陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

「False of Heart」 Act. 7

2006-09-09 | 感想・二次創作──魔法少女リリカルなのは

「そうおっしゃるナカジマ三佐は、ご兄弟は…。あ、きっと、お姉さんが大勢いらっしゃったとか?」

眠たそうな男の瞼が、いつになく丸くなる。

「よくわかったな」
「それは、それは。女性あしらいがうまいですから」
「上に姉が四人もいて、待望の長男だった。ま、だからかな、大家族になっても気にしねぇな」

ふっと腹に溜め込んだ大きな息を吐き出すように、笑った。

「こっちのことはともかくよ、おめぇさんたち貫禄ありすぎだ。八神にしたって一人っ子だろうに、我がままなところはからきしねぇもんな。あれで、部隊をひとつは任せられる。ま、JS事件じゃ、指揮をおっ放り出して、ゆりかご内に突入しちまったあたりは褒められたもんではなかったんだがな。でも、俺はあいつのそういう向こう見ずな勇気は羨ましい。俺にはできねことだからな」
「はやて捜査官はそうですね、八神家のまとめ役ですし。機動六課時代でも、みんなの母親みたいなもんでしたね。アコース査察官に言わせれば、決断は早くて行動力あるけれどなにかと生き急ぎがちだから、あぶなっかしい妹だそうですが」

面と向きあえば冗談もいい、お互いを軽くあしらいあう十九歳どうし。
しかし、ゲンヤのような年長者の前では、べた褒めというぐらい親友を立てるのが、なのは達なりのそつのない友情だ。

「おめぇさんだって、みんなのお袋さんみたいなもんだったろ? いまだって、立派に一児の母親だ」
「そう思われていたなら、嬉しいんですけど…どうなのかな。自信、ないんですよね。ヴィヴィオを育てていると、たまに不安になったりして。わたし、子どもの頃からいろいろ経験して悟りきっているんだと自負してたけど、…じつはそうじゃなくて。ただ周りに大人が多いから無理に背伸びしていて、その大人っぽく振る舞おうとする自分を甘やかしてくれたのかなって…」

ゲンヤの口にした「母親」というフレーズから逃れでもするように、なのはの喋り方に十代の女の子のような甘さがみえはじめた。

「泣く子も黙るエース・オブ・エースが泣き言かい? 珍しいな」
「おかしいですか?」
「いんや、一向におかしくはねぇさ。ああみえて、八神はけっこう俺に愚痴を吐きに来たもんだ。はじめて小隊の指揮をとらせたときもな。おめぇさんは、ひょっとしたら、そういう悩みを受けとめてくれるような上司や先輩格がいなかったのかい?」
「そうですね。戦技教導官という役職では、基本的に上も下もないですから。生徒の前ではみな指導者というラインに立ってるだけで。指導方針には、同僚間で口を挟まない主義ですし、とくにわたしの所属する航空部隊は自由な気風で通っていますから」
「ま、本局の陸(おか)の縛りは異常だからな」

そう言うなり、深々と息を吐いたゲンヤの様子から、常日ごろの地上本部でのしがらみ、気苦労の度合いがひしひしと察せられるのだった。

「実の親御さんには相談したりしねぇのかい?」
「あはは、まさか。仕事のことはあまり伝えないようにしてるんです。管理外世界に対する守秘義務はもちろんですけど、やっぱり心配をかけたくはなくて」
「心配性なのは、お袋さんのほうだろな。母親ってのは、そういうもんだ」
「はい」

相づちを打ちながら、なのはの脳裏に、もう遠い昔に思える状景が淡くよみがえってきた。




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