陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「海辺の家」

2009-06-02 | 映画──社会派・青春・恋愛


父の日が近いから、こんな映画をひとつ。
01年の映画「海辺の家」は、職を失い、余命いくばくもないちょい悪オヤジと、ひねくれ高校生の長男との交流を描いたお話。感動作だとの誉れ高かったのですが、たしかにそのとおりで、ラスト不覚にも泣いてしまいました。とちゅう下ネタはありますけど、まあご愛嬌かな。

同じような設定では先日、秋元康原作の「象の背中」
(身勝手な中年が病魔に冒されて、最後に罪滅ぼし想い出めぐりして、家族に愛をいつわっていて勝手に自己満足して死んでいく話にしか思えない)を観ましたが、こちらのほうが断然筋がよく練られ、かつ父親と息子の関係に焦点があてられたところがよかったです。

ジョージ・モンローは40代の建築デザイナーだが、粗野な性格。彼にはすでに再婚した元妻のロビン、16歳の反抗期まっさかりの息子サムがいた。
ある日、勤め先の建設会社を解雇され、さらには癌で余命4箇月の命と宣告されてしまう。残された時間を、息子との絆の回復にあてがおうと考えたジョージは、いやがるサムを海辺の自宅へ連れていく。
海風に晒されて古くなった我が家の建て直しを計画し、サムを手伝わせる。最初は嫌々ながらのサムだったが、近所に住む幼なじみのアリッサに救われ、また父の説得の甲斐あって改心していく。
いっぽう、ロビンは再婚相手の夫と不仲で、サムの弟たちを連れて、ジョージたちの事業を手伝いはじめる。ジョージとの冷めた愛情を取り戻してしまうロビンだったが、彼女はジョージの病気を知らなかった。

原題のLife As a House はこの映画の訴えるところをよく表したタイトルですが、あえてそう訳さなかったのは、ネタバレを恐れてか。
人生の再建を、一戸建ての建て直しにかけて、病んだからだを押しながら情熱をかたむけるジョージに、続々とあたたかい援助の手が増えていきます。
とちゅう、恋愛模様で入り組んでいて(アリッサの母親が娘のBFと…とか(苦笑))崩れそうになりつつも、ラストをなかなか感動的にまとめています。建築を阻止するために嫌がらせしにくる近所の紳士を撃退した、サムの理由がおかしかったですね。ここにつながっていたのか、と。

けっきょくジョージは完成を見ずに世を去ってしまう。
家はみごとに建てられますが、それをサムがどう役立てるか。最後にご注目。
亡きジョージのモノローグとも重なって、胸が熱くなる。

ただ、ひとつだけ疑問だったのですが。
ジョージはあくまで設計士(会社ではCADが扱えず、模型をつくってばかりいたので仕事を干された)であって、技術者ではないんですよね。欧米だと大工仕事の現場作業員と、設計デザインをするプロフェッショナルの建築家との線引きは明確なのですが。
まあ、自分の家一軒建てるぐらいならできるだろう、という発想なのでしょうが、トイレとふつうの部屋との間仕切りをしないで建築法違反で訴えられてしまうあたり、どこがプロなのだろうか、と思ってしまう。

家をきもちよく壊していく過程は、まさしく劇的ビフォアーアフター(笑)

(〇九年五月二十八日)

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2 Comments

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ちょっとイイ話 (十瑠)
2009-06-02 08:18:17
3年前に観たので、詳細は忘れましたが、終盤で泣いてしまったのは覚えてます。
エピローグで“ちょっとイイ話”になったのも。

「象の背中」は録画もしなかったです。日本人は、病気モノは作り方が下手で困りますね。
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不良中年、最後は善良親父に (万葉樹)
2009-06-02 17:04:38


>終盤で泣いてしまったのは覚えてます。
エピローグで“ちょっとイイ話”になったのも。

さいしょはイケ好かない父親だな、これじゃ息子がグレるのもわかる、と反発心から観てたのですが、ジョージが自分の父との確執を語るあたりから変わってきましたね。

ラストのあのエピソードもそうですが、不良中年が元妻など今後残された人の人生を考えて行動した、という筋書きがよかったです。めそめそ想い出をあたためながら死期を待つような闘病ものじゃなくて。

>「象の背中」は録画もしなかったです。

あれは映画じゃなくて、二時間ドラマにすればいいようなものでしたね。

>日本人は、病気モノは作り方が下手で困りますね。

病気ネタって使い勝手がいいけど、へたすると嘘っぽさがにじみ出るんですよね。「恋空」がいい例で。
洋画だから、まったくの虚構として、つき放して観れたのもあったかもしれないです。

この映画は闘病記というよりは、親子の絆の再生に重きをおいていたのがすごくよかった。とちゅう「ホテル・ニューハンプシャー」みたいなドタバタ恋愛劇はありますが、父と子の和解のドラマとして知るものでは「オーロラの彼方に」と並ぶ感動作でした。


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