1日、1日を大切に生きる水仙の便り

卵管がんの闘病日記
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リンパ浮腫について(朝日新聞掲載)

2008-09-03 00:04:53 | 卵管癌の闘病記
2008年9月2日
朝日新聞掲載のリンパ浮腫について抜粋添付します

リンパ腫を正しく知ろう

 乳がんや子宮・卵巣がん、前立腺がんなどの手術後、患者さんの生活に大きな支障を及ぼすのがリンパ浮腫です。乳がんでは手術した側の腕に生じますが、子宮がんのような下腹部の手術では脚が腫れます。その2、3割は両脚に生じています。

 日本乳癌学会助成の全国調査では、乳がん手術でわきの下のリンパ節を切除した618例中、6割近い355例に浮腫(左右の腕に1センチ以上の差が出るケース)が見られました。この基準を当てはめると脚も、かなりの発症率になるでしょう。

 しかし、患者さん自身がリンパ浮腫のリスクを正しく認識して早期に気づき、「弾性着衣」という医療用サポーターなどで適切な治療を始めれば重症化を防げます。調査と同じ基準で調べた当院の浮腫発症率は81例中11例でした。単純比較はできませんが、徹底した予防教育は浮腫の発症や重症化をコントロールできると考えています。

 指導で、一番のポイントは、左右差ではなく手術の前後で比べること。手術前に手のひら、手首、ひじの上・下部の決まった部位(脚は、足の甲、足首、ひざの上・下部、脚の付け根)の太さを測っておき、術後も同じ部位を定期的に測ります。同じ部位が術前より1センチ増えたら要注意です。さらに増えるようなら治療を始めましょう。

 がん治療の代償とはいえ、発症すればその後の人生にずっと影響しますので、リンパ浮腫に関する知識は非常に大切です。今春、弾性着衣に医療保険が適用されました。

●病気の後、頑張りすぎないこと

 リンパ浮腫の予防や、腫れてきた際の症状のコントロールには家族の理解と協力が欠かせません。
 リンパ浮腫の予防には、例えば、乳がんを手術した患者さんなら腕を局所的に圧迫しないことが大切です。元気になったお母さんが例えば買い物に行き、食料品をいっぱい入れたレジ袋をひじにかけたり手に提げると、一部分がとても強く圧迫されることになります。血圧を測ったり採血時に腕を駆血帯で絞めるのも好ましくありません。

 実生活では、どんなことで圧迫につながるのか、気づかないこともあります。腕枕も腕を圧迫します。子宮がんや卵巣がんを手術した患者さんなら正座をするのも良くありません。長い立ち仕事も避けなければいけません。

 病気から回復するとつい頑張りすぎてしまいます。家族も病気になる前と同様に接してしまこともあるでしょう。実は、そういったことが大敵なのです。本人が知らず知らずのうちに無理をしているようなら家族が早く気づいてあげる。日々のスキンケアも欠かせません。そうした積み重ねが、リンパ浮腫の予防には大切なのです。

 なぜ、リンパ浮腫が起きるのでしょうか。リンパ管は、体の様々な組織から老廃物などを回収する役目を担っています。乳がんや子宮がんなどの手術でリンパ節も一緒に摘出すると、そのリンパ管が障害され、腕や脚に老廃物やリンパ液がたまって腫れてしまうのです。

●リンパ腫への知識は、手術前から

 手術前から予防教育は始まります。まず手術前に左右の腕や脚のサイズを測って記録しておいてもらいます。手術後のサイズの変化を知るには欠かせない数字です。手術後に左右の差を測ることも考えられますが、そもそも生理的な左右差がどれくらいあったのかを知っておかなければ「腫れ」が分からないし、脚のように左右とも腫れてきた場合には左右差をみても役に立ちません。

 リンパ浮腫はいつ起きるのか、分かりません。全国調査では発症時期の平均が41.6カ月でした。もちろん起きない人も少なくありませんが、リンパ節を切除しているので起きる可能性があることには違いはありません。

 でも手術前にいくら詳しく説明しても、患者さんの意識は目の前に迫った手術に向いています。質問は手術のこと、抗がん剤のことなどが中心で、後遺症にはあまり思いが及ばないものなのです。

 手術が終わると、大きな不安が一つ、消えます。そこでもう一度、リンパ浮腫について詳しく話します。あまり覚えていないとはいえ、聞いたことがあるので、たいてい理解が深まります。

 私は、患者さんに「1センチ、増えていれば相談してね」と言っています。5ミリだと、測り方も影響するので測り直してもらいますが、ふつうは様子をみるようにし、1センチを目安にして弾力性のあるスリーブ(袖)による治療を検討します。それも日常的につけるのではなく、何か作業をする時にはつける、といったように負担を考えて付け方を工夫します。2センチ以上増えたらすぐ治療を始めます。

 それと、実は、腫れているのに、それに気づいていない人もかなりいるのです。私たちの研究班の調査では、リンパ浮腫があったと医師が判断した393人のうち、自覚症状のなかった人は172人、43.8%にのぼりました。うち44人は2センチ以上腫れていたのに、です。

 腫れに気づかないと当然のことながら治療が遅れます。腫れが治まったとしても、時間が長くかかります。

 手術時にリンパ節への転移の有無を探るセンチネルリンパ節生検という方法が広がっています。リンパ節を摘出するのはがんの転移を防ぐ目的です。がんができた場所から最初に転移するリンパ節をいくつかとって詳しく調べ、がんが見つからなければリンパ節を摘出しない、がんが見つかれば摘出する、がん転移の「見張り」にするのです。

 このセンチネルリンパ節生検でリンパ節を全部摘出するケースが減り、患者さんの体への負担が少なくなったばかりでなく、リンパ浮腫も減ると思われました。ところが、この生検だけをしてリンパ節の全摘をしなかった106人のうち35人にリンパ浮腫が起きていたことが全国調査で分かりました。

 最初に転移するリンパ節を探す過程でリンパ管を傷つけている場合もあり、センチネルリンパ節生検だからリンパ浮腫が起きない、と考えるのは間違いでしょう。

●気を付けなければならない感染症

 それと、リンパ浮腫で気をつけなければいけないのが、蜂窩織炎(ほうかしきえん)という感染症です。水虫、虫刺され、傷などをきっかけに起きる可能性があります。虫刺されなどをきっかけにリンパ浮腫ができることもあります。リンパ浮腫が起きている場所はたんぱく質が豊富なので細菌が繁殖しやすく、重症化する傾向があるので、まずこの治療を優先しなければいけません。

 治療はもちろん重要なことですが、がんは治療をすれば終わり、という病気ではありません。治療後の生活ぶりが患者さんの生活の質(QOL)に大きく影響してきます。