陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

いつまでもあると思うな、障害者利権(前)

2019-08-08 | 医療・健康・食品衛生・福祉

糖尿病は生活習慣病とみなされていますが、1型と2型とがあります。
1型は、先天的な免疫異常によって、血糖値をさげるインスリンが体内で分泌されない病気。根本的な治療法がなく、患者は毎日数回のインスリン注射を打たねばならない。国内の糖尿病患者のうち、その1パーセントにあたる10万人が1型とされています。

この1型糖尿病患者である、関西の男女複数名が大阪地裁に、障害年金打ち切りの処分取り消しの再提訴をしたと報じられました。(2019年7月4日読売新聞朝刊)
原告の患者9名は障害等級2級相当の障害基礎年金(年額約80~100万円)を受給していたが、2016年までに対象外に。2017年の処分取り消し訴訟においては、不利益処分の理由説明を義務付けた行政手続法に反するとして、違法判決が下されました。ただし、患者の症状が受給要件を満たしているかは判断を控えました。つまり、国が打ち切りしたことではなく、「その理由を明示しなかったこと」のみを咎めたのです。

国が控訴せず判決は確定したものの、今年5月には「診断書内容から症状が支給対象に該当しない」として、再度、不支給を通知。これを不服として、原告がふたたび提訴に踏み切ったものです。

まず、私は糖尿病患者が障害年金の受給対象になることに驚きました。
私の周囲にも、糖尿病の患者はいました。実父は2型の糖尿病で食事療法をしていましたが、好きなお酒がやめられず重症化。がんも併発し治療も困難でした。それでも、障害認定なんてされずに、直腸がんを患ったあとの外のトイレの確保に苦しみつつ、働いていました。50代前半で亡くなったので老齢基礎年金もありませんし、自営業歴が25年以上ではない、かつ、子が18歳年度末以上だったので遺族基礎年金も下りませんでした(サラリーマン時代の遺族厚生年金がお涙金程度、母が自身の老齢年金受給まで支給)。知人の息子さんも祖父の代から遺伝として糖尿病患者ですが、ボイラー技師として製紙会社に勤めています。糖尿病で県庁を退職し、本屋をひらいたひともいます。ただ、糖尿病患者さんは自暴自棄で不摂生を見直さない人も多いのです。甘いものをたくさんとって早死にしたいとおっしゃるひともいますが、たいがいピンピンコロリとすぐ死ねずに、ひどくなると指先が壊死し、長期間かなり苦しむことになります。お酒、煙草、炭水化物の過剰摂取は控えた方がいいです、本当に。

実父が毎日痛そうにインスリン注射をしていたので、糖尿病患者の苦しみはよくわかります。糖尿病ではないですが、幼少期の小児麻痺で片足が不自由だけど、元気に農業を手伝っていた大叔父もいました。そのいっぽうで、会社の経営難の資金繰りのために奥さんを精神障害者にして障害年金をわざと得たりしながら、ギャンブルで遊んでいる事業主もいます。病気を売りにして作家業をしているふとどきな者もいますよね。年金詐欺が映画にもなるぐらい日本でも話題になりましたが、親きょうだいの年金をあてにして、所得をあげるための努力をしない人もいます。あるアナウンサーが人工透析患者を自己怠慢だと非難したような、障害や疾病のある方への無理解や批判は許されるものではありませんが、われわれには自己の健康管理をする自己保健義務もあります。

この原告は初診日が20歳前で、成人後に障害等級2級と認定されて、障害基礎年金を受給しています。いわゆる国民年金法30条の4規定による「20歳前傷病による障害基礎年金」。この「20歳前傷病による障害基礎年金」は、ほかの障害基礎年金とはことなり、保険料納付要件(初診日の前日までに国民年金保険料を被保険者期間の3分の2以上納付か免除)が問われません。発症した時点では未成年で、国民年金の被保険者ではないからです。逆に言いますと、子どものときに発症した疾病障害で、保険料を負担せずに、ずっと年金受給者になれるわけです。

障害基礎年金の基本年金額は2級ならば、78万円ほど(年ごとの改定率により異なる)。さらに子の加算額が2人目までの子ならば1人につき22万円ほど。受給権者により生計維持されている、18歳到達年度末までの子か、20歳未満で障害等級該当の子がいれば、障害等級2級の受給権者はおよそ100万円うけとれます。すこし失礼な言いかたですが、我が子も糖尿病患者で障害認定されたら、親子で受給できるというわけです。

