SNSに広がる過度なダイエット投稿 小学生まで?命の危険も… NHK 2025年4月12日 17時13分
『150センチ、30キロ…』
『10日でマイナス7キロ…』
SNSであふれる、くびれや足の細さを強調した動画。
そうした動画の姿に憧れて過激なダイエットにのめり込んだ結果、拒食症などとも呼ばれる摂食障害になるケースも相次いでいます。
「あの動画さえ見なければ…」
「SNSの動画がなかったら私はたぶんこんな過激なダイエットをしていなかった」
こう話すのは大学3年生の潤さん(20)。高校1年生の時に摂食障害と診断されました。
始まりはコロナ禍の2020年。外出が減って体重が増え、減量しようと思っていたときにTikTokで流れてきたのがダイエット後のスタイルを強調する女性の動画でした。
160センチあまりの身長に体重が30キロ台。全身を撮影したものや、細い手足を強調した内容だったといいます。
潤さん
「すぐにフォローして毎日欠かさずチェックをして、自分も負けないぐらい痩せたいと思って競争心を抱くようになりました。そこからダイエットにのめりこんでいきました」
テニス部だった潤さんですが、部活を終えて帰宅したあとも、夜にランニングを何時間もするようになりました。
それだけでは足りないと思い、TikTokやインスタグラム、YouTubeで家でできる運動を調べ、実践していきました。
みずからに課していた食事制限もどんどん加速していきます。当初1日1000キロカロリー以内と決めた目標は、体重がなかなか減らなくなると500キロカロリー以内、そして100キロカロリー以内に。
体重計には1日5回乗ってグラム単位の増加も許せなくなり、しまいには食べ物を受け付けなくなってしまいます。
潤さん
「増えていたらだめで、もっと食べる量を減らさないといけないんだって思って。最後のほうには野菜のカロリーすら怖くなっちゃって1日水だけで過ごすという日もありました。30キロ台の体重の女性の体に近づいているかどうか自分の体重と見比べてチェックしていました。一日中頭の中は、食べ物のカロリーだとかもっと運動しなきゃという考えばかりでした」
母親の玲子さんは最初、よくあるダイエットだと思っていたといいます。
玲子さん
「塾にも行っていたので帰宅は遅かったのですが、帰ってくると『夕飯は塾に行く前に買って食べたからいらない』と言うんですね。お弁当も時間がなかったからと言って少し残してくることもありましたが、空で返ってくることもありました」
「命の危険が迫っている」
しかし、ダイエットを始めて4か月がたったころ、潤さんの異変に強い不安を感じるようになっていきます。
潤さんは、料理をする玲子さんのあとをついてまわり、何が使われているかカロリーを気にしたり、買い物ではカロリーを確認して食材をかごに入れたりするようになりました。運動をしていない時はずっとスマホから目を離さないような状態だったといいます。
玲子さん
「『ちゃんと食べて』と言ってけんかになることもありました。ダイエットをやめてくれるんじゃないかという思いもありました。まさか摂食障害に、自分の子がなるわけがないと思っていたし、そうではないと思いたかった部分もあったのかもしれません」
そのやさき、学校から「やせすぎて骨があたって痛いのか体育座りができなくなっている。同じような状況で摂食障害だった生徒がいたから病院に行ったほうがいい」と連絡がありました。
そして、摂食障害の1つで拒食症とも呼ばれる「神経性やせ症」の診断をうけて入院。158センチの潤さんの体重は一時31キロまで減少しました。
入院3日目の潤さん
玲子さん
「命の危険が迫っているよっていうふうに先生に言われて、どうにか娘を助けなきゃという思いでした。もっと早く気付いてあげられたらよかったというのが一番の後悔です」
一方、「体重を減らしたい」という思いばかりにとらわれ、自分が「やせている」という認識がなかったという潤さんは、入院した当初、なぜ自分が入院しなければならないのか理解できず、怒りを感じていたといいます。
しかし、数日が経過したある日。入浴の際に鏡にうつる自分の体を見たとき、がく然とします。
潤さん
「『骨と皮しかないじゃん』って。自分は絶対にならないと思っていた病気なんだっていうふうにその時に急に思いました」
そこから徐々に食事をとる努力を重ね、いまは健康な状態だという潤さん。当時のことを振り返って…。
潤さん
