スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

SAAB・サーブの暗い将来(3)-わずかな希望

2009-02-22 07:46:54 | スウェーデン・その他の経済
金曜日の朝、Saab Automobileの経営陣は地方裁判所に会社更生手続きの申請を行った。事実上の経営破綻だ。しかし、倒産や工場閉鎖、といった選択肢も考慮に入れながら、敢えて経営再建という道を選ぶことで、「生き残りを賭けた最後の戦い」に挑むことにしたのだ。

土曜日の日刊紙各紙の経済面の第一面は、記者会見に挑むSaab(サーブ)のCEO、Jan-Åke Jonsson(ヤン=オーケ・ヨンソン)。この記者会見はSAABの本拠地トロルヘッタン(Trollhättan)のSAAB博物館で開かれた。彼の表情は険しいながらも、どこかしら安堵感が感じられる。


見出し:『最後のチャンス』



見出し:『彼はまだ諦めない』


地方裁判所に提出された申請書は「SAABは債務返済が不能になり、会社更生の手続きに移ることを地裁に申請する。」と始まる。そして、SAABが抱える問題は、不況による需要の減退に加え、SAABのモデルが古く、種類が少なく、生産能力が過剰で(稼働率50%)、収益性が悪く、他社との競争力に欠いている点だ、と自ら指摘する。

しかし、それを踏まえたうえで、

- 年内にGMから完全に分離し、独立した企業となるため、サーブ車の生産や研究・開発をすべてスウェーデン国内に戻す。
- 既に商品化の見通しが立っている9-3モデル、9-4モデル、9-5モデルの新型バージョンを、従来の計画のドイツ・ルッセルスハイム工場ではなく、トロルヘッタン工場で行う。
- 2011年までに収益性を回復させる。
- 評判の良かったBioPowerエンジン(エタノール用エンジン)のような、新たな技術開発に力を注ぎ、市場に送り込む。
- 「安全性」・「燃費の良さ」・「ガソリン・軽油以外の燃料」をSAABのプロフィールとしながら、新しいモデルを開発する。
- 業務活動を削減し、限られた分野に集中させる。

と、明るい未来を描こうと努力している。

労働組合も「この計画がうまく行けば、人員削減よりもむしろ新たな雇用が必要となるかもしれない」と、かなり楽観視したコメントを述べている。

経営再建のための費用として、GMが資金を拠出することを約束している。また、スウェーデン政府が昨年末に自動車業界に対する支援策として発表した「救済ローン」や「信用保証」などによる資金調達も可能になるようだ。

しかし!

専門家によると、「会社更生手続き」で経営再建を試みた過去の例を見てみると、7割のケースが失敗に終わり、結局、倒産に追い込まれたという。

「会社更生手続き」では、裁判所が指名した管財人のもとで通常3週間以内に再建プログラムが作成されるが、SAABの場合、GMグループに大きく統合されており、分離化計画を策定するのが容易ではないため、特別に6週間という時間を与えられている。4月6日に債権者会議が開かれ、ここで債権者の合意を取り付けられれば、再建プログラムを実行することになるし、それに失敗すれば倒産という道を歩むことになる。

二つの大きな難題は、
- 新たな所有者を見つけること
- 返済不能に陥った債権の部分的帳消しを、債権者に認めさせること。(債権者の数は1300に及ぶ。このうちの4割がOKと言わなければならない)

この難関を乗り越えて、2011年までに収益性を回復させる・・・。そう簡単なことではない。かなりのリストラが必要となる、と見られている。
――――――


日刊紙Dagens Nyheter自動車関連の解説者(上の写真)は、記者会見で健気に頑張るCEO、Jan-Åke Jonsson(ヤン=オーケ・ヨンソン)について、

これでもか、と言うくらいボコボコに殴られながら、それでもギブアップせず、耐え続けるCEOが他にいただろうか。GMからもスウェーデン政府からも見放され、経常収支は連年、赤字続きで、そして今、経営再建を迫られるに至った。この厳しい状況を目の前にヨンソン氏はこう言ったのだ。『さあ、これからSAAB Automobileを独立企業として再出発させていこう!そして、2年後には黒字を実現しよう!』こんな強い精神を持ったCEOは他にはいない。」

と驚きとともに讃えている。しかし、そんな彼も、一昨年と昨年の赤字がそれぞれ30億クローナ、そして2002年から2006年までの赤字総額が180億クローナのSAABが生き残るのは、かなり難しいだろう、と述べている。「新たなモデルの開発、提携できるパートナーを手に入れること、資金・・・。難題はありすぎる。」