この「20歳前傷病による障害基礎年金」は、労災法の年金給付を受ける場合、少年院や刑事施設収容された場合、国内居住でなくなった場合にくわえ、一定以上の所得(年収360万円ほど)による支給停止もあります。この所得とは、「受給権者のみ」の所得ですので、同居親が資産家や会社経営者で豊かであっても、配偶者が高給取りのエリートであっても、その被扶養者になって健康保険の恩恵をうけつつ、自分が働かないで障害年金をうけとることもできます。「障害」とは症状が固定して治癒の見込みがないことですが、「いつまでも治らない」「ずっと病気のまま」だと主張して、医師の診断書さえあれば障害年金をもらいつづけることはできるでしょう。

一般的な障害基礎年金もふくめて、障害年金は障害等級に該当しなくなって3年が経過するか、65歳に達すれば受給権を失います。いったん、支給停止になっても障害が増進すれば支給が復活しますが。初診日に被用者であった者(社会保険適用の会社員など)が受給できる障害厚生年金ならば3級該当でもいいのですが、1型糖尿病患者の症状が障害等級2級に認定されるのはそもそもかなり難しいとされています。障害年金の申請は、社会保険労務士に依頼してやっと下りるぐらい認定が難しいといわれています。

この原告は2級該当しないと判断されたのですが、そもそも、どの程度の生活上の支障があったのか、報道からは理解できませんでした。
インスリン注射を強いられる生活は不自由ですが、視覚や聴覚に障害があるほどでもなさそうですし、寝たきりでもなく、家事能力もあるなら多少は働けるとみなされてしまうのかもしれません。

この原告のなかには、30代後半の専業主婦もいますが、夫が会社員ならばその健康保険の被扶養者になれます。糖尿病治療の医療費は高額ですが、健康保険の高額療養費制度も利用できます。社会保障というのは、現金給付のみならず、保健医療機関での窓口での3割負担ですむ現物給付もふくみますから、糖尿病にかぎらず、傷病者の医療費の7割はほかの働く現役世代が支払う税金で支えていることになります。働く高齢者の年金支給を減らす在職老齢年金のシステムにしてもそうですが、年金が少ない!と叫ぶ人はこの事実に気づいていないように思われます。そもそも、専業主婦で国民年金3号被保険者であれば、自己負担なしで将来の老齢基礎年金もうけとれます。自営業者妻にくらべたら、会社員妻はかなり優遇されすぎています。障害基礎年金等の受給権者であれば国民年金保険料は全額法定免除されますから、うまくすれば、国民年金を一生涯払わずに年金を子どもの頃から死ぬまで受け取れるわけですね。

国が障害年金の打ち切りを決定したのは、年金財政の厳しい運営が背景にあります。
公的年金は、高齢者のみならず、生計維持の家族を亡くしたひとや、障害者になったひとでも受け取れます。しかし、誰もがこの制度にただ乗りしようとすれば、きちんと働いて納付している現役世代の負担が重くなるばかりです。税収はバブル期を越えて過去最高なのに、赤字国債は増え続けている。日本の社会保障はもう大盤振る舞いをやめるべきで、国民の自助努力をなおいっそう求める方向へ傾くのではないでしょうか。

1型糖尿病患者をふくめ、好きこのんでその病気になった者はいません。
ただ、現在ではがん患者の社会復帰支援もありますし、障害者の法定雇用率をあげて大企業では働きやすくする取り組みもあります。外に働きに出るのが難しいならば、内職仕事のような時間に融通の利く働き方か、個人の健康状態に配慮した勤務形態ができるような環境づくりも必要でしょうね。福祉のお世話になっているから後ろめたいのではなく、どんな心身の不調があるひとでも堂々と働ける世のなかでありたいものです。家に閉じこもって、同じ境遇者とばかりネットで愚痴をいいあうだけの日常になると、落ちぶれた思考になって卑屈になります。精神衛生上よくありませんし、家族の将来にも響きます。

1型糖尿病は根本的な治療法がなく、回復の見込みがない病気ですので、障害にあたらないとはいいがたいでしょう。ただ、その障害の程度が年金支給要件の程度にまでないといえなくもないわけです。1型患者であることは、本人にはなんら非はないことです。ただ、支給額をさげるとか、働く場所を優先的に斡旋するなりして社会復帰をうながすほうがいいのではないかと、私は言いたいのです。

なお、最近、障害年金支給サポートするNPO法人や社労士などが多いです。
今回の一件、以前の訴訟では「勝訴」であるが、実際は障害年金の不支給取消をかちとっていません。かたちだけ勝訴というか痛み分け状態にして、弁護士か社労士かが報酬をうけとり、また打ち切りが覆る見込みもないのにわざと原告を煽って訴訟させているようにしか私には思えません。ハンセン病患者の避妊手術にしても違法判決はでましたが、救済金の支給についてはふみこまれなかったのです。賠償金がとれますよと煽って仕事をつくる、弱者利権ビジネスまがいの士業のふるまいについては眉をひそめたくなりますね。



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