陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。

「Each of Fields」 Act. 5

2006-09-08 | 感想・二次創作──魔法少女リリカルなのは

グラスを傾けるのが似合う年月を重ねたハラオウン兄妹は、それぞれの懐にしまってあったあたたかな想い出話に浸りきっていた。

「あ、でも…」と言いおいて、フェイトはくすくす笑いを洩らした。
怪訝そうな顔つきのクロノは、「なんだ?」と問い返さずにはいられない。こういう女性特有の含み笑いをされると、邪気がないとわかっていても、なんとなく小馬鹿にされたような気分に陥ってしまうのが、クロノ提督のいかにも生まじめすぎるところ。

「ほら、覚えてない? あのあとに…」
「高町のお父さんを借り出してめでたし、めでたし、という話だったはずだが?」
「二人してトップでゴールインしたんだけどね。けっきょく、二番目に回されたんだ」
「そうだったのか?」

観覧席で遠巻きに眺めていたクロノの記憶は、その後、喫茶翠屋のエプロンをつけた男が、ご近所連中の大歓声に迎えられて戻ってきたところで閉じられている。母のリンディがあらためてお礼を述べにいくまでに、高町士郎は、赤らめ顔の商工会の会長に肩を叩かれながら焼酎を注がれ、ご婦人方からはおつまみのさしいれが絶えず、歓待の山々を断りきれなかったまでを。

とてもささやかな救いではあったけれど、それが、あれほどの反響を呼ぶなんて。
多くの人を救うべく、ただひとり次元の海の戦艦と命運を共にした父親の境遇と比べたら、なんてちっぽけな武勇譚なのか、と思わないことはない。けれど、そんなちいさな英雄が誕生する平和で豊かな世界が、呼吸するのとおなじくらいあたりまえのように続くことを、つねづね父は願っていたし、クロノもそうありたいと望んでいる。

「それが、札には『オヤジにオンブ』って書いてあったから」
「なんだ。フェイトもうっかりさんだな」
「だって、無心に走る士郎さんに言い出しにくくて。それに、いくら友だちのお父さんだからって、『オヤジ』扱いされたら嫌だろうし…」
「それも、そうだ」

フェイトが観覧席の前で、長いこともたついていた事情もわかるというもの。ただの男の人ならともかく、いじわるな注文をつけるものだ。ちなみに、こういう無茶ぶりなオーダーは、体育祭の実行委員会が父兄との交流を深めるべく一般募集しているらしい。

「私も士郎さんに、手をひっぱられるだけで、もう感激しちゃっていたから」
「兄貴としては、なのはの親父さんでよかったと思うな」

俺だって背負ってやったことないのに、他の男に触らせてなるものか、という敵愾心をやんわりと包んで口にしたつもりだったが、フェイトは「なのはの」家族だから、という部分に同意してくれたものと思い込んでいる。

「士郎さんだったら、頼めばおぶってくれたと思う。だけど、なのはの見ている前では恥ずかしかったし」
「親友の父親に甘えているとすまないと思うものな。そういや、桃子さんが『士郎さんたら、私と並んで歩くより嬉しそうだった』って、うちの母さんにぼやいていたよ」
「じゃあ、やっぱり言い出さなくて正解だったね」

フェイトは力んで笑ってみせたけれど、内情はクロノの思うところとは違う。


ジャンル:
小説
この記事についてブログを書く
« 「Each of Fields」 Act. 6 | TOP | 「Each of Fields」 Act. 4 »
最近の画像もっと見る

Recent Entries | 感想・二次創作──魔法少女リリカルなのは