陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

見開きが多い漫画家は危ない…?!

2021-04-24 | 二次創作論・オタクの位相

オタク特有のサブカルコンテンツに毒舌をかますコーナーです。
私は漫画をあまり読みませんが、嫌いなのではなく、絵の細かいことにうるさいからです。正直、いい読者ではありません。

学生時代の研究室や空いた講義室は、学生さんの溜まり場になっていて、自由に小説や漫画などを置いているカフェのようになってもいました。ある日、先輩の買った青年漫画雑誌を読んでいた友人が、とある頁をひろげて曰く、「これ、ここらへん漫画家、苦しいんやろなァ」と。とうしょ、何の意味かわからなかったのですが…。創作が煮詰まっていて病んでいる作家がよくやるサイン、なのだそうです。

皆さんは漫画の見開きって好きですか?
私は二頁分も消費するのならば、それなりに作中で意義のある場面で、ここぞというときに使ってほしいし、あんまり多用してほしくはありません。電子書籍で読むのならいいけれど、紙版だと綴じ込み部分で絵がゆがんで見えてしまうし。

ある漫画雑誌の、おそらくその雑誌の売れ筋である女子高生ものの日常ストーリーの最終回で。初回で主役ふたりの出逢いをなぞった、とても簡潔な台詞をわざわざ六頁もかけて(見開き×三回)再現しているのがありました。キャラのほぼ首から上の絵だけで。背景は真っ白。正直、一頁で済むような場面です。

その部分に何がしかの意味をもたせたいのはわかります。
しかし、その台詞が格別にインパクトがあって伝説になるような言い回しでもなく、その構図がしゃれていてセンスがあるわけでもない。バストアップの一枚絵でキャラを際立たせるのならば、東洲斎写楽の大首絵のような強烈なインパクトがないといけないのに、顔がどのコマも小綺麗なだけの没個性。たしかに絵はうまいけれど、イラストレーター然としすぎていて漫画の表現としては抜きん出ておもしろくない。

私が思うに、見開きで描いていい場面は、情報量が多くてスケールが大きくなるシーン。複数人のいる舞台を俯瞰的に見せるとか、離別した二人が遠目に互いを視認するとか、パズルの完成図のように巨大なものの全容を示すとか。キャラのみ一人を描くならば、きちんと背景なりでなにか演出してほしい。二頁も使えるのなら、距離感とか奥行きを感じさせる絵にしないともったいないです。複数の登場人物がいる神話や宗教画は飲み込まれるぐらい大画面ですが、モナリザ含め人物ひとりの肖像画や静物画はさほどキャンバスは大きくないですよね? もしやたら馬鹿でかく描いた絵があるなら、それは現代アート並みの奇抜な仕掛けがあるので、ありきたりな日常劇のふんわりした感情演出として漫画でやってほしくはないです。

キャラクターの心情描写を追うタイプでは、カメラがいつも近くを追いすぎていて、うるさいと思うこともある。顔以外の部分で演技しろよと注文つけたくなります。アニメショーンなら動きがあるし音声で補えるので、セル数を減らすために顔のどアップもいいけれど、漫画でそれを多用しすぎないでほしいです。

顔のアップを描くならば、ハンコ絵と呼ばれる類型的なあっさりした表情でやるとすぐ読み飛ばしたくなります。その表情の顔は前にもあったのに、ここで大きくされても…。好きな相手を見つめるときと、そこらの食いものを眺めてるときとの、女の子の瞳の輝きが同じわけないだろがッ!と思いませんか? どいつもこいつも、ウケの良さそうな澄まし顔。いっつもいっつも、笑顔で目をへの字にされると、中学生が描くようなスタンプ萌え絵やめてもらえませんか、と突っ込みたくなります。作家の情念みたいなもんが絵に宿ってなくて、カタチだけ整えようとしてる。商業作品として売れたらそれでいいのかしれませんが、なんだかなと。

ほとんど描線の少ない、立体感もない絵だけで見開きをしている漫画は、やたらと短文ばかりで改行して、下の部分が空白なライトノベルのようなものですよね。描き込みがすくないなら、台詞で埋めるなりしないと、お子様向けの絵本を読まされているようで、馬鹿にされた気分になります。作者が少しでも楽をして描きたい、いやいや描いている、という気分をどうしても感じ取ってしまいます。

しかも編集さんが同じなのか、ひとつの雑誌の中の漫画がどれも似たようなコマ割りだったり、均質的な演出だったりもします。どれも優等生的でスマートだけど、飛びぬけた何かがない。そういう漫画雑誌ってありませんか?

ちなみに、小説で空白を効果的に使ったものとして有名なのは平野啓一郎の『日蝕』。あれはラストだけ描写を抜いて読者の想像に委ねる高等芸なのですが、それまでに古文調の濃密な文体を存分に駆使していたからこそ許されるものではないでしょうか。誰も彼も真似すると、薄っぺらくなりますよね。

大きなコマばかりで頁数稼ぎをしながら話が進まず、なのに単行本が600円以上する、下手したら1000円近くする同人誌みたいな商業漫画。正直、ぼったくりもいいところではないでしょうか。

(2021/03/30)



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