映画で楽しむ世界史

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ポーランド悲話「灰とダイヤモンド」

2010-12-26 11:40:55 | 舞台は東欧・北欧

NHK衛星映画劇場、今週はポーランド映画の巨匠アンジェ・ワイダ監督の「抵抗三部作」と呼ばれる「世代」「地下水道」「灰とダイヤモンド」

 

  このうち最高傑作は「灰とダイヤモンド」であることは異論なかろうが、三部作を通して理解するためにはポーランドの数々の悲しい歴史を知らねばならない。

中世は別としても、近世の「ポーランド分割」以降、ロシアとドイツに翻弄されたこと・・・第二次世界大戦に限ってみてもユダヤ人のホロコースト、カチンの森事件、そして抵抗映画の直接の背景である「ワルシャワ蜂起」。

はっきり言って、「ワルシャワ蜂起」の知識なしにこれら映画を見ても、ポーランド人がドイツにむやみやたらと抵抗しているという表面的な観賞に終わり、これら映画の本当の味・・・何故欧米人がワイダ監督を高く評価するのか分からないであろう。

 

 そのワルシャワ蜂起をやや丁寧に見ると

 1、ソ連軍とポーランド軍の約束

 第二次世界大戦の東部戦線。

開戦当初ドイツ軍は電撃的にペテルスブルグやモスクワ近くまで攻め込むが、ソ連軍は42年暮から43年にかけてスターリングラードで頑張り、44年半ばからは東欧地域の「解放」に乗りだす。

そしてソ連軍によるバグラチオン作戦の成功により、ドイツ中央軍集団は壊滅しナチス・ドイツは敗走し始め、1944年7月30日にはソ連軍がワルシャワから10kmの地点までに進出するに至る。

そこでソ連軍は自軍の消耗を避けるべくポーランド国内で組織されたレジスタンスに蜂起を呼びかけ、ソ連軍のワルシャワ入城に合わせ市内各所で武装蜂起することを約束させる。決起予定日は8月1日。

しかし、その前日の7月31日からドイツ軍内に増援部隊が次々と配備され、ソ連軍に被害がで始める。そこでソ連軍はヴィスワ川東岸で進軍を停止してしまうが、ポーランド軍にはその情報は伝えられない。

 

 2、ポーランド軍蜂起、抵抗

  8月1日午後2時頃、ポーランド軍約5万人が一斉蜂起し、橋梁、鉄道、官庁、敵兵舎、補給所などを襲撃する。ドイツ軍治安部隊は数で劣っていたものの奮戦し、ポーランド軍は目標地点のほとんどを占領できない。

そこでソ連軍が介入してこないとの報告を受けたヒトラーは、ソ連にはワルシャワ救出の意図がないと判断し、蜂起したポーランド軍の弾圧とワルシャワの破壊を命じたとされている。 

ドイツの鎮圧軍にはカミンスキー旅団といった素行の悪さで有名な部隊が加わっており、これらの部隊の略奪や暴行、虐殺行為はポーランド側の結束を一層強め、戦意を高揚させる。8月19日に総反撃に出て、電話局を占領し、120名のドイツ兵を捕虜とする戦果を挙げるが、そこまで。ドイツ軍は重火器、戦車、火炎放射器など圧倒的な火力の差で徐々に国内軍を追いつめる。

 

 3、蜂起の終焉、ソ連軍の進駐

  8月31日ポーランド軍は分断された北側の解放区を放棄し、地下水道を使って南側の解放区に脱出するが、9月末には国内軍はほぼ潰滅してしまう。(映画「地下水道」)

この間、ソ連はイギリスやアメリカなど連合国空軍によるワルシャワ支援案に同意せず。ワルシャワはドイツ軍の懲罰的攻撃にさらされ、レジスタンス・市民約22万人が戦死・処刑で死亡したと言われている。

最終的には10月3日、ポーランド軍はドイツ軍に降伏し武装解除された。しかし、武装解除に応ぜず、地下に潜伏して抵抗を続ける者も多かった。 

ソ連軍は1945年1月に入ってようやく進撃を再開し、1月17日に廃墟のワルシャワに入城。共産党主導でレジスタンス幹部を逮捕し、自由主義政権の芽を完全に摘み取った。生き残った少数のレジスタンスは地下水道に籠り、裏切ったソ連を攻撃目標とし、要人暗殺事件などで抵抗を続ける。

 

 ともあれポーランドが誇る名画「灰とダイヤモンド」はいわば(日本風に言えば)「8月15日のワルシャワ」(実際は近郊のウッチという街?)。

1945年5月7日、ドイツ軍無条件降伏の日。街のホテルで、市長や共産党幹部を迎えて催される終戦のお祝いの会の様子を追いながら、ストーリーは展開する。

俗物の市長やそれに媚を売ったり反発したりする人々、主人公の一夜の恋、共産党幹部の息子がレジスタンスにいたことなどドラマ性も盛り込み、そしてジェームス・ディーンばりの主人公が演じる緊迫した画面展開。歴史に残る名作であろう。

「灰とダイヤモンド」という題名の由来は映画中容易に解明出来るが、もとはポーランドの詩人の一節をとっているという。

共産党政権の検閲下で、ソ連のご意向に細心の注意を払いながら本作を作ったワイダ監督は本当に凄い。

 

 


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