くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

ニンジン(79)

2019-01-13 21:08:40 | 「ニンジン」
「あんたなんか、犯人に仕立てるなんて、するわけないじゃない」と、彼女は言った。「――それで杉野は、警察にするいい訳をとりつくろうのに、必死になったのよ。被害者づらを決めこんで、決して地下の隠し倉庫には立ち入らせなかった。警察も怪しんで事務所を捜索したりしたけれど、多田に書類を持たせて、ほとぼりが冷めるまで隠れているように指示したの。でも、横から工藤が出てきて、多田に濡れ衣を着せ、杉野の信用を落として、自分が代わりに裏の取引を始めようとした。慌てた多田は、杉野をゆすることで杉野の立場を守ろうとしたんだけれど、それが裏目に出て、生命を縮める結果になってしまった。追い詰められた土壇場で、杉野があなたに仕事を依頼したのは、強引な手に出る工藤から、多田を逃がそうとしたから。ただ、力関係が入れ替わりつつあった状況では、それも気休めにしかならなかった。もしもひとつ救いがあるとするなら、それは多田が守ろうとした書類が、いまだに出てこないってこと。探偵さんは知らないだろうけど、警察が最後に多田が隠れていた場所を捜索すると、色とりどりの貴金属が、絵に描いたように出てきたそうよ。書類が出てこないことを除けば、工藤たちの思うツボってとこね」
「どうしてうちの事務所を選んだんだ、偶然にしては変だろ」
「わたしを助けたって、知られたからよ」と、彼女が言った。「どこかで、わたしと繋がっていると思ったんでしょうね」
「――でもひょっとすると、都合のいい第三者が、必要だっただけなのかも」と、彼女はからかうように笑った。
「その方が、切り捨てるのも簡単だろうし」
「ぶざけるなよ」と、オレは舌打ちをして言った。「だったらあの拳銃はなんだよ。切り捨てられる前に、捕まえられるじゃないか」

「へぼね」

 と、彼女が言った。
「助けてもらったお礼がしたかったのよ。わたしがあの拳銃を預けていれば、工藤達も容易には手は出せないから。だって、拳銃の出所を探っていけば、杉野の裏の顔が出てくるんだもの」
「多田さんのことは、どう説明する」と、オレは言った。
「工藤達の仲間が見張っていた貴金属店に、間抜けにも宝石を売りに来た多田を見つけ、捕まえようとして追いかけたら、誤って川へ転落した、とでもするんじゃないかしら」
「犠牲者の一人ぐらい、どうとでも説明がつくってことか」
 オレがため息をつくと、彼女が言った。
「へぼよね」
 オレが顔を上げると、
「あんた、店の店員に杉野に連絡するよう、言づてを頼んだでしょ」
 オレは、はっとして言った。
「なんで知ってる――」
「話が通しやすかった、なんて安易に思ってたでしょうけど、あの子、杉野の娘よ。影でこそこそ動いたのが工藤に知れたら、危ない目に遭わされるかもって、考えなかったの」
ジャンル:
小説
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