映画で楽しむ世界史

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「マスターアンドコマンダー」英海軍海洋冒険小説

2010-12-26 18:20:55 | 舞台はイギリス・アイルランド

ラッセル・クロウの海軍艦長物語


1、映画の原作


映画を見る前に少し予備知識を仕入れた。さもないと、よくあることなのだが各分野でアカデミー賞候補にもなった、折角の大作秀作が充分味わえないことがある。いい映画なのに日本の映画関係者が適切な解説、アッピールをしないため忘れられてしまうものが結構多いから気をつけないといけない。


19世紀大英帝国の名残りであろう、イギリスでは世界の海に展開する海軍の活躍ぶりを描いた優れた海洋冒険小説がよく出る。この「マスターアンドコマンダー」はパトリック・オブライエンなる作家の「艦長オブリーシリーズ」の映画化。


このシリーズはイギリスでは大変な人気で20冊ものシリーズが出ているというが、日本ではハヤカワ文庫で5,6冊翻訳ものが出ている。日本にもマニアがいて結構楽しまれているのだろうが、一般には殆んど知られていない。この映画はこのシリーズの「南太平洋波欄の追撃戦」を軸にしたもの。その他の 本の名前だけ書いておこう。


1、新鋭艦長、戦乱の海へ      2、勅任艦長への航海


3、特命航海、嵐のインド洋      4、ボストン沖決死の脱出行


5、風雪のバトル、要塞島攻略


2、映画の内容


原作本は、1812年の第二次英米戦争(アメリカ独立戦争後の、大西洋での商船保護を巡る小競り合い程度の戦争)を背景に、イギリス、アメリカの海戦を描いているのに対し、映画のほうでは1805年ナポレオンの大陸封鎖時代のイギリス、フランス船の戦いにすりかえられている。


映画の中でネルソン提督の伝記本を読む場面が出てくるが、ネルソンは1805年のトラファルガーの海戦で負傷して死んだ筈だが、そんなに早く伝記本が出版されたのであろうか。


又船がガラパゴス諸島によるが、そこで船医がダーウインもどきに珍しい動物の収集を行う場面が出てくるがダーウインはもう5,60年後の人。いずれにしても何か歴史的な裏付けがあってこういうシーンを盛り込んだのか、ちょっとしたサービス精神によるのかよく分からない。


しかし、映画のテーマはよく出来ている。要は船全体にみなぎる大英艦隊の誇りを背景に、任務遂行に走る英雄艦長とその良き友人船医との友情、葛藤を描いたものでヒューマンドラマとして良く出来ているし、帆船航海のデーテイルがよく描かれている。地味ではあるが映画史上に残るものであろう。


3、雑感


それにしても最近の洋画の題は何だろう。しっかりした理由があってか、カタカナ語のほうが若者に受けるとでも思うのか、もう日本語にすることを放棄してしまって、原題をそのままカタカナにしたものが多すぎる。


確かに映画の内容を理解し適当な名前をつけるのは難しい。しかしやはり邦訳の苦労をするべきで、さもないと映画の内容と日本文化をつなぐという観点がなくなり、他国の文化を咀嚼する力がなくなってしまうような気がするのだが如何であろうか。


この映画の「マスターアンドコマンダー」は当初勝手に「優秀司令官」ぐらいの意味かなと想像したが、調べてみるとイギリス海軍の使用するいわば専門用語で「航海長兼海尉艦長」というのだそうだ。これではとても邦題にならない。試みに、主に映画の内容から題をつけるとすれば「艦上の友情」「誇りある船」「ネルソンの子たち」などではどうであろうか。


 日本は鎖国が長く徳川幕府は戦艦建造を禁止していたからであろうか。海戦を話はあまり歴史に登場しない。テレビで織田信長が命じて作った九鬼水軍のことや、近代になって日露戦争の勝利を描いたものがあるが、所詮単発で、イギリスのように世界を駆け回ってなどということは・・・・・たまに「沈黙の艦隊」なんてのがヒットするが、映画に出来るだろうか。なにせ本場イギリスとは何せデーテイルを描く力が違う。


 


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