ぼくらの日記絵・絵心伝心 

日々の出来事や心境を絵日記風に伝えるジャーナリズム。下手な絵を媒介に、落ち着いて、考え、語ることが目的です。

人間を初期化するということ

2018年03月07日 | 日記

 ボランティア先の花もも

 羽生善治棋士と山中伸弥博士の対談「人間の未来 AIの未来」講談社、2018/2/13発行が興味深く、大いに蒙を開かれたので紹介します。
 羽生善治さんは先般永世7冠を獲得し囲碁の井山さんと共に国民栄誉賞を授与された将棋の達人だ。囲碁、将棋は近年コンピュータの開発が進んで、人間の力量を凌駕するに至っている。羽生さんはそんなAIの進展の渦中の中にあって、AIの仕組みなどに積極的に関わり、業界の最先端の人たちへの取材を試み知見を広めている。将棋だけでなく社会の最先端の分野に理解を深めている才人だ。そんな知見の広い人が、ノーベル生理学・医学賞を受賞した山中さんに研究方法について質問する。また逆に山中さんから羽生さんに将棋の思考過程や判断の仕方などが質問される。
 どのページからも頷ける応答を読めるのだが、その中で私が特に印象に残ったのが人間の初期化ということ。
 山中博士が発見したのはIPS細胞。誰でも知っているが、その中身は新聞などの解説記事からだけでは何が何やらわからない。それを羽生さんはすぐに察して、「人間の初期化ですよね」と応じる。 
 私、ええーっと、と思う。しかし山中博士の説明を聞くうちに、それが何という明快な理解なのか!
 山中さん達の成果は、ES細胞の機能をIPS細胞で実現したということ。といっても良く解らないが、ES細胞というのは受精卵のこと。同じ受精卵なら、まったく同じものを再生できる。具体的にいうと、羊のドリーというのが生まれたが、これは同じ細胞によって全く同じ動物を再生したということ、つまりコビーである。すべての動物は単一の受精卵に保存されたDNPによって、臓器や皮膚などすべてのものが増殖されるということを証明したものである。この実験は、倫理的に問題があるとされ、現在では医学界で抑制されている。
 IPS細胞は、これに対し、皮膚の細胞からES細胞と同じ再生細胞を作ることができることを証明したものである。たとえば心臓の病を持った人の皮膚細胞から心臓を再生する機能をもった細胞を作り、これを心臓に移植することによって心臓を回復し疾患を修復するということ。つまり受精卵経由でないことが宇宙的ビッグな発見なのである。羽生さんはこれを人間の初期化だと、言ったのです。
 皮膚や臓器、骨格、これらは単一の受精卵から分裂して展開していったもの。だから皮膚や臓器の細胞の発展過程を逆戻りさせ、元に戻せすことができないのか。つまりコンピュータ用語でいう初期化が動物で可能なのではないか、ということなのである。
 現代の最先端科学・技術は、ほとんどSF的な段階に到達している。そうした状況を私たちは全く想像だにできずにいるのだが、誰かしらそうした状況の案内者・コミュニケーターがいることが切実のように思える。この本では羽生さんがその役割を見事に果たしているようにおもえる。【彬】

 

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