そして、SAABの経営陣がSAABのモデルの数を増やしていこうと、新たな経営改革に乗り出した矢先にこのような事態になってしまったことを嘆きながら、
Det är som att snubbla på mållinjen i tidernas maratonlopp.」(まるで長い道のりを走り抜けてきたマラソンランナーが、ゴールの直前で足を挫いてしまったようなものだ。
とまとめている。

このブログ記事を書きながら、1ヶ月前にこんな見出しを新聞で目にしたのを思い出した。


『SAAB ― 9つの命を持つ(不死身の)乗用車ブランド』(2009年1月20日付 DN)

アメリカ政府とGMとスウェーデン政府の間で、協議が行われていた最中の書かれた記事だ。これによると、SAABはこれまでも様々な難局に直面しながらも生き延びてきたらしい。わずかの可能性ではあるが、今回ももしかしたら生き延びるかもしれない。

――――――
「会社更生手続き」に入ったことで、SAABの従業員の給料は、再建プログラムが完成するまでの期間は国が肩代わりすることになる。また、今後、解雇が行われる場合にも、通告日から実際の解雇までの猶予期間の給与は国が負担することになる。(Statlig lönegaranti「国による給与保証」と呼ばれる

また、自動車部品をSAABに納めている下請企業は、SAABからの支払いが滞ることを恐れて、納入を木曜日からストップしていたが、GM側が「支払いは自分たちが保証する」と発表したために、再び納入が行われるようになり、SAABでは来週から生産活動が再開されるようだ。

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6 コメント

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SAAB (おじぃ)
2009-02-22 18:28:59
よしさん

金曜日、午後2時半からの記者会見を会社のテレビで見ていましたが、当然意味はわかりませんでした。
会社のスウェーデン人に聞いても「まだ倒産したわけではない」と言うだけで、細かいところはよしさんのブログだけがたよりでした。
電話でよしさんに最新情報を確認しようと思った矢先にブログが更新されていました。
ありがとうございます。
話し変わって、最近3週連続でスキーに行きました。今年の冬は冬らしい天気ですね。
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Unknown (Yoshi)
2009-02-24 09:02:47
私ももうすぐスキーに行ってきます。
今度、自動車関連企業の現状について、また話を聞かせてください。連絡します。
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Unknown (H.Usui)
2009-02-24 21:02:03
これまで良く生き残ってきたもんだと敬意を表するけど、GMが買わなかったらもっと早く表面化したのでは。GMは名声とコンパクトカーの技術力に期待したのだろうけど、図体が大きくてうまく使えなかったね。今のVolvo、SAABにしても高級車扱いだけど自動車工学からみれば何の魅力もない車だ。先のモデルチェンジで質を落としたからね。日本車には敵わない。買うならホンダですよ。世界で一人勝ちでしょ。
SAABは子供の時から憧れの車だった、航空工学を取り入れた最初のくるまだったからだ。日本に入ってきた時は高くて買えなかった。そして
買える様になった時はGMに売られて時計が止まったままになった。これでは玄人筋は付いて来ない。今時ガソリン車ではない、スウェーデンの誇る電気工学で行かなくては。
それにしてもトロルヘッタンは産業革命以来工業都市として二度目の革新を強いられるのですね。ヨータ運河があるからなんでしょうね、重工業が続くのは、一度目はNOHAB社の解消、SL,DLのメーカーとして欧州中に売りまくっていた時代があったのですね。GMのDLライセンス生産して輸出したのです。それども駄目で閉鎖。そしてSAAB社の工場建設、Googleから見ると新しい工場ですね。Volvoの工場見学しましたけどきれいですね。この次は電気自動車ではないかと思うけど楽しては成功はおぼつかない。先行投資がどの程度なされていたのか、韓国あたりに抜かれますよ。
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安全性・・ (Ss)
2009-02-25 05:31:50
・・・・ホンダでアウトバーンは走りたくないと思うのは私だけでしょうか?
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Unknown (Yoshi)
2009-02-27 09:05:31
Usuiさま

長らくご無沙汰しておりました。
年始に郵便物をいただいておりましたのに、メールアドレスを探してから、と思い、ずるずると時間が経ってしまいました。

今年はスウェーデンのご予定でもありますか?
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なるほど (通りすがり)
2009-03-09 09:36:50
ブログ拝見しました。力作に拍手。

世の中には、他とは違うものや、どこか変なものを好む人種が何%か含まれていて、そう言う人たちにSAABなんかはオオウケなわけです。

大事なことは、性能ではなく、エンブレムだったり、独特なデザイン。

他と違えば違うほどよいのです。

SAABは、GM傘下になって、独特の味わいを失ってきました。

再建できるかどうかは、その独自性を押し出せるか否かにかかっているでしょう。
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