鬼一法眼は実在した?!

「鬼一とは誰か?」という○△さんのご指摘面白いです。というのは、これまで一般的に「鬼一」という人物は、義経記に登場する創作された人物と見なされてきましたが、あなたのご質問で、「まてよ」と思ったのです。もしかすると実在した人物であるかもしれません。

「義経記」の鬼一法眼の記述のお陰で、後にさまざまな伝説が作られました。現在、鞍馬山の山門を登るとすぐに小さな放生池の先に「鬼一法眼社」があります。また貴船口駅の近くには「鬼一法眼之古跡」と言われる碑があり、この辺りに法眼の墓所があったと伝えられています。これなどは、義経記の影響下で生まれた観光名所のひとつに過ぎないのでしょうか。それとはまったく違う次元で、鬼一に比定される人物がいるかもしれません。

鬼一法眼という名から、僧侶だったとも見受けられます。「法眼和尚位」という僧の位があるそうですから、実在の人物の名を憚(はばか)って、「鬼一」という珍妙な名を付けて、差し障りのある真実を覆い隠すと同時に話を面白くするために、怪物のような人物に仕立て上げたのかもしれません。

義経記によれば、鬼一は、一条堀川の辺りに住んでいたといいますから、どの辺でしょうか。かなり昔の御所に近いところに居たようです。すると金売吉次邸跡と言われる首途八幡神社や清明神社ともそう遠くない位置になるかもしれません。鬼一という名はとてもおどろおどろしくて、とても普通の人物には見えませんから、やはり陰陽道のような術を修した怪人物だった可能性もあります。義経記で、一度奥州に下った義経は、中国から伝わった天下の兵法書「六韜三略」(りくとうさんりゃく)を学ぼうとやってきます。何しろ、この書は、坂上田村麻呂が愛読し、奥州の悪路王と呼ばれた人物を倒し、平将門もこの書によって、分身の術を体得したと言われる珍本です。今日にもこの書は伝わっていますが、内容から云えば、「孫子」に比べれば、遙かに及ばないもので、どっちかと言えば、政治を司るための指南書の趣がある本です。しかし物語は、面白くなければなりません。この兵法の虎の巻というテキストを読み込んで義経のおよそ信じられない兵法が生まれたということに作者はしたかったのでしょう。

鬼一の屋敷の景観と人となりを義経記はこのように描写しています。

「京の市内であるのに住まいをガッチリと固めて、四方に堀を廻らし水を張って、八の櫓(やぐら)を築いていた。夕方には四時頃から六時頃には、渡していた橋を外し、朝には十時か十二時頃まで門を開かず、人の言ふ事など、まったく意に返さない贅沢で華美な人物だった」(現代語訳は佐藤)

相当な贅沢振りです。そして変人でワルの臭いがします。弟子たちも相当居る。義経は、このワルに正面から、本を写させて欲しいと頼み込むが、あっさりと断られてしまう。そこで義経は考えます。どうしてもぐり込むかというと、幸寿前(こうじゅのまえ)というこの家に仕えている若い女性と仲よくなって、居着いてしまう。そして鬼一に姫がいることを聞き出し、この姫に近づき、あっさりとこの本十六巻夏から秋に三ヶ月ばかりかけて写し、内容もすっかり把握してしまいます。

さてこの書「六韜三略」ですが、偽書と言われているものの、「日本国見在書目録」(藤原佐世編纂897年)という日本最古の輸入漢籍の目録にも掲載されているようです。この実はこの書をあの「玉葉」という日記を書いたことで知られる九条兼実(藤原)が治承五年(1181)に正装姿で閲覧したと記されています。これを所有していたのが中原師景という人物です。兼実は、この書が日本に渡ってきた経緯についても推理しているようですが、いずれにしても、当時この書の神通力たるや大変なものがあったと思われます。内容を知れば、当たり前のことを記しているだけで、たいしたことはないのですが、世に幻の兵法書と喧伝されていただけに、人々はその魔法に罹っていたのかもしれません。

そこで、私はひとつの推理として、この中原師景という人物を仮想の「鬼一法眼」として研究してみてはどうかと思うのです。彼の出自や住まい、親戚縁者、義経記にも色々と示唆にみえる部分もありますから、当たってみてはどうかと思っています。もしかしたら本物の鬼一法眼が見つかるかもしれません。もちろん他にも鬼一と考えられる人物はいるかもしれません。どなたか、研究してみませんか?
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鬼一法眼の伝説地 (ぼんやり)
2005-01-31 16:49:41
鬼一法眼の京都の伝説地の写真をエントリーしましたので、トラバさせていただきました。

ご覧下さいませ。

わたしは陰陽師というキーワードでいずれ考察してエントリーを書こうと考えています。
 
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鬼一法眼の伝説地 (平家物語)
NHK大河ドラマ「義経」で鬼一法眼を美輪明宏さんが演じています。 その謎めいた魅