陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。

「FFF Project」 Act. 4

2006-09-05 | 感想・二次創作──魔法少女リリカルなのは

「いえ、登校中です。おかまいなく。ご案内します。ご一緒にどうぞ」

俄然、行く気がでてきたのか、少女は安心したようにずんずん先を進みだした。
あとから追いかけたクロノは、すぐに追いついたが微妙に距離を保ったままだ。二人の子を持つ親とはいえ、十代そこらの若い女の子と二人っきりで歩く姿を目撃されるというのは、いまの時代、あまり歓迎されないもので、場合によっては変な勘ぐりをされかねない。女子生徒のほうも案内を買ってでたわりには、こちらを待つふうでもない。彼女は先を急いでいたというよりは、横に並んで話しかけられないように歩幅を早くしているふしが感じられた。

「質問いいかな。君は中等科の生徒か?」

前を向いたまま、少女はこくりと頷いただけだ。

「初等科に兄弟や友だちがいたりはしないか?」

少女は無愛想な表情を変えないまま、またひとつ、ぎこちない首の動きでノーと答えた。

「ここの中等科には、参観日はないんだろう?」
「もしあったとしても、わたしには無用です」

てっきり、三番目も素っ気ない頷きですますものと思っていたのに。
少女がとつじょ立ちどまり、あいかわらず変化に乏しい顔つきで言ってのけたので、クロノはやや面食らっていた。

「いや、これは失敬。余計なことを聞いてしまったかな」

どこかしら寂しげな目つきをしているものだから、うっかりあれこれ聞きたくなってしまったのを反省した。家族のいないことを思い出せて、泣かせてしまったりしたらどうしようか。エイミィのような陽気なお喋りさんならともかく、どうも繊細そうな女の子の扱いには昔から慣れていない、クロノの胸にじんわり苦い想いがこみあがってきた。

「わたしには必要ないです。わたしに必要なのは、たったひとつしかないから…。この拳の強さだけしか…。わたしは彼に誓いました。かならず強くなってみせると」

切なそうに言いおいて、少女は右の拳をつよく握りしめた。
片手で取り急ぎ巻いたような包帯が、ブラウスの袖口から覗く手首から指の付け根まで見えた。衣替えがはじまった六月だというのに、露出の少ない長袖を着ている生徒というのも奇妙に思った。

「彼というのは…君の大事なひと?」
「父なる神といえば、そうでしょう。敬愛すべきいにしえの世を統べた王、しかし、彼はあまりに悲しい終わりを…」
「それは気の毒だったね。きっと君をよほど愛してかわいがってくれたんだろう」
「…いいえ。かってな私淑です。わたしは彼に会ったことさえありません。でも、彼の哀しみが嫌というほど、我が身にあふれては我がこころを突き動かす…」

まなじりの端を光らせた少女は、さかんに瞬きしながら、そこで口をつぐんでしまった。
あまりに少女らしくない臈長けた物言いが気がかりだった。しかし、深く探るような質問をするのが、クロノには憚られた。

少女に導かれて歩くこと、十分ほど。
とちゅう、よく整備された大きなグラウンドを通り抜け、野鳥や天然植物を保護している静かな森を横にした道をたどり、やっとこさ、三階建ての新しい建物がみえる地域に着いた。

どうやら、先ほどのクロノは中等科校舎のほうへ進んでいたらしかった。

ジャンル:
小説
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