秀明記(syuumeiki)

着物デザイナーが日々感じたこと、
全国旅(催事)で出会った人たちとのエピソードなど・・・
つれずれなるままに。

悉皆はやっかい

2006年05月04日 09時44分26秒 | 着物話
今日は真面目にきもの創りのお話を。

悉皆は、「しっかい」と読んで、きもの創りには欠かせないセクションです。

今ではすっかり死語になつていますが、漱石の手紙など見ると
悉皆病気も回復いたしました。などとありますな。

言葉の意味はすべて、ことごとく、ということです。

京都(無論加賀にもあります)には悉皆屋という職業もあります。
いわば、きもの創りのデレクターといったところでしょうか。

表には出てこないので業界内でも、販売だけの関係者には知らぬ人も
いるかも。

私たち作家(あまりこの言葉は好きでないけど)にも筆一本で
修行をしてきた人間と、悉皆の経験のあるタイプと別れるみたいです。

どちらが良いのかは分かりませんが、草鞋を脱いだ工房によるでしょうな。

「まわり」といって、市内の下職さんのところを車で行き来するため
車の免許は不可欠です。とくに近頃では市外に仕事場を移すところが
多いものだから。

私はまわりの経験もあるので、下職さんの苦労はわずかながら理解
しているつもりですが、展示会などで大きな顔して「このきものは
ぜーんぶ、わしが作ったもんね」なんてふんぞり返ってるバカも
なかにはいます。(商売上、仕片ないときもありますが、性格だな)

私に渋札(反物に、どこの工房の作品か判別できるよう付けておく札、
蒸し屋さんなどには色々な工房の反物が集まりますもので)
の付け方から教えてくれたオジイサン(Nさん)、いまでも元気かな。

昔はNさんも祇園のお茶屋さん相手に、悉皆屋でかなりご活躍でしたが、
私と出会った頃は隠居の片手間、って感じでしたな。

そのNさんが言った「悉皆はやっかいやでぇ」という一言、今でも、
ふと、思い出します。

悉皆に興味のある人は舟橋聖一の「悉皆屋康吉」(文春文庫)など
お読みになるのも良いでしょう。ちょいと昔の話ですから今の悉皆屋
とは少し違っていますが。

今日は少しお堅い話で、仙人殿お許しくだされ。
やっぴーさんも心配してくれてありがとう。