「SNSの動画がなかったら、私はたぶんこれほど過激なダイエットをしなかった。目標とする体重や食事はSNSから情報を得て、その情報だけにとらわれてしまっていました」
「SNSは生活でなくてはならないものですが、中には誇張したものやうその数字や内容も混ざっているので、それを踏まえたうえでうまくつきあう必要があったと思います。痩せたいと思った時に、もしかしたらまた過激なダイエットにまた走るかもしれないという思いが私の中にあります。だから誰にもこの病気にはなってほしくないです」
【配信はこちら】キャスターがプレゼンで解説サタデーウオッチ9「デジボリ」
4月19日(土) 午後10時まで配信
広がる「#ダイエット記録」
ダイエットに関する投稿はSNSにあふれています。
みずからの「ダイエット記録」を公表したり、「ダイエット仲間」をつくるような動きも盛んになっています。
NHKがSNSで「#ダイエット記録」を検索したところ、投稿は動画配信アプリ「TikTok」で17万件以上、「インスタグラム」では319万件以上、さらに「#ダイエット仲間募集」では2万件、176万件以上の投稿があると表示されました。
こうした投稿やそのコメント欄では、韓国のK-POPアイドルのようなスタイルや、健康的ではないBMI値や体重を目標としている書き込みのほか、短期間のダイエットのため、過度な食事制限や運動を薦めたりするようなものも多くみられます。
また、これらの投稿を繰り返している「インフルエンサー」のなかには、画像や動画を加工したとみられる不自然なほど身体の細さを強調した投稿を掲載し、サプリメント販売に誘導しているアカウントも、複数確認できました。
注目
小学生のダイエットグループも
SNSでの過度なダイエット競争は、小学生や中学生にも及んでいます。
匿名でやり取りができるSNS「LINEオープンチャット」では、小中学生、それに高校生がダイエットに関する情報や、みずからの体型について相談し合うグループが50件近く見つかりました。
チャット上のやりとり(再現)
なかには、「小学生女子限定」「中学生女子限定」などとうたうグループや、200人以上が交流しているグループも。
みずからの体型と目標体重をシェアし励ましあうような内容が中心ですが、ほかのSNSと同様、健康的ではないダイエット方法や目標体重が投稿されていたほか、「食べられない」「吐くまで食べた」などと、拒食症や過食症の症状とみられる相談がなされているものもあります。
また、「減量大会」などと称して、期限を区切ってダイエットを競い合うようなやり取りもみられました。
SNSアルゴリズム・閉鎖的な環境の影響が…
摂食障害の子どもの患者を治療する獨協医科大学の作田亮一特任教授は、摂食障害につながるダイエットなどへの依存を加速する要因として、SNSのオススメのアルゴリズムと閉鎖的なコミュニティの影響を指摘しています。
作田特任教授
「SNSとの関係については、非常に危機感を持ちながら診療しています。アルゴリズムは同様の内容を繰り返して目に触れやすくなるような作り方になっているので、狭い中での情報に依存しやすくなります」
「また、もともと摂食障害に陥るお子さんは頑張り屋さんが多い。閉鎖的なコミュニティでは、子どもたちだけの世界でダイエットを競うわけですから、そこにちょうどはまってしまうような形を作りやすいと考えられます」
「思春期の後期の人たちが多かったのですが、最近は小学校3年生ぐらいから発症するようなケースも増えています」
そのうえで、命に関わる病気だとして警鐘を鳴らします。
「摂食障害は子どもでもうつ症状が強くなり、その中でとても体重や体型にこだわってしまうという精神的な症状が強く出ます。極端にダイエットが進んでいくので、低栄養状態が慢性的に進んで命に関わる場合があります」
SNSの影響に危機感を持つ10代
若い世代の摂食障害に影響を与えるSNS。そうした現状に危機感を持って動き出した10代がいます。
指導教諭と話す松浦さん(中央)
3月、神戸大学附属中等教育学校を卒業した松浦さん。
女子高校生の摂食障害についてインスタグラムが持つリスクを調べ、卒業論文にまとめて生徒360人を前に発表しました。
きっかけは、みずからのタイムラインがダイエットに関する投稿であふれたこと、そうした投稿にみずからも影響を受けていることに気が付いたことでした。
松浦さん
