陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

そのアニメ、儲かりまっか?

2017-05-19 | テレビドラマ・アニメ
信者と書いて「儲かる」と読む。
原価が安くても大量に愛好者たちに捌けば、利益は生まれるはずです。しかし、作り手にお金があまり降りてこない。けっして、一人や二人で、お茶の子さいさいでできる作業ではなく、長時間掛けねばならないのにかかわらず。その代表例が、アニメ業界。

先日、NHKのEテレで放映されていた「オイコノミア」という番組。
パーソナリティが芥川賞作家の芸人・又吉直樹と、大阪大学の社会学の研究者。5月17日分の放映回が、いまや億とも兆とも言われている、日本の文化産業の稼ぎ頭になっているアニメの制作現場についてでした。

アニメーターの労働環境の悪さは唱えられていて久しいですが、新人からだと原画単価が200円。手が早い人でも月300枚がやっとですから、月収数万円。東京に下宿していたら、生活費だけで消えてしまいますね。業務委託制になっているのでしょうか。これでは、生活保護以下です。

その一方、あるアニメ制作会社が製造業における分業化を進めて、生産効率を上げているという成功例も紹介されています。その会社では、CG制作がメインのようですが、工程をかなり細分化して、スケジュール管理も厳密なので深夜残業はなく、女性スタッフでも産休がとれるというホワイト企業ぶり。アニメ制作会社の4分の1はすでに赤字に陥っているらしいですが、勤め先によって明暗が分かれているのでしょうか。

作り手が貧困化するぐらいならば、税金で補助すればとの意見も出ます。
ところが、この番組の司会者である大学教授が言うには、「アニメに税金が投入されるべきなのは、アニメに経済的な恩恵があるからであって、若い創作者を救うためではない」のです。アニメが及ぼす経済的効果を「外部性」と呼び、具体例を挙げれば、人気アニメが呼び水となって観光が潤う聖地巡礼、話題作の劇場映画のなかでキャラクターが身に着けていた工芸品(「君の名は。」の組み紐)が爆売れするといった現象のこと。つまり、アニメ業界に下したお金が、その業界にループされず、「アニメ以外の」業界も活気づけてくれるのが望ましいし、国民の理解を得られるだろうというわけです。

これは確かに一理ありますが、しかし、その制作者たち、とくに若者たちの労働力を安くこき使っていいのか、ある産業が肥大化しているのに、その利益が末端に下りない構造を経済学は指摘しないなのだろうか、ひどく疑問に思えます。社会学って、ひとの暮らしを分析する学問じゃないの? 経済学って、企業とか国のお金の動きは追いかけるけど、人間それぞれの豊かさを追求はしないの? 研究者に労働者の苦労が分かるはずがない。番組に映っていた若手アニメーターの部屋には、仕事用のパソコン以外の私物がほとんどありませんでした。ふつうに会社で働きながら、休日にイベント参加したり、アニメグッズ買い込んでいたり、同人誌まで制作しているファンのほうが、よほど生活が充実しているように見えます。

さらに驚くべきなのは、この番組おしまいの方での、フリーミアムについての紹介。
フリーミアムというのは、ある部分までは無料配布し、気に入ったユーザーに購入してもらうシステム。化粧品の試供品や、ゲームの一部課金などがいい例です。たとえば、『ブラックジャックによろしく』という漫画の原作者が自身の原作物の絵の二次利用を許したところ、収入が何倍にもなったという報告。

しかし、そもそも、このフリー使用という手法で利益がとれないのが、アニメ業界だったはずです。だって、アニメって、そもそもテレビでただで観れるものだったんですから。インターネット上で無料放映されていても、ファンがコラボの動画なんかせっせと公開しても、売れるとは限らない。DVDの売上動向以前に、そもそも、毎シーズンごとに放映されるアニメのタイトルすべてすら知らない。それでも、いくらでも、アニメが過剰に生産されていくの、なんででしょうね。

最近の新しいアニメで、とあるシーンがネット上で話題になるけれど、それ、自分がかつて観た作品に類似しているから別に感動しないよ、と思うことがあります。たぶん、私が好んでいる作品ですら、過去の何かの練り直しに近いものはあるのでしょう。創作物のハウツー本とか調べものツールとか溢れかえっていて、もうお腹いっぱいですよ、という文化の爛熟期であって、偉い人は若い人の生み出すものにあまり期待していないのではないのかもしれませんよね。で、好きなことやらせてるんだから、ボランティアに近い値段で買いとってあげているというスタンス。

現場の状況を無視したうえでの私見ですが。
若い作り手の労働環境改善を考えるのなら、過剰なクオリティを追求するのも、濫造するのもやめて、作品数は淘汰して、制作に時間をかけて、劇場版で質のいいものだけ放映すればいいんじゃないでしょうか。例えば、その昔、「セーラームーン」がヒットしたけれど、あれは、ある意味、原作者のセレブぶりに対する羨望も混じっているわけです。いい物語をつくるんだったら、作り手にある程度の文化的素養も必要なのに、すぐれた作品を鑑賞する暇もなく、寝食も十分でなく過酷な労働で、いい作品生まれるのだろうか。お金が儲かるからって、過剰な課金ゲームやギャンブルにアニメ作品が使用される状況、望ましいとは思えません。制作の資金源としてなら、クラウドファンディングもありますし。

そこそこ暇つぶし程度に面白いしネットで無料で転がっているから読んでるというものが大量にあるよりも、絶対にこれしかない! と心を鷲掴みにするような作品が限ら得た人生の中で楽しめるほど余裕があるほうが、自分としては好ましいです。何を選んだらいいのか、もう迷うだけで時間が過ぎてしまいますので。




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