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天地一沙鷗  杜甫

2018-03-11 06:23:14 | 文学
詩聖、杜甫の五言律詩を紹介します。


細草微風岸
危檣獨夜舟
星垂平野闊
月湧大江流
名豈文章著
官應老病休
飄飄何所似
天地一沙鷗


細草 微風ノ岸
危檣(きしょう) 獨夜ノ舟
星垂レテ平野闊(ひろ)ク
月湧ヒテ大江流ル
名ハ豈ニ文章ニテ著(あら)ワレンヤ
官ハ應(まさ)ニ老病ニテ休(や)ムベシ
飄飄(ひょうひょう) 何ノ似ル所ゾ
天地ノ一沙鷗(さおう)


「訳」

かぼそい草の生えている岸辺に、かすかな秋の夜風が吹きそよぐところ、高いマストをおし立てた舟に、杜甫はひとりさびしく、目をさましたまま、舟外の夜景を眺める。すると、無数の星くずのチカチカとまたたく夜空が、はるかかなた地平が垂れるあたりにまで、はてしもない平野はくろぐろとうちひろがり、月は波間に乱れ湧いて、悠々とはるけく流れている大川。この限りない巨大な空間に身をおくおのれが、いまわずかに、になっているものは詩のほまれであるが、それによってのみ天下に名をはせるのは、わが本意とするところではない。

自分の素願は、政治家としてのほまれを著すことである。しかし老病の身となってしまった現在では、その官も辞すのが当然と、落魄の身をひたすらさすらいの旅にうちまかせているが、さてこのさすらいの身は何に似ているかといえば、果てしない天地の間に、所定めずさまよう、砂浜の一羽の鷗の姿に似ているとでもいおうか。

「鑑賞」
杜甫は詩聖と讃えられましたが、本心では「君を堯舜の上に致(すす)めまいらせ、
再び風俗をして淳(あつ)からしめん」と欲していました。しかし、現実には官途が開けず不遇な日々を送り、不平詩人とか、「杜甫一生憂う」などとも言われました。

  高木正一「杜甫」中公新書   

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