「学校ではダイエットの話にもなるし、運動もしていたのですが、気付くと毎日見ていたインスタグラムがダイエットの画像でたくさんになっちゃって。食事のレシピがたくさん並んできたり、運動のしかただったりこの女優さんはこんな体型だとか、そういった投稿ばかりになっていました」
「何が食べたいとか、これが好きだから選ぶとかではなくて、これが何キロカロリーだから選ぶとか、そういった自分の選択に、ダイエットに関する投稿が干渉してきていると感じたのが、危機感のきっかけです」
授業の探求学習として、高校2年生のころから、摂食障害とSNSの関係について調べ始めた松浦さん。
学校の同級生へのアンケート調査や、摂食障害の経験者へのインタビューも実施しました。
ヒアリング項目をまとめたシート
その結果、ダイエットや細身のモデル、そしてトレーニングに関する投稿が、摂食障害を助長しかねないことがわかったといいます。
さらに、インスタグラムに多くある「ダイエットアカウント」や、横のつながりを持って食事や運動、体重の記録を投稿しあうような「ダイエット仲間」の存在も浮かび上がりました。
松浦さん
「経験者の1人は、自分のダイエットがちゃんとできているか、ちゃんと運動しているかを監視し合うような、そんな環境を作ってダイエットを取り組んでいたんです。きょうはこんなものを食べた、こんな運動ができた、体重は何キログラムだった、そのような記録を残す。義務のように感じていた、苦痛に感じていたというふうにも語っていました」
身近で手軽、だからこそ
発表をする松浦さん
SNSは「アルゴリズム」によって、いいねをしたり、よく見たりする投稿と同じようなものばかりが出てきやすい仕組みがあります。
松浦さんは、一度リスクのあるコンテンツを見始めてしまえば、そればかりが出てくるようになってしまうとして、身近で手軽だからこそ、影響を受けることがあることを知ったうえでSNSに接してほしいと訴えました。
松浦さん
「自分の力でやめるのは難しいかもしれないけれど、こうしたリスクをもっと知ってもらったら、いまごはんが食べられなくて困ってるとか、SNSにダイエットの情報ばかりあふれてきて困っている人たちが危機感を持って、周りの大人に助けを求められるかもしれません。一方で困っている子が周りにいたら、適切なケアを受けるために、友達が協力できるかもしれません」
松浦さんが再現したインスタグラムのダイエット投稿
では、もし自分のタイムラインがダイエットに関する投稿などであふれてしまっていたらどうすればよいのか。
松浦さんは、「意図的に見ないようにすることが大切」と話します。
松浦さん
「今一度どんなコンテンツを見て投稿しているのか、見直してほしいというふうに思っています。体のコンプレックスを刺激するものや、不健康なダイエットや食事、運動に関するものが含まれているかもしれません。そんなときはそのようなコンテンツを見るのを意図的にできるだけやめて、より快適で健康なSNSの使い方を検討してみたらいいと思います」
一方、学校現場では、こうした実情はまだまだ把握されていないといいます。
指導を担当した泉美穂教諭は、松浦さんの調査を通じて知ったことを今後の授業などにも生かしていきたいと話します。
泉教諭
「中高生は見た目を気にする時期。生徒の体型の変化やコンディションの崩れを何が引き起こしているか、なかなかわからないところもあります。人間関係などの要因もありえるなかで、一つの引き金としてSNSがあるかもしれないということを知れたのは、私自身にとっても大きな学びになりました。SNSの使い方、リテラシーの面で、授業の中で取り扱ってもいいのかなとも思っています」
海外ではより深刻に
SNSが摂食障害に与える影響について、海外ではより深刻な事態が明らかになっています。
16歳未満の子どものSNS利用を禁止する法律が成立したオーストラリアでは、摂食障害の末に14歳の少年がみずから命を絶ちました。
アメリカでは10代のころに、アルゴリズムでダイエットや食事制限の情報が次々と表示され、SNSに依存して摂食障害やうつ病になったとして女性と家族がプラットフォーム事業者に対して訴訟を起こしています。
プラットフォームの対応は
日本でも海外でも問題が指摘されているSNSの摂食障害への影響。SNSを運営するプラットフォーム事業者はどう対応しているのか。
NHKの取材に対して、各社は以下の回答を寄せました。
