スウェーデンの今
スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員
 



昨日紹介したスウェーデン・ラジオの男性記者Nils Hornerは普段はタイやインド、インドネシアなどアジアを幅広くカバーしている(ただし、中国は女性の別の特派員がカバーしているが、今回の震災では彼女も日本に派遣された)。

この男性記者は日本で大震災が起きたときにはクウェートにおり、そこから日本へ急行することになった。ついでなので、震災からちょうど1週間が経った頃のコラムも紹介したい。

※ ※ ※

緑茶で体や髪を洗うなんて、どこかのトレンディーな雑誌に新しい流行として紹介してもらえるかもしれない。でも、最高に気持ちがいいのだ。少なくとも日本の震災を取材し始めて3日目に体を初めて洗えた時にはね。最後にシャワーを浴びたのは、クウェートを発つ前だった。貴重な水やお茶を無駄にしてしまうのはもったいないけれど、仕方がない。

この日、福島市で見つけたホテルは水道が出なかった。そこで試しに緑茶(無糖に限る!)を使って体を洗ってみるとペットボトル5本分がちょうどいいことが分かった。最後に1リットルのEvian(ミネラルウォーター)で体をすすげば、立派に入浴完了というわけだ。ホテルの掃除の人は、翌朝に多数のペットボトルを見て「ここに泊まった外国人はよっぽど緑茶が好きなんだな」と感心したに違いない。

日本に到着して最初の夜は、バス停に併設する公衆トイレで夜を明かした。本当は東京から北へ80kmの所にある小さな町でホテルを探していたものの、停電や断水だったり、建物の安全性が保証できないということでどのホテルも断られた。そんな時に偶然出会ったブラジルのテレビチームが、この公衆トイレに案内してくれた。

ブラジル人のレポーターは到着するやいなや、トイレの便座に座りながら撮影した映像の編集を始めた。唯一のコンセントがその便座のすぐ傍にあったからだ。私を含め、その他の5、6人はトイレの床に寝そべることになった。バクテリア恐怖症の人でもトイレの床で違和感なく横になれる国なんて、清潔に常に気を遣っている日本の他にはないだろう。その晩は、トイレの中にも暖房が効いていた。外は零度を下回るくらいだったから、暖房をちゃんと付けておいてくれた管理人に本当に感謝したい。

2日目の晩は、そこからさらに北に行った沿岸部で取材をしていたが、成田に到着したときから私のアシスタントや車の運転をしてくれた日本人が、急遽東京へ戻ることになった。代わりのアシスタントは別の車で明日やって来るという。車がなければ車中泊もできない。そんな時、私がたどり着いたのは避難所として使われていた小学校の体育館だった。津波で家を失った人や福島原発の周辺に住む人たちが避難していた。

慣れないことだが、被災した人々と一緒に床で寝るというのは貴重な経験だ。ストックホルム本局のデスクが「周りの人たちにインタビューしてくれないか?」と要請してきたが、この状況でそれをしてはダメだと思い、断った。

この体育館に避難している人たちには子持ちの家族が多い。私のところにもちゃんと毛布があるかどうか、気を遣ってくれる。温かいおにぎりを3つも持ってきてくれた。スリッパまで私のために丁寧に用意してくれる(スリッパは日本の屋内では必需品!)。一晩中、トランジスターラジオが最新ニュースを伝えていた。大きな音量だったが、私の周りの人々はいびきをかいて寝ていた。ラジオが状況は落ち着いていると伝えていたからだろうか?

ある晩は、路上に車を止めて、助手席で寝ることになった。すると翌朝、ガラス越しに誰かがノックするので目が覚めた。何かと思って窓を開けると、その前にある家に住む人が、寒いだろうと思って温かいコーヒーを持ってきてくれたのだった。そんなことがあるたびに、人間的な温かさを感じる。

福島市役所は、救援活動の拠点としても、そしてメディアのための活動拠点としても機能していた。私は一室の片隅に陣取って、窓からちょこっと衛星通信のアンテナを外に出すことができた。愛用している「Thrane & Thrane Explorer 700」はどこでもちゃんと役目を果たしてくれる。ISDN回線経由でストックホルムのスタジオと生中継できるし、インターネットも普通の電話の会話も可能だ。電話帳一冊よりも小さな機械がこれほどまで大きな役割を果たしてくれるなんて信じられるだろうか?
※ ※ ※


余談になるが、私の日本人の友人はスウェーデン・テレビ(※注)の取材班の通訳やアシスタントとして被災地での取材に立ち会ったが、避難所でのインタビューを終えてその場を後にしようとする時に「お腹がすくからこれも持ってお行き」と、避難所で配給されているおにぎりやお弁当を差し出されたという。スウェーデン人のジャーナリストは、それはできないと断るものの、持っていってくれと譲らなかったと言う。似たようなエピソードは、他のスウェーデン人レポーターからも耳にした。

(※注)スウェーデン・テレビスウェーデン・ラジオと同様に受信料で賄われている公共放送だが、NHKとは異なりそれぞれが完全に別組織となっており、よって報道部もそれぞれ独立している。だから、今回の大震災にしても、エジプトやリビアでの政変にしても、それぞれから異なった報道が聞けるのは嬉しい。(さらに詳しい話をすれば、スウェーデン・テレビには1チャンネル2チャンネルがあり、数年前まではそれぞれ別々の報道部があり独自の取材をしていた。)


コメント ( 6 ) | Trackback ( 0 )


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コメント
 
 
 
