いつから眠らされていたのか、とっくに人間性が失われている可能性もあったけれど、監獄に縛りつけられた捕虜と同じですもの。その作業に手間取って、結局取るものも取りあえず、逃げ出すことになった」
「棺桶って?」と、オレは聞いた。「もしかして“十七号”って、書かれてたやつか」
 彼女はなにも言わず、小さく首を傾げた。
「――で、おっかない用心棒に撃退され、倒れていたところを、やさしい探偵に助けられたわけだ」と、オレは言った。「あの乱闘騒ぎって、おまえ達がやったのか?」
「もうわかったでしょ」と、彼女が言った。「予告状を出して警察を引きつけ、まんまと証拠をぶら下げてやれば、隠していた武器取引の事実が公になって、杉野が表舞台に出てくると思ったの」
「正義の味方の真似事じゃないな」と、オレはため息をつきながら言った。「個人的な恨みかなにかだろ。どうして、杉野に執着するんだ」
「繰り返すけど、そこから先は、あんたには関係ないわ――」
 彼女は、ふと言葉を途切れさせると、考えるように言った。
「――わたしが怪我をするのは、計算外だった」
「計算外はそれだけじゃないだろ」と、空になったワイングラスを見ている泥棒女に、オレは言った。「盗んだ拳銃を見られた」
 オレが自分自身を指さすと、見ていた彼女は小さく首を振った。
「荒っぽい雇われ用心棒達に返り討ちにされ、当然のこと、店の外にはおまえを待ち構えている伊達と機動隊がいて、予告状に書かれたことが実行できないように、警戒していた」と、オレは話を続けた。「で、おまえが言うサイボーグの彼が、すんでのところで息を吹き返し、機動隊を相手に大暴れを始めたところで、隙を見て逃げ出し、けれど途中で力尽きて倒れてしまい、見つけられた」
「それで――」と、オレが話を続けようとすると、
「それで?」と、彼女が怒ったように言った。

ジャンル:
小説
コメント   この記事についてブログを書く
« ニンジン(77) | トップ | ニンジン(79) »
最近の画像もっと見る

「ニンジン」」カテゴリの最新記事