インスタグラムを運営するメタの日本法人は、10代の利用者について年齢に適したコンテンツのみを閲覧できるようにして、違反するようなコンテンツの削除に加え不適切なコンテンツはおすすめに表示されないようにしていると回答。
TikTokを運営するバイトダンスの日本法人は、未成年者の安全に関するポリシーに違反するコンテンツについては徹底排除するアプローチを採用していて、検出した場合は削除する対応を行っているとしています。
また、コミュニティガイドラインには「摂食障害とボディイメージ」という項目が設けられていて「有害な可能性がある体重管理を表示、または助長する、あるいは減量または筋肉増量製品を販売している場合は、コンテンツに年齢制限が適用され(18歳以上)、おすすめの対象外となる」と記載されています。
小学生や中学生がダイエット情報をやり取りするオープンチャットを運営する「LINEヤフー」は、4月10日、「過度なダイエットなど摂食障害を助長する行為の取り締まり」を強化していると公表しました。
また、4月11日からは、すべてのオープンチャットの利用者に対しても直接、「そのダイエット、正しいですか?」などとする注意喚起を表示しました。
注意喚起では「過度なダイエット」のリスクとともに、「過食、拒食、摂食障害を助長する投稿」の例をあげていて、該当した場合は投稿やチャットの削除、利用停止の措置などをとる可能性があるとしています。
LINEヤフーによりますと、過度なダイエットや摂食障害のリスクを高める投稿は、これまでもモニタリングのうえ、禁止規定に沿って同様の措置をとってきたとしていますが、NHKの取材や現状を受け、改めて対応を強化をしたということです。
判断には難しさも
青少年のネットへの接し方や法規制に詳しい上沼紫野弁護士は、プラットフォーム側が投稿の内容を精査・判別して制限をかけることは重要だが限界があるとして、スマートフォンの使用を管理するペアレンタルコントロールを活用して親子の会話を増やすことなどをすすめています。
上沼弁護士
「動画などのコンテンツが、やせているということを推奨するような内容かどうかを判断するのは難しさがあると思います。同じものを見ても受け止め方が違うのでプラットフォーム側で判断してネットの中ですべて対応するというのは現実的ではありません」
「プラットフォームの取り組みに加えて、ペアレンタルコントロールを有効に活用して家庭での気付きのきっかけをつくることも大事だと思います。例えば動画のアプリを長時間使っていることに気付いて、子どもにどんなものを見ているのか聞いてみたり、チャットのアプリを使っていたらどんなことが話題になっているのか聞いてみたり。スマホを渡した直後からそうしたコミュニケーションを取ることも重要になってくると思います」
注目
気付きのポイントは?どう声をかけたらいい?
家族や周りの人たちは何に気をつければいいのか。
摂食障害の子どもの患者を治療する作田特任教授は、塾や習い事などもあって子どもと一緒に食事をする機会が減り、食事量や体型の変化に家庭で気付くのが難しくなっていると指摘したうえで、親に気をつけてほしいポイントについて次のように話しています。
1 食事を一緒にとる機会を週1度でも設ける
2 家族で食べる時に皿からそれぞれが必要な分を取る形ではなく、1人分をきちんと分けて出し、食べているか観察する
3 給食を残すなどの変化を捉えられるよう、学校とのコミュニケーションを取る
そして、子どもが極端なダイエットをしていると気付いた時には…。
作田特任教授
「大切なのは、子どもの行動をいきなり『否定』しないことです。『そんな食べ方したらダメじゃない』『ひどいダイエットは不健康』などと、正論を伝えても、子どもは聞く耳を持たないばかりか、頑張ってダイエットに成功している自分を否定されたと思い込んで反発し、こだわりも強くなることがあります」
「最初の声掛けとしては、『ダイエット始めたの?』と様子を聞いてみて、肯定したら極端なダイエットは身体に負担が大きいことを話し合ってほしいです。仮に子どもが否定したときは『私もダイエットしたことがあるけど難しいよね。健康なダイエットの方法って難しいから、かかりつけの先生に聞いてみようか』『体調は大丈夫?』など聞いてみて、身体的な状態を診察する目的で、医療機関を受診する方向にもっていくのが安全です」
「家庭内だけでの解決は難しいことがありますので、受診を拒否する場合は、学校の担任や養護教諭に相談してみてください」
