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戦略的赤字とは? ~人口減少を食い止める施策~

2009-07-11 13:18:15 | アプライド・ファイナンス
よく「この事業は赤字だが戦略的に重要なので、是非実施したい」という話を聞く。一般的にはこの様な案件を戦略的赤字案件と呼ぶが、何故事業が赤字なのに実施しなくてはいけないのだろう。

プロジェクトAの現在価値は、この事業から生み出されるCFのNPV(A)であり、赤字ということは NPV(A)<0 ということだ。何故赤字なのに実施しなければならない?この謎を解く鍵がリアルオプション理論である。
例えば、プロジェクトAを実施すると、5年後にプロジェクトBへの展開が開けるとする。プロジェクトAを実施しない場合には、プロジェクトBも存在しない。

5年後に展開が開けるプロジェクトBは、1から3の可能性があり、それぞれの価値(5年後現在)は20億円、10億円、5億円とする。
また、それぞれが成立する確率は
25%、50%、25%

とする。これらのプロジェクトのリスクに見合った割引率は5%と仮定する。



プロジェクトAの現在価値は5億円のマイナスであるが、5年後に展開が開けるプロジェクトB1、B2、B3の現在価値(5年後現在)は、それぞれの現在価値に発生確率をかけて合算した11.3億円となる。

この11.3億円は5年後の現在価値であるので、これを現在に割り引くと8.8億円(11.3/(1+5%)^5)の現在価値となる。

この場合、NPV(A)=-5億円と赤字であるが、NPV(A)+NPV(B1+B2+B3) =3.8 億円 と黒字となる。つまり、プロジェクトAそのものは赤字事業であるが、その事業を実施することによってプロジェクトBへの展開を得られ、これらの「全てのプロジェクトを含めた全体としての価値」はプラスとなり、企業価値を増加させることとなる。これが戦略的赤字の意味である。

さて、NPV(結婚)<0であっても、NPV(結婚)+NPV(子供)>0 となる可能性が高いことから、人はリスクが高く破綻するかもしれない結婚という事業に乗り出す。

人はやはり「結婚という戦略的赤字事業」の真の意味を本能的に理解しており、これが「ホモ・サピエンス」(知恵を持った動物)と言われるゆえんであろう。

ただ、知恵がありすぎるとリスクを過大評価し、なかなか結婚には踏み切れないが、最終的には、子孫を残したいと言う本能に揺さぶられて人は結婚という赤字事業に乗り出す。

日本の人口はこのままだと大きく減少していくことが確実であるが、日本人はリスクを過大評価し過ぎるのであろうか?

人口の減少を食い止めるためにはリアルオプションを含めた全体としてのNPV(結婚+子供)がプラスになるような施策が必要だ。

「NPV(結婚)のマイナス幅を大きく引き下げること」は難しいが、
「NPV(子供)のプラス幅を引き上げること」は可能だ。

多くの西欧諸国が各種の施策によって出生率の低下を食い止めていることからも実現性は高い。日本経済を再活性化していくためにも、政府による実効のある長期的かつ一貫性をもった総合的な施策が望まれよう。

日本で社会保障財源の配分先で圧倒的なヴォリュームを占めるのが高齢者向けの施策だ。高齢者の「過保護」をなくし、子供も含めた若年者保護への施策に振り向けない限り、日本経済の長期的な没落は避けられない。しかし人口構成で高齢者が増加の一途をたどる現在では、クレクレ詐欺 の老人たちが過保護を自発的に返上することはありえない。社会保障の問題を考えると日本は終わった・・・と結論付けるしかない。

生産性が圧倒的に低く、マクロ・イノベーションへの貢献もわずかしかない、土建業者へのキャッシュ投入も思いっきり削減すべきだ、それは税金の無駄遣いのみならず、イノベーションを担う人材の死蔵にもつながる。

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