単勝1番人気は、トライアルのローズステークスを勝っている、9・アドマイヤキッスで2.6倍、2番人気は49年ぶりの無敗のオークス馬、12・カワカミプリンセスで3.6倍、3番人気は桜花賞馬の1・キストゥヘヴンで6.2倍。10倍以下の単勝オッズは以上3頭であった。
スタートは各馬一斉に揃う申し分のないもの。その中から8枠勢の17・トシザサンサンと18・コイウタが先頭、2番手で引っ張り、4・シェルズレイが3番手。さらにその後ろ、内を通って16・アサヒライジング。
中団の位置に5・フサイチパンドラとカワカミプリンセスがつけ、さらにその後ろの集団にキストゥヘヴン。アドマイヤキッスはさらにその後ろにつけた。
前がほとんど平均ペースで駆けていたこともあって、差し馬にはいささか厳しい競馬の流れ。アドマイヤは向正面で武騎手の手が若干動く展開。そして、その前にいたカワカミが、3~4角で鞭をしごきながら漸進。4角で前の集団にとりつこうとする。一方、内を常に走るアサヒライジングが満を持して直線に入り、先頭に立つ。
しかし3~4角でエンジン全開モードのカワカミプリンセスの勢いはもう止まらない。まるで男馬のようなすばらしいストライドで計ったかのように最後、半馬身差だけアサヒを退け無敗で秋華賞も制覇。アサヒライジングが2着。3着にはフサイチパンドラが入って、1番人気のアドマイヤキッスは4着止まりだった。
49年ぶりに無敗でオークスを制覇したときにも、牝馬らしからぬスケールの馬にも感じられたカワカミプリンセス。
それは「エリート牧場」で育ったような牝馬らしい作りの馬とは違った、過去を遡ってもこれほど女馬のようには感じない馬も珍しいくらいほどで、オークスの後は山元トレセンなどで入念に乗り込みが行われたが、馬格は春以上のものとなっていた。
京都は通常、芝コースといえば「三の字型」の坂の上り下りがある外回りコースを使用する場合が通例だが、2000Mだけはコース設定の問題があって内回りを使用せざるを得ず、その内回りといえば、外回りとは違って周長が小さい上に坂もなく、言ってみればローカル開催場に近いようなコース。したがって、コーナーワークをうまく利さねばならず、カワカミプリンセスのような雄大さを誇る牝馬にはいささか難しいコースとも思われた。
実際、カワカミは、本田騎手が人気を背負った馬としては考えられない、3~4角における早めのスパートも強いられたわけだが、結局、それが見事に功を奏した格好。直線も300Mちょっとしかないにもかかわらず、ほとんど完璧なレース運びをみせたアサヒライジングを計ったかのように最後捕らえた競馬を見るところ、強いの一言という他ない。
これで5戦全勝。また、1953年にオークスが現在の開催時期に移ってからは、カワカミプリンセスが無敗のオークス馬としては史上初の、秋のG1級レース「無敗勝利」を成し遂げた。これは歴史的快挙である。
次は恐らくエリザベス女王杯。連覇を狙うスイープトウショウとの一騎打ちも今から予想されるところだが、牡馬との戦いは来年ということを陣営は見据えているらしく、それが終わったら休養に入るかもしれない。
ただ、牡馬と交えて戦っても、この馬は相当に強そう。
アサヒライジングは前走のアメリカンオークス招待では完全に差す競馬に徹して2着。もともと逃げ馬だったこの馬が明らかに新境地を見せての健闘だったが、今回は前々での競馬でしかも経済コースを終始通るという、ほとんど完璧なレース運び。直線で先頭に立ったときは、もうほとんど勝利はもらったようなものと思ったはず。
だが、カワカミプリンセスがあまりにも強すぎた。この馬としては全く申し分のないレースであり、今後も好位置から抜け出す競馬を心がければ、牝馬相手だと常に上位に食い込むのでは。
フサイチパンドラも、最後は好素質馬の片鱗を見せて3着に食い込んだが、如何せんG1を勝つためには勝ちパターンというのか、型を持ち合わせていない感じが見られ、もうちょっとパワーがほしいところ。
アドマイヤキッスは終始流れが向かなかったばかりか、勝負どころでカワカミの思い切ったスパート策に手を打てなかったのが敗因。直線に入って漸くこの馬らしさを見せたものの、時既に遅し。キストゥヘヴンも同様に終始流れの向かないレースを強いられ、着順掲示板も逃した。