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青年僧が挑んだ千日回峰行・三・

              ◎命の危険と背中合わせの回峰行

――行の内容はどんなものでしょうか?

塩沼:隔夜の行を経て、一日で往復するようになりますと、朝は真夜中の午前零時前には起床し、先ずお滝を浴びます。行の始まる五月初めですと、三度、四度という気温の所での滝行です。

滝から上がると鈴懸けというものを身に付けて山伏の姿になります。
時間もありませんので、ここまでに、前の日に握っておいた小さいおにぎりを二つ食べ、蔵王堂を出発するのが零時三十分過ぎ、真っ暗な中を提灯一つで四キロほど登って行くと、金峰神社がございます。

そこからは山道に分け入り、獣道みたいな道をただひたすらに真っ暗い中をチリンチリンチリン熊除(よ)けの鈴を鳴らしながら行きます。

夜明けの午前五時ぐらいまでは山の西側を通って居りますので、非常に暗く、斜面もきつく、足を十センチも踏み外すだけで転落の危険がある場所が続きます。

夏になってきますとマムシもちょろちょろしておりますし、猪が出没したり、危険は沢山あります。

百丁茶屋跡というところで夜明けを向かえ、朝ごはんを頂きます。
ここが丁度中間地点でここから「山上ヶ岳」という更に危険な山に入っていくわけです。

大峯山と吉野の間には、谷に橋を掛け渡した危険な場所が何十か所もあります。橋と言っても、十センチぐらいの丸太を三本ぽんぽんとかけてあるだけで、真ん中に行くとぐらぐらと揺れますし、雨が降ったら滑りやすいので、慎重になおかつすばやく渡っていきます。

山頂近くなりますと、垂直に近い鎖場があったりしますが、そういうところをよじ登りながら、朝の八時半ぐらいに、ようやく大峯山の山頂に到着いたします。そこからまた吉野山を抜けて下ってくる訳です。

往復四十八キロ、食べるのはおにぎりだけですから、栄養失調状態になり、行が始まって一ヶ月ぐらいすると爪がぼろぼろ割れてきたり、
二、三ヶ月すると血尿が出ました。体力の限界に追い込まれた中での行になります。

――もうやめようか、という気は起きないんですね?

塩沼:はい。行者というのは追い込まれれば追いこまれるほど楽しくなってくるんです。身をかばうと、かえって精神的に参っていきます。
『自分なら出来る』と自分自身を信じて困難を乗り越えるのです。

◎ 万が一、途中で行をやめるような事があったら、腰に巻いてある紐で首を吊(つ)るか、腰に差してある短刀で自分の腹を切り、死して行が終わるという定めです。

吉野ではまだ聞いたことはありませんが比叡山の方では,実際に亡くなった方もおられると聞いております。・・・続く

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