くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

ニンジン(74)

2019-01-08 20:18:04 | 「ニンジン」
「その中身って、開けてみたんですか」オレが言うと、親方は首を振った。
「鉄の棺桶が見えたとたん、重機から降りろって、いきなり連中の態度が変わるのさ」と、親方がため息交じりに言った。「急にこの線から立ち入るなって、掘った穴から無理矢理遠ざけられるし、会社の上司も来たんだけれど、挨拶もそこそこに、現場に置いてあったバリケードを使って立ち入り禁止にしろって、朝からバタバタだったよ」
「で、なにが出てきたんですかね」と、オレは言った。
「不思議なのさ」と、親方はハンドルを切りながら言った。「バリケードを張ってるところに、知ってる役所の人も来たんだけれど、ろくに説明も無いまま、現場の仕事はそれで終わり。追い出されるみたいにして引き上げさせられたよ。こっちも助っ人で来てるだけだったから、すぐ別の仕事にかかったんだけど、会社で顔を合わせた上司にそれとなく聞いてみたら、契約した作業はぜんぜん進まなかったのに、不思議と費用は全額支払われたんだとさ。なんか、おかしいよな――」
「道路は、ちゃんと完成したんですか?」と、オレは言った。
「――俺も気になって、休みの日に見に行ったんだ」と、オレはどうだったか聞いた。
「ビルの建設現場にあるような背の高いバリケードが、地面を掘っていた辺りをぐるりと取り囲んで、中を見ることもできなかったよ」と、親方が言った。「道路なんて、まるでできあがっちゃいなかった」
「そんな厳重にするくらいなんだから、間違いなく貴重な物が出てきたんですよね」と、オレは言った。「だけど、そんなニュースなんて、目にしたことも聞いたこともないですよ」
 信号待ちでトラックを止めた親方が、オレの方を向いて言った。
「気になってたんだよ。この前、大通りの方で乱闘騒ぎがあっただろ。宝石店がどうのってやってたけど、あれってもしかしたら、地面から出てきた棺桶が関係してるんじゃないかって――」
「関係あるんですかね」と、オレは笑いつつ、けれどどこか否定しきれない違和感を覚えていた。
「だよな」と、トラックを発進させた親方は、笑い飛ばすように言った。「宝石と遺跡から出てきた棺桶って、貴重品って以外、なんにも関連ないもんな。おまえみたいな仕事してれば、ひょっとしたらなんかいろいろ聞こえてくるんじゃないかって、不意に思いついただけさ」
 気にすんな――、と言う親方につられて笑い声を上げつつ、けれどオレは、ぞっと肩をすくめていた。

 ――その夜、オレは約束の店に向かった。
 店は、地下鉄の駅のすぐそばだった。地下鉄に乗って遠出したのは、久しぶりだった。そのせいだろうか、駅の外に出て、目的の住所を探しながら歩いていると、見聞きする物がどこか新鮮で、刺激的に感じられた。
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小説
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