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陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

「The Final Feast」 Act. 3

2025-03-06 | 感想・二次創作──魔法少女リリカルなのは

花束をリインごと両手で包むように受け取って、はやては顔をほころばせた。

「リインもおめでとさんやな」

闇の書が発動したのは、はやて九歳の誕生日、六月四日。それから二年遅れて、リインことリインフォース二世が誕生した。

「八神家のみんなもおめでとうやな。これからもよろしくな」

はやてを囲み、ケーキの周囲に集まった四人…いや三人と一匹の守護騎士、守護獣が大きく頷く。彼らがこの時代に生を受けたのも、主が九回めの誕生日を迎えた日。線香花火をのぞく蝋燭の本数は、はやての実年齢から九年分を引いたもの、つまりヴォルケンリッターたちと過ごした年数だ。はやては守護騎士たちがいなければその後の人生はなかったものと思い、九歳から数えた年数を生誕日に祝いつづけている。

「はやて、これ。あたしら四人からのプレゼント」
「ありがとな。さっそく開けてもええんか?」

ヴィータから手渡されたのは、胸でかかえるぐらいの幅があり、篭盛りのようなかたちをした物体にラッピングがしてある贈り物。ていねいに包装紙を剥がすと、なかから現れたのは、大きなザル、内側の朱塗りが鮮やかな黒漆の平たい鉢、長い棍棒、Fの字のような刃が迫り出した包丁、その刃で叩くといい響きのする駒板、そして石灰のように真っ白なさらさらした粉のつまった袋がいくつか。表面に「そば打ち粉」と書かれた袋を手にして、はやての瞳がたちまち輝きを増してくる。

「うわぁ、これ、麺打ちセットや!」
「はやてちゃん、欲しかったんじゃないかと思って、こっそり通販で買っておきました」
「でも、どうしてわかったん?」
「以前、皆で蕎麦屋に出かけた折に、主が熱心に店の主人のそば打ちの手並みをご覧になっていたもので」
「うん。そやな。あんなふうにおいしい麺をみんなにごちそうできたらって、羨ましゅうて」
「これから、はやて特製のうどんも、そばも食べられるんだな」
「ヴィータのためにも、がんばってつくったるで」
「やったぁあ!!」
「新しい道具だからとて、あまりご無理はなさらぬように」
「あはは、心配せんでもええよ、ザフィーラ。明日の晩ご飯はざるそばにしよか。その約束が、私から、みんなへのプレゼントなんやから」

いやったーい、と飛び上がって大喜びしたのはヴィータと、リイン、アギトの融合騎二姉妹だった。


さて同じ頃。喜びに沸く八神家を尻目に不穏な気配がただようのが…──。

「プレゼントが料理道具だなんて、奇特よねぇ。あたしだったら、クロノくんにそんなもの押しつけられたらウンザリしちゃう」

双子を連れたエイミィが、わざと横で肩をならべた夫に聞こえるような声でしれっと愚痴った。
暗がりをいいことに零したのだが、それを耳にしたクロノはもちろん、ややひんしゅくを買わされたような顔つき。

「そんなこと言わないでくれよ。双子にパンケーキを焼くセットを買ってやったときは、いっしょになって楽しんでたじゃないか」
「あれはおもちゃで童心に帰って遊ぶからいいの。ままごとと、主婦業で旦那や子どもの栄養のこと考えながら献立考えるのとじゃ、苦労が違うのよ」
「そうかい、そうかい。主婦業もたいへんだな」
「なぁに、その他人事みたいな言い方~っ。たまにはクロノくんも育児手伝ってよね。いまのご時世、イクメンが当たり前なんだから」
「たまにはって、出張しない日は、風呂入れたり寝かしつけたりはしてやってるだろ」
「だってぇ、クロノくん。お風呂入れるのへたなんだもん。けっきょく、あたしがついていなきゃいけないのに」

犬も食わない夫婦喧嘩が、水面下で続けられていた──。



【目次】魔法少女リリカルなのは二次創作小説「Fの必要」シリーズ




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