(機動展開プロジェクト・金澤志江、籏智広太)
『150センチ、30キロ…』
『10日でマイナス7キロ…』
SNSであふれる、くびれや足の細さを強調した動画。
そうした動画の姿に憧れて過激なダイエットにのめり込んだ結果、拒食症などとも呼ばれる摂食障害になるケースも相次いでいます。
「あの動画さえ見なければ…」
「SNSの動画がなかったら私はたぶんこんな過激なダイエットをしていなかった」
こう話すのは大学3年生の潤さん(20)。高校1年生の時に摂食障害と診断されました。
始まりはコロナ禍の2020年。外出が減って体重が増え、減量しようと思っていたときにTikTokで流れてきたのがダイエット後のスタイルを強調する女性の動画でした。
160センチあまりの身長に体重が30キロ台。全身を撮影したものや、細い手足を強調した内容だったといいます。
潤さん
「すぐにフォローして毎日欠かさずチェックをして、自分も負けないぐらい痩せたいと思って競争心を抱くようになりました。そこからダイエットにのめりこんでいきました」
テニス部だった潤さんですが、部活を終えて帰宅したあとも、夜にランニングを何時間もするようになりました。
それだけでは足りないと思い、TikTokやインスタグラム、YouTubeで家でできる運動を調べ、実践していきました。
みずからに課していた食事制限もどんどん加速していきます。当初1日1000キロカロリー以内と決めた目標は、体重がなかなか減らなくなると500キロカロリー以内、そして100キロカロリー以内に。
体重計には1日5回乗ってグラム単位の増加も許せなくなり、しまいには食べ物を受け付けなくなってしまいます。
潤さん
「増えていたらだめで、もっと食べる量を減らさないといけないんだって思って。最後のほうには野菜のカロリーすら怖くなっちゃって1日水だけで過ごすという日もありました。30キロ台の体重の女性の体に近づいているかどうか自分の体重と見比べてチェックしていました。一日中頭の中は、食べ物のカロリーだとかもっと運動しなきゃという考えばかりでした」
母親の玲子さんは最初、よくあるダイエットだと思っていたといいます。
玲子さん
「塾にも行っていたので帰宅は遅かったのですが、帰ってくると『夕飯は塾に行く前に買って食べたからいらない』と言うんですね。お弁当も時間がなかったからと言って少し残してくることもありましたが、空で返ってくることもありました」
「命の危険が迫っている」
しかし、ダイエットを始めて4か月がたったころ、潤さんの異変に強い不安を感じるようになっていきます。
潤さんは、料理をする玲子さんのあとをついてまわり、何が使われているかカロリーを気にしたり、買い物ではカロリーを確認して食材をかごに入れたりするようになりました。運動をしていない時はずっとスマホから目を離さないような状態だったといいます。
玲子さん
「『ちゃんと食べて』と言ってけんかになることもありました。ダイエットをやめてくれるんじゃないかという思いもありました。まさか摂食障害に、自分の子がなるわけがないと思っていたし、そうではないと思いたかった部分もあったのかもしれません」
そのやさき、学校から「やせすぎて骨があたって痛いのか体育座りができなくなっている。同じような状況で摂食障害だった生徒がいたから病院に行ったほうがいい」と連絡がありました。
そして、摂食障害の1つで拒食症とも呼ばれる「神経性やせ症」の診断をうけて入院。158センチの潤さんの体重は一時31キロまで減少しました。
入院3日目の潤さん
玲子さん
「命の危険が迫っているよっていうふうに先生に言われて、どうにか娘を助けなきゃという思いでした。もっと早く気付いてあげられたらよかったというのが一番の後悔です」
一方、「体重を減らしたい」という思いばかりにとらわれ、自分が「やせている」という認識がなかったという潤さんは、入院した当初、なぜ自分が入院しなければならないのか理解できず、怒りを感じていたといいます。
しかし、数日が経過したある日。入浴の際に鏡にうつる自分の体を見たとき、がく然とします。
潤さん
「『骨と皮しかないじゃん』って。自分は絶対にならないと思っていた病気なんだっていうふうにその時に急に思いました」
そこから徐々に食事をとる努力を重ね、いまは健康な状態だという潤さん。当時のことを振り返って…。
潤さん
