陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。

日本人労働者は知っている

2018-11-17 | 仕事・雇用・会社・労働衛生

米国文学の巨人ジョン・スタインベックの『怒りの葡萄』は、貧しい農民一家のロードストーリー。凶暴な砂嵐と機械化のせいで住み慣れたオクラホマ州の耕作地を失った三世代はおんぼろトラックに乗り込み、一路、カリフォルニアを目指す。病に倒れ、人生の行く末を嘆いて家族の一部が欠けるものの、やっとこさ辿り着いた西部。しかし、そこは仕事にあぶれ、賃金をダンピングされて低い日給でやっとこさ食いつなぐ、労働者たちの溜まり場だった。ストライキを煽ろうとした者は捕縛され、警察に倫理はなく、やがて自然災害が無情にも襲いかかり──。およそ80年前、1930年代の大恐慌を背景に描かれた現実に近い文学ですが、いまでも通用する真実をもの語っているといえるでしょう。資本主義には血も涙もない。

日本では、江戸時代まで人は土地に縛られていました。
労働力そのものが、大名領主の資産だったからです。しかし、維新後の地租改正で土地そのものが登記され資産価値あるものとして売買できるようになると、田舎の土地を売って都会で働いたり、北海道などへの新天地へ開拓民になる者もいます。ブラジルには日系二世、三世の移民がいますし、太平洋戦争前には満州国で商いを成功させて裕福な暮らしをしていた日本人も少なくはありませんでした。

いま、日本人が海外で働くと聞けば、そこに悪いイメージはありません。
エリートサラリーマンが商談で海外を飛び回ったり、エンジニアが途上国のインフラ整備をしたりする。そんな優雅な働きぶりを夢想する。しかし、そのいっぽう、少子化が進んでいく我が国では目下、深刻な人手不足に陥り、補っているのは外国人労働者。その数、昨年の統計で128万人とされています。

この度の臨時国会での焦点となったのは、外国人労働者就労拡大のための、出入国管理・難民認定法改正案。
すでに閣議決定され、早ければ来年4月1日よりの施行をもくろんでいます。受入れは14業種とし、さらに初年度は4.7万人、2019年度からの5年間の受け入れ人数は34万人と上限を決める方針。これまでは医師や弁護士やらの「高度な人材」に限っていていた外国人労働を単純労働に門戸を開いたのは、それだけ、その分野の人手不足が苛烈を極めるからです。

この出入国管理・難民認定法改正では、在留資格を新たに設けられました。
単身で5年限定就労の「特定技能1号」と、より熟練した技能者として認められ、家族も帯同でき事実上永住も可能な「特定技能2号」。

受入れ業種は、
農業、漁業、飲食料品製造業、外食、介護、ビルクリーニング、素形材産業、産業機械製造業、電気・電子情報関連産業、建設、造船・舶用工業、自動車整備、航空、宿泊。

しかし、すでに外国人技能実習生を受け入れている業界もあります。
その技能実習生について、気がかりな調査が公表されました。法務省によれば、実習先からの失踪者が昨年は7000人超え。今年は上半期だけでもすでに4300人近く。失踪の動機で多かったのは、やはりといえばやはりですが、7割弱の「低賃金」でした。フルタイム労働にもかかわらず、月給10万円以下で、最低賃金以下であったという。失踪したのち、より高給をもとめて、建設現場や工場で不法就労しているケースが多かったとか。技能実習では職場を変えることができないためです。

このたびの法改正による「特定技能」では、同一業種であれば転職も可能。
給与は「日本人と同等以上の水準」とし、派遣はおこなわず、社会保険完備の企業に限るとしています。

日本人労働者として心配なのは雇用が奪われることでしょうが、そもそも、なぜ人材不足が起きるのか。ブラック業界として嫌われる労働現場があり、過労死やパワハラが蔓延している。安全配慮義務の欠如や、サービス業での顧客のハラスメント。労働現場の課題が何らも解決していないのに、海外に門戸を開いてもだいじょうぶなのか。非正規雇用が多く、待遇が悪い職場は、職場いじめが多い。

外国人労働者による健康保険のただ乗りや、受取年金の海外移転も気になりますよね。
そもそも一番怖いのは、外国人労働者を受け入れることによって日本国内の賃金のダンピングを行いたいという企図が経済界から見えること。

それに、大相撲の外国人力士への冷遇からもわかるように、日本人ならではの閉鎖的コミュニティも気になります。
外国人向けの教育も企業の負担になり、学校では外国人の子の扱いに苦慮している。民泊の訪日外国人の騒動でも物議をかもしていたりもする。日本語教師資格を設けるとはいうけれど、治安の悪化や、ドイツのような寒村にイスラム系の難民移民が押し寄せる事態を懸念しないわけにはいかないでしょう。そもそも、人手不足になっているのは、地方ですからね。

人手不足は現に生じているし、今後の生産年齢人口を考えると、外国人受け入れ拡大は苦肉の策なのでしょう。
でも、辛抱強いはずの日本人でさえ逃げ出す職場に、アジア圏の労働者が奴隷まがいで連れてこられて我慢して働いてもらえるでしょうか。韓国で生じた徴用工の国家賠償を蒸し返す判決がそうであったように、外国人を酷使したらむしろ国家予算や外交を揺るがせかねないような国際問題に発展しないとも限りません。そもそも日本語を習得できるぐらいの知能の高い外国人はかなり頭がいい人が多いので、いつまでも都合のいい単純労働者として利用できるとも思えませんし。

ひとつ希望があるとすれば。
むしろ海外からの意見を取り入れて、日本人が苦渋していたブラック環境がよくなることではないかということ。禁煙場所が増えるように、労働環境の悪さが企業ブランドに響くという意識が高まればよいのですが。

手っ取り早く安くこき使え、いつでも使い捨てられる労働力として外国人労働者就労拡大を図るのは、小泉政権時の非正規労働者拡充につぐ愚策ではないのでしょうか。もうすこし、慎重に審議していただきたいものです。


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