陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。

映画「炎のランナー」

2018-10-08 | 映画──社会派・青春・恋愛

私たちは、いつだって勝利と栄光が大好きです。
スポーツ競技は平和な時代に国が、地域が、年代がぶつかり合い競いあう、代理戦争のようなもの。現在のプロスポーツ選手は、各競技の技術の精髄であり、スポンサーの広告塔でもあり、国威高揚の立役者でもあり、心身が不自由で艱難辛苦にあえぐひとにとっての希望でもあったりする。しかし、一時期、波に乗ったスタープレイヤーを興味の虜にしたあげくに、いっとき負けがこんだからといってあっさりと忘れがちになります。テニスの大舞台でラケットを叩きつける無敗のはずの女王のすがたが世界中で話題になりましたが、失敗を許さない、常勝のつまづきを受け入れられない完璧主義の犠牲ではないかとも思いたくなります。年に数度、下手したら数年に一度の大舞台にかけて調整するアスリートの苦悩を、勝手ながら観客は思いやることができません。かつて、フィギュアスケートを熱狂して追いかけていた自分もそうでしたし。

秋だからこそ観たい映画特集。
さて、今回は本日・体育の日にちなんだこの名作シネマの話をしましょう。球技などではルールなどの前提知識がないと難しいのですが、そこはもう、ご心配なく。今回のスポーツ映画は、私たちが誰でもできそうな、ひたすら走ること。

1981年の英国映画「炎のランナー」(原題 : Chariots of Fire)は、1924年のパリ五輪に出場した、ライバルの英国人ランナーの競走を描くスポーツドラマ。
ただし、単にライバル同士がせめぎあって成長し、栄光を掴む感動ものではなく、英国に根強い階級社会や、厳格なカトリック信仰に翻弄され競技人生を危うくされる選手たちの悲喜を描いています。

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本作のヒーローはふたり。
ひとりはケンブリッジ大学の優等生でありながら、ユダヤ人のために劣等感を感じている青年ハロルド・エイブラハムズ。優れた英国人として認められたいがために走りつづけるハロルドは、障害物や中距離走者の仲間とともに五輪めざして特訓中。
同じ頃、スコットランドでは、宣教師の息子エリック・リデルが駿足のランナーとして名を馳せていました。

1923年、ロンドンの競技会の100メートル走で両雄はついに対決。結果はエリックが僅差で勝利。
勝ちにこだわるハロルドは、プロの競技者だったムサビーニの師事を仰ぎますが、アマチュア精神を重んずる保守的な学長らに非難されてしまいます。
かたや、敬虔深いエリックは、神から与えられた恩恵を讃えるために走るという動機のために、勝利には執着していない。

1924年、迎えたパリ五輪。
再対決するはずだった宿命のライバルは、運命のいたずらで、おなじトラックに並び立つことはありませんでした。
しかし、二人ともが奇跡の勝利をもたらしてくれたのです。

社会の偏見に向かうために走り抜けた男ハロルドは、異邦人のようにさげずむ国のために戦うことに疑問を感じ、また好敵手のいない勝利に虚しさを感じる。
かたや、王侯貴族や選手団長の名誉心からくる説得にもめげず、みずからの信念を貫いた男エリック。しかし、彼の勝利には出場権を譲ったハロルドの友人の勇気ある決断もあってのことでしょう。母国に輝かしいメダルをもたらすために身を引いた姿は、冬季五輪のスキーで代表に選ばれていながら、出場できない涙を呑んだ日本人選手を思わせますね。
ハロルドとエリックの対決は、過去二千年間虐げられた民族ユダヤと、それを排斥してきたキリスト教との対立の縮図でもあります。

しかし、「炎のランナー」と題しているわりには、選手たちは育ちがよく泥臭い葛藤もさほど感じられない。
このタイトルの意味するところと作品の雰囲気がまったく合わないのは、原題がウィリアム・ブレイクの『ミルトン』の序詩「And did those feet in ancient time」に依っているから。
私はベタな設定ですが、貧しい境遇に生まれた者が切磋琢磨して世界一になるようなサクセスストーリーのほうが好きですね。

主演はベン・クロスと「未来世紀ブラジル」に助演したイアン・リチャードソン。
監督はヒュー・ハドソン。

第54回アカデミー賞 作品賞・オリジナル作曲賞受賞作品。
音楽を担当したのは「ブレードランナー」も手がけたヴァンゲリズ。冒頭で流れる「タイトルズ」は、誰しもが耳にしたことがあるBGMですね。この音楽を聞くと、オリンピックだな~と感じます。

炎のランナー(1981) - goo 映画


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