「SNSの動画がなかったら、私はたぶんこれほど過激なダイエットをしなかった。目標とする体重や食事はSNSから情報を得て、その情報だけにとらわれてしまっていました」
「SNSは生活でなくてはならないものですが、中には誇張したものやうその数字や内容も混ざっているので、それを踏まえたうえでうまくつきあう必要があったと思います。痩せたいと思った時に、もしかしたらまた過激なダイエットにまた走るかもしれないという思いが私の中にあります。だから誰にもこの病気にはなってほしくないです」
【配信はこちら】キャスターがプレゼンで解説サタデーウオッチ9「デジボリ」
4月19日(土) 午後10時まで配信
広がる「#ダイエット記録」
ダイエットに関する投稿はSNSにあふれています。
みずからの「ダイエット記録」を公表したり、「ダイエット仲間」をつくるような動きも盛んになっています。
NHKがSNSで「#ダイエット記録」を検索したところ、投稿は動画配信アプリ「TikTok」で17万件以上、「インスタグラム」では319万件以上、さらに「#ダイエット仲間募集」では2万件、176万件以上の投稿があると表示されました。
こうした投稿やそのコメント欄では、韓国のK-POPアイドルのようなスタイルや、健康的ではないBMI値や体重を目標としている書き込みのほか、短期間のダイエットのため、過度な食事制限や運動を薦めたりするようなものも多くみられます。
また、これらの投稿を繰り返している「インフルエンサー」のなかには、画像や動画を加工したとみられる不自然なほど身体の細さを強調した投稿を掲載し、サプリメント販売に誘導しているアカウントも、複数確認できました。
注目
小学生のダイエットグループも
SNSでの過度なダイエット競争は、小学生や中学生にも及んでいます。
匿名でやり取りができるSNS「LINEオープンチャット」では、小中学生、それに高校生がダイエットに関する情報や、みずからの体型について相談し合うグループが50件近く見つかりました。
チャット上のやりとり(再現)
なかには、「小学生女子限定」「中学生女子限定」などとうたうグループや、200人以上が交流しているグループも。
みずからの体型と目標体重をシェアし励ましあうような内容が中心ですが、ほかのSNSと同様、健康的ではないダイエット方法や目標体重が投稿されていたほか、「食べられない」「吐くまで食べた」などと、拒食症や過食症の症状とみられる相談がなされているものもあります。
また、「減量大会」などと称して、期限を区切ってダイエットを競い合うようなやり取りもみられました。
SNSアルゴリズム・閉鎖的な環境の影響が…
摂食障害の子どもの患者を治療する獨協医科大学の作田亮一特任教授は、摂食障害につながるダイエットなどへの依存を加速する要因として、SNSのオススメのアルゴリズムと閉鎖的なコミュニティの影響を指摘しています。
作田特任教授
「SNSとの関係については、非常に危機感を持ちながら診療しています。アルゴリズムは同様の内容を繰り返して目に触れやすくなるような作り方になっているので、狭い中での情報に依存しやすくなります」
「また、もともと摂食障害に陥るお子さんは頑張り屋さんが多い。閉鎖的なコミュニティでは、子どもたちだけの世界でダイエットを競うわけですから、そこにちょうどはまってしまうような形を作りやすいと考えられます」
「思春期の後期の人たちが多かったのですが、最近は小学校3年生ぐらいから発症するようなケースも増えています」
そのうえで、命に関わる病気だとして警鐘を鳴らします。
「摂食障害は子どもでもうつ症状が強くなり、その中でとても体重や体型にこだわってしまうという精神的な症状が強く出ます。極端にダイエットが進んでいくので、低栄養状態が慢性的に進んで命に関わる場合があります」
SNSの影響に危機感を持つ10代
若い世代の摂食障害に影響を与えるSNS。そうした現状に危機感を持って動き出した10代がいます。
指導教諭と話す松浦さん(中央)
3月、神戸大学附属中等教育学校を卒業した松浦さん。
女子高校生の摂食障害についてインスタグラムが持つリスクを調べ、卒業論文にまとめて生徒360人を前に発表しました。
きっかけは、みずからのタイムラインがダイエットに関する投稿であふれたこと、そうした投稿にみずからも影響を受けていることに気が付いたことでした。
松浦さん
