通り道の両サイドに沿って立っていた招待客の歓声と、湧き上がる拍手に送られながら、はやては進む。そこに並ぶ顔触れは、この十年近くもの年月、苦しいことも楽しいことも分かちあってきた仲間だった。機動六課も解散し、大きな事件も起きない今となっては、一堂に会するのが貴重な機会ともいえる。
ケーキ皿まで辿り着くと、とたん、大きな歓声があがった。
その側には小人サイズのリインとアギトが待っていた。白と黒の色違いで、背中に翼をあしらった妖精のような衣装でめかしこんでいる彼女たちは、ライターを帚にまたがった魔女のように抱えながら、ケーキの周囲を逆回りに半周した。白いクリームに環状にならんだ、棒のように細いカラフルな蝋燭に火がともされた。
「あれ? なんか、一本多くないの?」
「それは、おまけです」
はやてが吹き消そうかと、顔を近づける。…と、蝋燭かと思われた右端に斜めになった一本の先端からは、火花が、パチっ、と弾け飛びはじめた。
「…うわ、熱ぅッ! なんや、なんやァ?!」
鼻先をかすめそうになった、焔の細かな亀裂にのけぞって、はやては驚き顔。
いっぺんに酔いが払われた、まさに真顔になったその瞬間を逃さずに、フラッシュが焚かれた。シャッターを切ったのは、いつのまにか人垣の最前列に出て、やや下から見上げるアングルでカメラを構えていたシャリオ・フィニーノだった。
さらには、はやての頭上を、かすかにぶぅん、ぶぅん唸る音が回っている。
旋回している、トンボのような小型飛行機には、特殊なレンズが埋め込まれている。てのひらで隠しかくししながら撮影していたのは、日ごろのたくみな操縦術で馴らしたアルト・リニエッタ。開発者とおぼしきマリー技官が、さもすまないといったふうに、慎ましげに笑んでいる。おそらく裏で糸を引いていたのは、そのすぐ後ろでにたにた笑っているヴァイスだろう。
さきほど、シグナムとのツーショットに割り込んで、いじり倒したお返しのつもりか。
気をとりなおして、はやては背筋を伸ばして、ちりちりと閃光をほとばしらせるケーキの前でさも嬉しそうに両手をひろげた。
「ああ、びっくりや。爆弾ケーキやったんか。せっかく、感激の演出でしんみりしとったのに。まあ、ええわ。これも一興やなァ」
やや額に冷や汗の滲んだはやてを慰めるように、二揃いの小さな花束が踊りあがってきた。ふんわりと甘い花の香りを放つブーケをしぼった大きなリボンから、リインがひょっこりと顔を出した。
「はやてちゃん、ハッピーバースディですぅ!」
その声につづいて、部屋の方々からいっせいに、誕生日おめでとうを告げる声が続々と、はやてに届けられた。なんて、フォローのうまい。
【目次】魔法少女リリカルなのは二次創作小説「Fの必要」シリーズ