陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

神無月の巫女精察─かそけきロボット、愛に準ずべし─(七)

2015-08-11 | 感想・二次創作──神無月の巫女・京四郎と永遠の空・姫神の巫女
ロボットだの、神さまだの、抽象的な理屈ばっかりこねやがって、全然百合っぽい話がないじゃないか!と、そろそろ切れ気味の皆さま。いましばらくお待ちくださいね。今回の考察では、姫子と千歌音について、ちょいとばかし触れてていきますから。かなり核心に迫る部分をネタバレ気味ですので、まだこの作品を御視聴でない方はお気をつけください。

今回の考察における主役ロボットは、そう、我らが巫女の駆る剣神アメノムラクモです。
旧版ブックレットの第四巻を読みますと、このアメノムラクモの特質について説明されています。

・人の憎悪を糧とするオロチ機とは違い、二人の巫女の愛によって真価を発揮する
・戦闘形態である人型と、封印形態である剣型とがある
・オロチによって歪んだ世界を回復するためには、巫女による「最後の儀式」が必要

「二人の巫女の愛によって真価を発揮する」というのが、剣神アメノムラクモの重大なポイントですよね。巨大ロボットのエネルギー源が、ガソリンだとか、電気だとか、空中元素固定装置とか、じゃないんです。愛情とか絆でなにかが作動するんだよ、という設定はフィクションでも珍しくはないだろうけども。

巫女たちが仲違いしているうちは、ムラクモさんはうまく働くことができません。
愛というのは、好きだよ、愛してるよと言い合って恋愛ごっこをする、関係をもつ(原作漫画だとこれが引き金になってたりしてましたけどね)、ではなくて、おそらくはお互いに背中を預け合えるような信頼関係が築かれている、ということですよね。なぜ、そう思うかといえば、ほんらいは二人の巫女で協力して召還せねばならないのに、姫子の独りだけの儀式であっさり降臨してしまいました。最初は姫子が力不足だったと思われていたのですが、じつは千歌音がアメノムラクモに対して不信があったので、召還できなかった、ということになっています。大神カズキがそのように解説したし、最終話でも瀕死の千歌音が自分でそのように告白したからですよね。漫画版でも、姫子が泣き叫んだらいきなり登場したのを、ツバサが〇〇(姫子に属するもの)のせいだ、とかってに結論づけてるコマがあります。それで片づけられているんですが、納得いかないですよね。

では、邪念のあった千歌音が邪魔だったのだけど、姫子が独りでにがんばって召還できたのでしょうか?
千歌音の代わりに、ソウマや他の人たちの支援励ましがあったおかげで? そう考えることも可能ですが、そう考えられるようなシーンも見受けられますが、やはり、そうではない。アメノムラクモが二人の巫女の愛によって存在せしめねべならないのだとしたら、逆に、アメノムラクモが降臨したというのは、姫子と千歌音がすでに両想いになっていた、というサインに他ならない。神あるところに人の縁あり、ロボットあるところに愛来たり。ロボット神たちが人の気持ちを結ぶ依りどころであることは、オロチ衆のアジトに各自の鳥居があることからも、推察されます。

視聴者にはわかりづらいですが、以上の前提がなければ、オロチに寝返ったはずの千歌音に巫女の剣なるものが現出した理由も説明できません。すなわち、オロチの皮をかぶってはいても、千歌音はあくまで月の巫女としての本質を失わずにいたのであり、その身は遠くにあっても、精神的に姫子を愛していました。また同時に、姫子も千歌音の愛情に気づくことができた(千歌音の気持ちを疑っていたら、最終回でわざわざ真意を聞き出そうとはしないですよね?)ので、陽の巫女としてやっと覚醒できた、と言えるのかもしれません。そうすると、やはり、千歌音はオロチ衆八の首にはなっていない、と言えるのではないでしょうか。そもそも千歌音はオロチに対する憎悪すら抱いてはいない。絶望をしていたのなら、安っぽく、姫子を道連れにして心中するでしょう。千歌音はそうしません。千歌音には、自分がいない世界でも姫子が幸せになるという、揺るがせにできぬ希望があったのですから。絶望して諦めていれば、あんなことはしません。オロチになる余地などまったくありえないのです。この世の中は大層生きづらいのだから、女の子には厳しいのだから、私と貴女でいっしょに旅立ちましょう、心中しましょう、という逃げの姿勢の、よくありがちな百合話でもありません。ここは強調しておきたいところです。(もしそうだったら、二話で千歌音が姫子を引き止めた駅舎のエピソードが台無しになりますよね。ちなみにこの「いっしょに死ねば怖くない美しい百合」というのが、アニメと原作とのラストを分つところです)

このアメノムラクモを発動させうる巫女の愛とは、我が身を賭してでも相手を護りたい、というお互いの願いです。あなたのためなら死んでもいい、という、百合アニメなら最高度の愛情ですよね。でも、あなたのためなら自分が滅びても構わない、という考えはかなり危険ですし、相手にそれを強いるのも非情極道きわまりないものです。私は貴女からの愛情を疑っています、だから、貴女を傷つけてもいい、殺してもいい、私のこの痛みを受け取ってほしい、なんていうのは愛でもなんでもありませんし、ただのサイコパスです。えげつないシーンばかりが断片的に動画などで流出しているので勘違いされやすいのですが、そんな狭隘な百合のお話ではありません、この作品は(と、あくまで私は思っています)。自己犠牲は物語として読めば美しく感動できる。だが、現実には、遺された者には苦痛でしかありません。それほどの深くて重い愛がないと動かない、剣神アメノムラクモもまた、ヤマタノオロチと等しく残酷な運命の女神ですね。愛情を欲しながら、また同時に人の別離をも欲している。神とは往々にして残忍で無慈悲なる存在。日本の神道ではそうです。だからこそ、丁重に崇め敬い、お祀りせねばならないのです。



神無月の巫女精察─かそけきロボット、愛に準ずべし─(目次)
アニメ「神無月の巫女」を、百合作品ではなく、あくまでロボット作品として考察してみよう、という企画。お蔵入りになった記事の在庫一掃セールです。

【アニメ「神無月の巫女」レヴュー一覧】



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