Unknown (つつじ)
2011-04-24 15:18:16
政府の閣僚や官僚、大企業の経営陣、大手マスコミ幹部達と、一般の日本人市民は別な人種なんです。

前者は自分のことしか考えず、後者は他人を思い遣る。
だから前者は後者を侮り、騙し続けていられる。
前者は業が深すぎて救いようがないです。
 
 
 
政治のレベルは国民のレベルです (chihointokyo)
2011-04-25 00:06:36
つつじさんのおっしゃる事は、国のあり方を人任せにしていることになります。

確かに、戦前戦中世代も含め、知らないうちに色んな法律ができており、私たちのほとんどが幼少期から洗脳教育も受けてきました。

が、今いろんな事実が見えてきた限り、血を流して民主主義を勝ち取った国々同様、私たちも私たちの手で、自分たちの権利を取り戻すため行動をおこすべきです。デモ参加でもネット署名でも、必要情報の拡散でもいい。

被害者意識だけでは何も変わらない。

第二次大戦に関しての引用がツイッターで流れていました。「戦争が終わった時、皆が誰も本当のことを教えてくれなかったと言った。だがそれは事実ではない。真実を伝えようとした人は大勢居たのに、みんな聴こうとはせず、自分の信じたい事を信じただけだ」

今も似たような状況です。上からふって来た平和の上に胡座をかいて何も見ようとしなかった責任を、少なくとも私自身は今考えるべきときだと思っています。
 
 
 
Unknown (つつじ)
2011-04-25 11:26:28
chihointokyoのおっしゃることは、ごもっともです。

でも私のコメントの論点とは何か違います。

私はここに紹介された記事から、今も昔もかわらない日本の庶民の精神性を感じました。
それは、その昔、ラフカディオハーンや当事皇太子だったニコライ二世が感嘆した精神的風土につながるなと思ったのです。
それだけです。
そんなに深読みしていただくほどのコメントは書いていません。かえって恐縮しております。
 
 
 
Unknown (Blue_Water)
2011-04-26 05:23:43
現場に行かれた人の話は面白いですね。
平時では宿泊場所に困った時は、サウナやネット
カフェとかもありますが被災地では機能してなさそう…。

※以下はあくまで個人的な意見ですが…
政治の話が望ましくない場合はコメント
削除ください。

>官僚と一般人は別な人種なんです。
日本に限らずどこの国の人でも、個人単位では「いい人」が
集団になると「化けてしまう」のが人間の性ではないでしょうか。
そして官僚個人の多くも、自分の家族や友人には「いい人」だと
想像します。そう思うと特定の立場の人を自分達とは違うとして
ロボットや異星人みたいに見てしまうのも、ちょっと怖い部分が
ある気もします…。

>洗脳教育
「政治のレベルは国民のレベルです」というご意見は
まさに仰るとおりだと思います。

ただ戦没学生の日記など、戦前や戦時中に書かれたものを読むと
庶民でもリベラルな人も意外に多く、彼らの思考は現代でも
理解できる部分は多いように思います。西洋好きで軍人嫌いだった
荷風が政治腐敗への嫌気から、色々考えた挙句に武断政治を受け
入れてしまう断腸亭日乗の記述は、戦後の人にも分かりやすい
部分があると思います。

あと在郷軍人会の活動や大陸浪人の話を読むと、
実は庶民ほど利益問題が大きかったので、引くに引けなかった人が
多かったようにも思えます。
もし政府が大陸から手を引いてしまえば、一生懸命に働いて貯めて
大陸の企業に投資した虎の子の株や債権も肉親や知人の戦死なども
無になってしまうので…。
そして日本の貧農が大陸に入植した事が農地を奪われた現地の人の
抗日運動の一因ともなり、戦後は満州引き上げや韓国での日本人妻の
ように加害者と被害者が入れ替わり、弱いものが更に弱いものを
叩くのが繰り返されているというか…。

この辺りの話については、劇団四季の李高麗の中国公演時に
「大衆にも責任があるので、すべて政府や軍人のせいにして
すましてしまうのはいけない」という意味の批判をした中国の
メディアもありました。
「政治のレベル=国民のレベル」という話には同意ですが
知れば知るほど戦時中の日本人も北朝鮮の人も、ロボットではないと
思えるので「洗脳」という言葉には、個人的には違和感を感じます。

長文失礼しました。
 
 
 
Unknown (BLue_Water)
2011-04-26 05:46:12
>現場に行かれた人の話は面白いですね。
funnyという意味は全くないですが、「面白い」という
表現は被災地の方の気分を考えると適切ではないですね…。
申し訳ありません。

高野秀行さんがblogで阪神ファンが送ってきた物資を
避難所の人と笑いあった話を書いたいきさつなどを
読んでも思ったのですが、
災害現場にも日常や冗談があるけれど、部外者が
そういうものを「面白い」と言っていいのか…
逆にすべて難しい顔をして受け取らねばならぬとなると
現場の空気が伝わらず、余計に気分が沈む事になるの
ではないか…

災害地でのスポーツ興行での議論や自粛論と同じく
難しい問題にも思えます。
 
 
 
Unknown (Yoshi)
2011-04-27 08:09:30
上記のたくさんのコメント、興味深く読ませていただきました。なかなかまとまった時間が取れず、しっかりとした返事ができませんが、一つ思うのは、個々の人間がいくら賢くて、やる気を持っていても、組織の文化や構造次第ではその能力を発揮できないどころか、本心とは逆の方向に動いてしまうことも多々あるのではないか、と言うことです。

官僚などエリートと呼ばれる人たちもそうですし、一般の人々もそうではないかと思います。
 
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