yoshのブログ

日々の発見や所感を述べます。

男子厨房に入らず

2014-02-18 06:54:27 | 文学
多湖輝先生は次のように書いています。

「男子たるもの、台所のような下賤な場所に入らないのだ」とか、「いやいや、台所は女性にとって聖域だから、それを侵してはならないのだ」など男性の権威を振りかざしたり、女性に敬意を払って見せたりするときに使います。いずれにしても、世の夫族が、料理をしないことの口実に使われているようです。
しかし、じつはこの言葉はまちがいであることを、友人の漢学者で千葉大学名誉教授の志村和久氏から聞いたことがあります。彼によると「君子厨房に入らず」という言葉はなく、「君子は厨房を遠ざく」から転用されたものではないかというのです。志村氏は孟子の書物に「君子は生きた禽獣を見たからには、それが死ぬのを見るに忍びない。だから君子は台所を遠ざける」という意味の文章があることを指摘したそうです。つまり、厨房は、昔、食料にする禽獣を殺す場所でもあったために、「君子は厨房を遠ざく」となり、それがいつのまにか君子ではなく男子になり、「男子は料理をしないもの」ということになったというわけです。
志村氏に会ったある男性は、この言葉に触発されたこともあり、昔の自炊生活を思い出して、台所に立つようになったそうです。そしてあるエッセイに書いています。「人間の営みの中で、これほど多彩にあらゆる感覚を刺激するものはないであろう。肉に触れられる。それを調理する火がある。道具類がある。調味料がある。素材を素肌で扱う感覚、煮たり炒めたり焼いたりする音や熱の感覚、変化する素材の色や形、味や香りを確かめる感覚がある。視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚と五感のすべてを使って、全身でかかわれるのが料理である。だから、「食の楽しみ」は食べる楽しみだけでなく、作る喜びが大きな部分を占める。「男子厨房に入らずなどと言っていては、もったいないのである。」これを読むとわかるように、五感のすべてを使うことになる料理は脳の刺激剤として大きな効果をもたらすと多湖氏は述べています。

多湖輝 「100歳になっても脳を元気に動かす習慣術」 日本文芸社
     

コメント
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