最近、よく聞かれるので私なりに考えをまとめさせてもらいました。
ご参考になれば有難いです。
わが国では無痛分娩の希望者がどんどん増えてきているのに対して、医療スタッフに対する教育は遅れております。いまだに大学病院ですら無痛分娩のトレーニングを受けられるところは少なく、医師たちの興味も薄いです。
そのため、多くの産婦人科医や麻酔科医は無痛分娩は見たことはあるが自分ではやったことがないということが現状です。
厚生労働省や関連学会も無痛分娩に対する現状の把握や指針の提示をほとんど行わずに来ました。
それでも世の中のほとんどの病院では経験豊富な医師によって無痛分娩は安全に行われ、急変時の対応にもしっかり備えられてきていたと思います。
しかし、体系的なトレーニングを受けられる病院やチャンスも少ないため、中には経験の少ない医師が我流で行っている施設もあるのかもしれません。
世間で問題になっている病院での詳しい経過は公表されていませんので、あまりはっきりとしたことは言えませんが、硬膜外カテーテルという管がくも膜下腔という場所に入って全脊椎麻酔という状態になることは滅多にないものの、起こり得ることではあります。経験豊富な医師であれば、麻酔薬を少しずつ注入している状態で麻酔が効きすぎているのでおかしいと気づく可能性が高いですし、呼吸抑制が出てきたらすかさずマスクをあて呼吸をサポートします。当院でも人工呼吸用のマスクはいつでも手の届く場所に置いてあります。血圧が下がりすぎた時に備え昇圧剤も常備してあります。このような対応がしっかりできなければ重篤な事態になる可能性が高いですし、どうやらこのような点が問題になっているようです。
当院では2008年9月の開院から2017年7月まで1107例の無痛分娩を行い(緊急帝王切開14例、1.3%)、母児共に重篤な事態になったことは1度もなく安全に施行できておりますのでご安心ください。
今後、厚生労働省や学会がしっかり旗を振ってガイドラインを作成したり、無痛分娩のトレーニングができる施設を増やしたり、専門医の必須の研修にしなくては残念な事故は起こりうる可能性はあると思います。
決して悪いということでないですが、病院を選ぶ際に注意した方が良い点を私なりにまとめさせてもらいました。
・最近急に無痛分娩を始めた。
・医師の産科麻酔の経歴がはっきりしない。はっきり公表しない。
・帝王切開率とか吸引分娩率のデータを公表しない。
・メリットばかり挙げてリスクの説明をしない。
※最近、完全無痛という言葉もよく耳にしますが、医学的に完全無痛分娩という言葉は存在しません。医療に関わる人ならだれでも知っていることですが、完全とか絶対とかいう言葉は安易に用いるべきではないと思います。完全に痛みをとろうとするほど濃度の濃い麻酔薬、大量の麻酔薬を必要とすることになりますが、その分副作用も出やすくなります。患者さんの満足度は上がるかもしれませんが、実は危険と隣り合わせなのかもしれません。
長くなりましたが、日本中のお母さんたちがどこでも幸せな無痛分娩ができるように願ってやみません。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます