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2012-02-24 18:12:19 | Life
帰り道。
運転に疲れたので、一服しようとコンビニに入った。

駐車場に身なりの汚いおじいさん一人。
そのおじいさんは小太りな自分の体ほどある大きな荷物を歩道に置いて、パンをかじっている。
ちょっと気になって観察してると、手に持った段ボール紙を頭上に掲げた。

…ヒッチハイカーだ…。
…しかも、行き先が僕とジャストミート。…

汚いし、臭そうだし、危なげだし…。
と、思ったら気になって気になって仕方なくなった。いろいろ、話しを聞きたくなった。勝手にその人が、風雪に抗って歩いているイメージを想像してしまった。

「おっちゃん、乗ってく?」
気が付いたら、僕はその人に声を掛けていた。
ハッチバックを開け、荷物が乗るように後部座席をずらし。荷物を持ち上げるのに、手を貸し。助手席のドアを開け、どこの誰だか分からないじいさんを招き入れていた。自分の行動に戸惑いながら。

「ありがとねぇ。ありがと。」
とおじいさんは、助かったぁと言うように、僕の隣に座った。
案の定、かすかなケモノ臭がする。

車が走り出すと、そのじいさん、まぁ喋るしゃべる。

聞けばヒッチハイクで日本横断の真っ最中とのこと。つまり北海道を出発して九州まで行って、四国を回って北海道へ戻っているところ。今回が二度目の旅らしい。

スゲー。

ここまでは、徳光で降ろしてもらってサービスエリアの風呂に入るつもりだったのに、ドライバーがそこを通り越してしまい、仕方無く富山で降ろしてもらったと言う経緯らしい。

旅の間の寝床は、主に道の駅やコインランドリーのベンチ。地べただけには寝たくないと言うポリシーあり。たまに声を掛けてくれた人が、泊めてくれた上に飯まで出してくれることもあると。

スゲー。

荷物は、主に寝袋。二重に重ねて有るから、かさが大きくなっている。あとは下着や着替え。意外だったのが、オーブンが入っていること。
「何で、オーブンなんですか!?」
と聞くと、
「だって、パンを焼いて食べんといかんし」
と、さらっと応えた。焼いて食べたいらしい。

電源は、寝床にしたところから調達。確かに、今や、どこにでもコンセントはある。
「ま、パン焼くくらい、いいっしょ」
と、汚い顔でじいさんは笑った。

風呂は、温泉や銭湯など活用して、洗濯はと聞くと
「コインランドリーでいつでも、洗えるっしょ」と。

意外と不自由はしないらしい。

一番の敵は、雨だと言う。
「足が、臭くなっちゃって、やだね~」
だって。雪は、屁でもないらしい。二重の寝袋で充分眠れると。

じゃ、お金は?と聞くと、時々バイトをして稼ぐと言う。どこにでも「そう言うヒト」に声を掛けて、バイトを紹介してくれる人が居るのだとか。
但し、外国人に乗せてもらってお礼に仕事を手伝って、お金を差し出されても、外国人からは一切
「お互い様だ。ボランティアだ。」
と言って受け取らないそうだ。ポリシー。

ただ、時々、如何わしい仕事の依頼も有るらしい。下ネタである。大概、裕福そうな男性から声を掛けられるのだが、そう言う類いも断固として受け入れない。
「こんなじいさんに、しゃぶってもらって、何が楽しい?」
とまた、汚い顔が笑った。

復路は、ここまで2ヶ月掛かったとのこと。従来は片道2ヶ月ほどで終えるんだと。今回は結構、のんびりした旅ですね。

因みに片道にかかる経費は、ざっと十万円くらいだとか。

目的地とした駅が近付いて来たので、最後に、
「一番良かったところは、どこでした?」
と聞いた。
「石川県だねぇ。」
って。僕が石川から来たのを知ったうえでのリップサービス(ここでこの言葉を使うのもビミョーだが…)かなとも思ったが理由を聞くと、
「食べ物が旨い!」
と。
「なるほど~、石川県にも色々、名物がありますもんね~」
と返すと
「違うっ!」
と。
「石川の人は、気軽に私みたい者に声を掛けてくれて、泊めてくれる。
で、出てくるメシが旨い!俺が来たから、特別作ったものではなく、余りものとかを食べさせてくれるのだが、それが旨い!あいつら、良いもの、食ってる。さすが、前田藩。」
と、称賛。

…そこ~?…

「それに引き換え…」
と、少し語気を強めて続ける。
「富山では、ろくなものを食ってない。美味しいものがない。
魚が旨いのに、回転で漬け物や天ぷら載せたものを出してやがる。
ブラックラーメンって言うの?塩辛い上に、勝手にコショウかけて客に出しやがる。コショウかけるのは、客のほうでしょ?
スープもイカ墨の色かと思ったら、醤油かよ!身体に良くないだろ!イカ墨は身体にいいんだぞお!
警官多くて、寝床の確保もできないし!」

……ごもっとも。本音だ。リップサービスではなく。……

駅に到着。
おじいさんのお陰で退屈な運転が楽しいものになった。

「この先、どうするの?」
と聞くと、
「本当はインターまで行きたかったんだぁ。」
て、なんせ富山は早く脱出したいらしい。

車を停めると
「ありがと~。」
と、荷物を担いで颯爽と歩いて行った。獣臭をのこして。(写真)


「どうだ、何にも持ってない俺でも、ちゃんと生きてるだろう!
何とか、なるもんだ!
俺を見ろ!」
と、汚いじいさんに励まされたような気がする。
少し、元気をもらった。

今日は、良い拾い物をしたな。


その後、窓を全開にして走ったことは、言うまでもない。

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1 コメント

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Unknown (かめ男)
2012-02-27 08:59:10
しかし、よく乗せたなぁ~

スゲーと思ったのはこのおっさんじゃなくて、泊めた人や乗せた人。
スゲーわ

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