「学校ではダイエットの話にもなるし、運動もしていたのですが、気付くと毎日見ていたインスタグラムがダイエットの画像でたくさんになっちゃって。食事のレシピがたくさん並んできたり、運動のしかただったりこの女優さんはこんな体型だとか、そういった投稿ばかりになっていました」
「何が食べたいとか、これが好きだから選ぶとかではなくて、これが何キロカロリーだから選ぶとか、そういった自分の選択に、ダイエットに関する投稿が干渉してきていると感じたのが、危機感のきっかけです」
授業の探求学習として、高校2年生のころから、摂食障害とSNSの関係について調べ始めた松浦さん。
学校の同級生へのアンケート調査や、摂食障害の経験者へのインタビューも実施しました。
ヒアリング項目をまとめたシート
その結果、ダイエットや細身のモデル、そしてトレーニングに関する投稿が、摂食障害を助長しかねないことがわかったといいます。
さらに、インスタグラムに多くある「ダイエットアカウント」や、横のつながりを持って食事や運動、体重の記録を投稿しあうような「ダイエット仲間」の存在も浮かび上がりました。
松浦さん
「経験者の1人は、自分のダイエットがちゃんとできているか、ちゃんと運動しているかを監視し合うような、そんな環境を作ってダイエットを取り組んでいたんです。きょうはこんなものを食べた、こんな運動ができた、体重は何キログラムだった、そのような記録を残す。義務のように感じていた、苦痛に感じていたというふうにも語っていました」
身近で手軽、だからこそ
発表をする松浦さん
SNSは「アルゴリズム」によって、いいねをしたり、よく見たりする投稿と同じようなものばかりが出てきやすい仕組みがあります。
松浦さんは、一度リスクのあるコンテンツを見始めてしまえば、そればかりが出てくるようになってしまうとして、身近で手軽だからこそ、影響を受けることがあることを知ったうえでSNSに接してほしいと訴えました。
松浦さん
「自分の力でやめるのは難しいかもしれないけれど、こうしたリスクをもっと知ってもらったら、いまごはんが食べられなくて困ってるとか、SNSにダイエットの情報ばかりあふれてきて困っている人たちが危機感を持って、周りの大人に助けを求められるかもしれません。一方で困っている子が周りにいたら、適切なケアを受けるために、友達が協力できるかもしれません」
松浦さんが再現したインスタグラムのダイエット投稿
では、もし自分のタイムラインがダイエットに関する投稿などであふれてしまっていたらどうすればよいのか。
松浦さんは、「意図的に見ないようにすることが大切」と話します。
松浦さん
「今一度どんなコンテンツを見て投稿しているのか、見直してほしいというふうに思っています。体のコンプレックスを刺激するものや、不健康なダイエットや食事、運動に関するものが含まれているかもしれません。そんなときはそのようなコンテンツを見るのを意図的にできるだけやめて、より快適で健康なSNSの使い方を検討してみたらいいと思います」
一方、学校現場では、こうした実情はまだまだ把握されていないといいます。
指導を担当した泉美穂教諭は、松浦さんの調査を通じて知ったことを今後の授業などにも生かしていきたいと話します。
泉教諭
「中高生は見た目を気にする時期。生徒の体型の変化やコンディションの崩れを何が引き起こしているか、なかなかわからないところもあります。人間関係などの要因もありえるなかで、一つの引き金としてSNSがあるかもしれないということを知れたのは、私自身にとっても大きな学びになりました。SNSの使い方、リテラシーの面で、授業の中で取り扱ってもいいのかなとも思っています」
海外ではより深刻に
SNSが摂食障害に与える影響について、海外ではより深刻な事態が明らかになっています。
16歳未満の子どものSNS利用を禁止する法律が成立したオーストラリアでは、摂食障害の末に14歳の少年がみずから命を絶ちました。
アメリカでは10代のころに、アルゴリズムでダイエットや食事制限の情報が次々と表示され、SNSに依存して摂食障害やうつ病になったとして女性と家族がプラットフォーム事業者に対して訴訟を起こしています。
プラットフォームの対応は
日本でも海外でも問題が指摘されているSNSの摂食障害への影響。SNSを運営するプラットフォーム事業者はどう対応しているのか。
NHKの取材に対して、各社は以下の回答を寄せました。
インスタグラムを運営するメタの日本法人は、10代の利用者について年齢に適したコンテンツのみを閲覧できるようにして、違反するようなコンテンツの削除に加え不適切なコンテンツはおすすめに表示されないようにしていると回答。
