スウェーデンの今
スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員
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チェルノブイリ事故後にスウェーデンが取った汚染対策(その1)
コラム
/
2011-04-19 22:03:53
1986年のチェルノブイリ原発事故
によって放出された放射能は、風に乗ってまずスウェーデン上空へ流れてきた。その時に運悪く
雨が降っていた地域
では、雨に混じって放射能が降下し、土壌を汚染することになった。今回と次回は、
畜産業・農業における汚染対策
について。
<これまでの記事>
2011-04-02: 発生から2日後に発覚したチェルノブイリ原発事故
2011-04-06: チェルノブイリ原発事故のあとのスウェーデン
2011-04-10: チェルノブイリ事故の際のスウェーデンにおける外部被曝
事故直後に降り注いだ雨によって、スウェーデンの一部の地域では
農地や牧草、飼料
が汚染された。何も対策を施さなければ、それを食べた家畜の肉や牛乳が汚染され、それがそのまま店頭に並ぶ恐れもあった。だから、迅速な対策が求められた。しかし、当時は原発事故による農業汚染への対策が不十分で、関係者や専門家も戸惑い、時として相反するアドバイスがなされるなど混乱もあった。
【畜産農家は・・・?】
チェルノブイリ事故(4月26日)による放射能汚染がスウェーデンで発覚した
4月28日から5月初め
にかけての最初の懸念は、冬のあいだ屋内で飼っていた
家畜を外の牧草地に出してもよいか
どうか、ということだった。
事故直後の時点ではまだ国内各地の汚染の程度が分からなかったため、
スウェーデン放射能防護庁
は
家畜を外に出さないように
と全国の農家に通達した。汚染された牧草を食べることによって家畜の肉が汚染されたり、特に
牛乳が放射能に汚染される
ことを恐れてであった。
その後、放射性物質が舞い落ちた程度と分布が分かると、
家畜の放牧禁止令
は
汚染がひどかった地域のみ
で維持された。ここでは次第に、各農家が前年から用意していた
干草が底をつく
ようになったため、
汚染されていない干草が全国各地から農業組合を通じて5月から6月にかけてこの地域に運搬された
。しかし、それでも700ほどの農家では干草の供給が不十分だったため、農家はやむなく家畜を外に出して、牧草地に生えている牧草を食べさせるという決断を行ってしまった。
一方、
乳業業界は許容できる放射性セシウムの含有量を厳しく設定していた(30ベクレル/kg)
ため、放牧させてしまった酪農農家は
牛乳
を買い取ってもらえず、その処分に困った。一つの処分法は、
ミネラルの多い土壌からなる農地に撒いて廃棄
することだった。放射線防護庁によると、セシウムはミネラルに吸着しやすいため、植物によるセシウムの吸収を抑えることができるためだという。
(注:スウェーデン政府(放射線防護庁と食品庁)は
一般の食料品の汚染上限を300ベクレル/kg
と定めたのに対し、
乳業業界
はそれよりもはるかに厳しい
30ベクレル/kg
という上限を設けていた)
農地に撒布される牛乳
さて、夏が終わり、
牧草の刈り入れ時期
が近づいてきた。
農務庁
が当初、酪農農家に送ったアドバイスは
「牧草を刈り、それを牧草地の外に運んで廃棄せよ」
というものだった。しかし、農家や農業組合はそれに異議を唱え、もっとよい方法があれば試したいと主張した。彼らが提案したのは、
牧草を高めに刈り取る
ことで、地表に残る腐りかけた前年の牧草や、土壌が、
刈り取った牧草に混入するのを防ぐ
ことだった。試してみると、放射能をたくさん含むこれらの異物の混入が少なくなり、
放射能汚染の度合いを抑えられる
ことが分かったため、農家はむしろこの方法を採用し、牧草を刈り取った。牧草のうち汚染の許容基準を満たしたものはその年の冬に干草として家畜に与えられたようだが、汚染がひどかった地域では牧草の大部分が廃棄され、他の地域からの供給に頼ることになった。
また、
食肉の汚染を防ぐ
ために、
屠殺の少なくとも数週間前からは汚染されていない飼料を与える
というアドバイスもなされた。さらに、飼料にはセシウムを吸着する添加物(
ベントナイト粘土
)を加え(体重1kgあたり0.5~2g)、
胃腸からセシウムが家畜の体内に取り込まれないようにする
などのアドバイスもあった。
<ベントナイト粘土の添加による効果>
家畜は上から順番に、
羊、豚、肉用鶏、卵用鶏(肉)、卵用鶏(卵)
この実験では、
羊
の飼料(干草)には
ベントナイト粘土を10%含有
させ、
豚や鶏
の飼料(穀類)には
ベントナイト粘土を5%含有
させて与えた場合に、肉や卵に含まれる
セシウムの量
がどれだけ変化するかを調べている。結果は右から2列目に、
utan=加えない場合
、
med=加えた場合
として示されている(単位は
ベクレル/kg
)。
これから分かるように、羊では86%、豚では65%減るのに対し、鶏では減少率が低くなることが分かる。
また、ここには示されていないものの、
乳牛
であればベントナイト粘土を飼料に加えることによって、牛乳に含まれるセシウムの量が最大80%減るという。
ベントナイト粘土のほかには、鉄の化合物である
プルシアンブルー
もセシウムの体内吸収を抑える効果があるとか。
<屠殺に先駆けて汚染のない飼料に切り替える>
上のグラフは、40日間飼育して屠殺した鶏の胸肉に含まれるセシウムの量を比較したもの
Ⅰ:放射性セシウムに汚染された飼料(セシウムの量は400ベクレル/kg、以下同様)に、ベントナイト粘土を添加(5%)して飼育中ずっと与えた。
Ⅱ:放射性セシウムに汚染された飼料に、ベントナイト粘土を添加せずに、飼育中ずっと与えた。
Ⅲ:飼育の最初のうちは汚染された飼料(ベントナイト粘土なし)を与えるものの、屠殺の5日前から汚染されていない飼料に切り替えた。
Ⅳ:飼育の最初のうちは汚染された飼料(ベントナイト粘土なし)を与えるものの、屠殺の10日前から汚染されていない飼料に切り替えた。
Ⅴ:飼育の最初のうちは汚染された飼料(ベントナイト粘土なし)を与えるものの、屠殺の15日前から汚染されていない飼料に切り替えた。
Ⅵ:飼育の最初のうちは汚染された飼料(ベントナイト粘土なし)を与えるものの、屠殺の20日前から汚染されていない飼料に切り替えた。
なるほど、汚染度に大きな違いが見られる。
※ ※ お知らせ ※ ※
以上の出典は、スウェーデンの防衛研究所・農業庁・食品庁・放射線安全庁・農業大学が共同で2002年に発表した報告書
『放射性物質が落下した場合の食品生産について』
からですが、この邦訳が2012年1月30日に
『スウェーデンは放射能汚染からどう社会を守っているのか』
というタイトルで発売されました。
スウェーデンの防衛研究所が農業庁やスウェーデン農業大学、食品庁、放射線安全庁と共同でまとめ、2002年に発行した「放射性物質が降下した際の食品生産について」という報告書の翻訳です。
チェルノブイリ原発事故のあとにスウェーデンが被った被害やその影響、農業・畜産分野で取られた対策や、放射能汚染を抑えるための実験、放射能に関する基礎知識、将来の事故に備えた災害対策の整備や、実際に事故が起きたときの対策の講じ方をまとめたものです。
詳しくは、
こちら
をご覧ください。
コメント (
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コメント
Unknown
(
terri
)
2011-04-20 13:19:15
原発の収束はまだ先のようですが、福島の土壌の洗浄は重要な課題です。
スウェーデンの経験に学ぶことは多いと思います。
Unknown
(
つつじ
)
2011-04-20 22:45:02