TikTokを運営するバイトダンスの日本法人は、未成年者の安全に関するポリシーに違反するコンテンツについては徹底排除するアプローチを採用していて、検出した場合は削除する対応を行っているとしています。
また、コミュニティガイドラインには「摂食障害とボディイメージ」という項目が設けられていて「有害な可能性がある体重管理を表示、または助長する、あるいは減量または筋肉増量製品を販売している場合は、コンテンツに年齢制限が適用され(18歳以上)、おすすめの対象外となる」と記載されています。
小学生や中学生がダイエット情報をやり取りするオープンチャットを運営する「LINEヤフー」は、4月10日、「過度なダイエットなど摂食障害を助長する行為の取り締まり」を強化していると公表しました。
また、4月11日からは、すべてのオープンチャットの利用者に対しても直接、「そのダイエット、正しいですか?」などとする注意喚起を表示しました。
注意喚起では「過度なダイエット」のリスクとともに、「過食、拒食、摂食障害を助長する投稿」の例をあげていて、該当した場合は投稿やチャットの削除、利用停止の措置などをとる可能性があるとしています。
LINEヤフーによりますと、過度なダイエットや摂食障害のリスクを高める投稿は、これまでもモニタリングのうえ、禁止規定に沿って同様の措置をとってきたとしていますが、NHKの取材や現状を受け、改めて対応を強化をしたということです。
判断には難しさも
青少年のネットへの接し方や法規制に詳しい上沼紫野弁護士は、プラットフォーム側が投稿の内容を精査・判別して制限をかけることは重要だが限界があるとして、スマートフォンの使用を管理するペアレンタルコントロールを活用して親子の会話を増やすことなどをすすめています。
上沼弁護士
「動画などのコンテンツが、やせているということを推奨するような内容かどうかを判断するのは難しさがあると思います。同じものを見ても受け止め方が違うのでプラットフォーム側で判断してネットの中ですべて対応するというのは現実的ではありません」
「プラットフォームの取り組みに加えて、ペアレンタルコントロールを有効に活用して家庭での気付きのきっかけをつくることも大事だと思います。例えば動画のアプリを長時間使っていることに気付いて、子どもにどんなものを見ているのか聞いてみたり、チャットのアプリを使っていたらどんなことが話題になっているのか聞いてみたり。スマホを渡した直後からそうしたコミュニケーションを取ることも重要になってくると思います」
注目
気付きのポイントは?どう声をかけたらいい?
家族や周りの人たちは何に気をつければいいのか。
摂食障害の子どもの患者を治療する作田特任教授は、塾や習い事などもあって子どもと一緒に食事をする機会が減り、食事量や体型の変化に家庭で気付くのが難しくなっていると指摘したうえで、親に気をつけてほしいポイントについて次のように話しています。
1 食事を一緒にとる機会を週1度でも設ける
2 家族で食べる時に皿からそれぞれが必要な分を取る形ではなく、1人分をきちんと分けて出し、食べているか観察する
3 給食を残すなどの変化を捉えられるよう、学校とのコミュニケーションを取る
そして、子どもが極端なダイエットをしていると気付いた時には…。
作田特任教授
「大切なのは、子どもの行動をいきなり『否定』しないことです。『そんな食べ方したらダメじゃない』『ひどいダイエットは不健康』などと、正論を伝えても、子どもは聞く耳を持たないばかりか、頑張ってダイエットに成功している自分を否定されたと思い込んで反発し、こだわりも強くなることがあります」
「最初の声掛けとしては、『ダイエット始めたの?』と様子を聞いてみて、肯定したら極端なダイエットは身体に負担が大きいことを話し合ってほしいです。仮に子どもが否定したときは『私もダイエットしたことがあるけど難しいよね。健康なダイエットの方法って難しいから、かかりつけの先生に聞いてみようか』『体調は大丈夫?』など聞いてみて、身体的な状態を診察する目的で、医療機関を受診する方向にもっていくのが安全です」
「家庭内だけでの解決は難しいことがありますので、受診を拒否する場合は、学校の担任や養護教諭に相談してみてください」
(機動展開プロジェクト・金澤志江、籏智広太)