わかりやすい貴重な情報で、ありがたいです。
スウェーデンは信頼に足る情報がきちんと整理され、共有されていて、いつでも利用できるのですね。
でもほんとうに、福島原発事故は、いつどのように収束されるのか、拡散された放射能はどのような影響を与えるのか、不安だらけです。
Unknown
(
道産子
)
2011-04-23 23:04:51
日本の農水省は、放牧禁止令・新鮮牧草の給養禁止令等の酪農・畜産品の汚染防止処置命令を出していたのですかね。
チェルノブイリの教訓を生かせているとは、言えませんよ・・・
土壌汚染対策は色々あるみたいですね
(
moti
)
2011-04-24 10:52:36
産業用大麻、ヒマワリ、スギナ、ヨモギ、マコモ・EM菌・光合成細菌などが土壌改良に効果ありとしてネット上にも多数情報が上がっています。
日本でもウランは取れるんだから、何か効果を緩和するものが自然界にあると考えるのは無茶ではないと思います。
竹炭、ゼオライトも放射能に対する効能はあるのですが、薬事法に引っかかるので販売側は効能が書けないのだそうです。
一通り読んだところ、植物と菌を多孔質のものと一緒にしておくと放射能が変質・安定するような印象を受けました。
水の方は国内の逆浸透膜の会社が名乗りをあげておられるのですが、がなかなか採用されないようです。
ゼオライトもアメリカでは1960年代から研究されていて、ユッカマウンテンの鉱床もゼオライトですが、なかなか採用されませんでしたし。
では、長々と失礼いたしました!
今、とても必要な情報に感謝!
(
黒坂三和子
)
2011-04-24 12:47:32
今、最も必要な情報です。ありがとうございます。明日送付のJapan Report通信No.3<持続可能な未来に向けて>で紹介させていただきます。どのようにしたら、その通信を転送できますでしょうか。教えてくださいますか?
貴方のアドレスわかりました!
(
黒坂三和子
)
2011-04-24 12:50:44
プロフィールのところで、メイルアドレスを見つけましたので、明日、お送りできます!お騒がせしました!
参考になります。各方面に伝えます
(
saigaiyobou
)
2011-04-25 02:14:35
当然農林省もスウェーデン等北欧の被害について調査していると思いますが、最近の官僚は共通一次世代なので調べない可能性も有。副大臣篠原がNPOのなたねだけに感激するニュースや、鹿野大臣のコメ作禁止に納得がいきませんでした。水田を単に禁止して土壌を取り換える莫大なコストを東電の賠償=国民の税金で支払させようとするより、カドミウム米の事例から放射能も米が吸収するなら、この牧草に対する対処のような工夫がないかと思ってました。
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スウェーデンの経験に学ぶことは多いと思います。
スウェーデンは信頼に足る情報がきちんと整理され、共有されていて、いつでも利用できるのですね。
でもほんとうに、福島原発事故は、いつどのように収束されるのか、拡散された放射能はどのような影響を与えるのか、不安だらけです。
チェルノブイリの教訓を生かせているとは、言えませんよ・・・
日本でもウランは取れるんだから、何か効果を緩和するものが自然界にあると考えるのは無茶ではないと思います。
竹炭、ゼオライトも放射能に対する効能はあるのですが、薬事法に引っかかるので販売側は効能が書けないのだそうです。
一通り読んだところ、植物と菌を多孔質のものと一緒にしておくと放射能が変質・安定するような印象を受けました。
水の方は国内の逆浸透膜の会社が名乗りをあげておられるのですが、がなかなか採用されないようです。
ゼオライトもアメリカでは1960年代から研究されていて、ユッカマウンテンの鉱床もゼオライトですが、なかなか採用されませんでしたし。
では、長々と失礼いたしました!